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にわか冒険者の破天荒な一年間 ~世界の王にあたしはなる!  作者: 満原こもじ


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第537話:枝変わりのお茶の可能性

 スリ男シルヴァンが弾んだ口調で言う。


「じゃあ、帝国にはザバンの茶は売れるんだな? リリー皇女が気に入るほど有望なだから」

「ところがそんなに簡単でもない」

「おいこら、精霊使い!」


 スリ男が怒るけど、問題はあるに決まってるだろ。


「皇女リリーはザバンのお茶を飲んで、帝国本土のものと遜色ないと言ったんだ」

「結構な評価じゃねえか。どこが悪いんだ?」

「悪くはないけど、比較して優れてもいないってことだよ。品質が同じだったら輸送費かからない分、安い国内産買うでしょ。普通なら」

「「……」」


 黙る二人。


「帝国は人口が多いから、ドーラ産っていう物珍しさもあって売れることは売れると思うんだ。でも価格をあんまり高く設定できないな」

「いや、でもメチャクチャ安いってことはないわけだし、数が出るのは助かるな」


 テオさんは努めて明るく言う。

 しかしシルヴァンは高く売れないのが面白くないらしい。

 そりゃあたしだって面白くないが、経済の理屈は動かせない。

 お値段は価値がどんだけあるかに従うのだ。


「ザバンにしかないお茶、みたいなすごいやつがあれば違うと思うんだけど」

「「ある」」

「え?」


 二人してあると言い切ったぞ?

 なのにテオさんもシルヴァンも顰めっ面ですが?

 そんなもんがあるなら、広く宣伝して売りつけりゃいいじゃないか。

 何を迷うことがあるんだろ?

 

「……来てくれないか」


 テオさんに案内され、茶畑の隅の方へ。


「あれ、この辺だけ葉っぱの色が違うじゃん」

「匂いも違うだろ?」

「……あっ! 仄かに甘い感じがする!」


 特別なお茶みたいだ。

 満足げに顔を見合わせるテオさんとシルヴァン。


「これのお茶、飲んでみるかい?」

「ぜひ!」


 小屋に戻ってお茶を出される。


「明らかにさっき饅頭屋で出されたお茶よりいい匂いなんだけど?」

「言っとくがうちは旅人相手の軽食屋だ。饅頭屋ではないからな?」

「いいから味見してくれ」


 一口啜る。


「ふあっ!」「「「!」」」


 これはいい!

 渋みが少なくてダイレクトに嗅覚を刺激する。

 心地よい後味が幸せの余韻に浸らせる。

 うちの子達も大いに気に入っているようだ。


「これはおいしいねえ!」

「だろう?」


 だからどーしてスリ男シルヴァンが得意げなのだ?

 もう一つ納得いかないんだが。


「一〇年ほど前に枝変わりで出たものを増やしてみたんだ。初めはこれほどのものと思わなかったんだが、茶を淹れてみてビックリした」

「発酵度低めじゃないと良さが出ないらしいぜ」


 おいしい分だけ扱いが難しいお茶ってことか。

 そーゆーことはあるかもな。

 いずれにせよこれは素晴らしい。


「これ皇女リリーに飲ませてみるよ。売って?」


 困った顔をするテオさん。

 スリ男も?


「……ダメなんだ」

「もうどこかと専属契約してるんだ?」

「専属契約はしてないけど。この茶葉はザバンの水でないとこの味が出ないんだ」

「は?」


 スリ男が説明する。


「最初に気付いたのは俺だ。この茶なら絶対に良さがわかってもらえると思ってな」

「うんうん、こんなんお茶飲んだことがなくたって美味いわ。とゆーかこのお茶に慣れちゃったら他のは飲めないわ」

「だろう? 各地にばら撒いたんだが、どうも反応が今一つだったんだ。不思議に思ってカトマスで俺自身が淹れて飲んでみたが、味がのっぺりしちまって普通の茶と変わらねえんだ。レイノスでも同じだった」


 ははあ、だからザバンの水でないとこの味が出ないとゆー結論になったのか。

 めんどいお茶だなあ。


「シルヴァンはどうしてザバンのお茶の普及活動だか布教活動だかをしてるの?」

「お茶がものになれば、ザバンの名を知らしめることができるからな」


 根底にあるのは、バルバロスさんの言う自主自立の考え方だろうか?


「試行錯誤して、雨水だと比較的美味い茶を淹れられることはわかったんだ」

「まあそんな面倒なことなかなかできねえからな。今じゃもっぱらこの村だけで飲まれている。しかも村人が独占していて、旅人には普通の茶しか出さねえ人気ぶりだ」

「ははあ」


 確かにメッチャ美味いお茶だ。

 でも他所に売れないんじゃ商売にどう繋げりゃいいかな?

 ザバンでしか飲めないと宣伝して客寄せにするしかないのか?


「どこでもこれだけの味が出せれば、高価でも絶対に通人が買うと思うんだが」

「確かに」


 ん、何だろ?

 うちの子達が揃って何か意見があるようだ。

 ふむふむ、なるほど。

 研究せざるを得ないね。


「このお茶葉、あたしに売れるだけ売ってくれない?」

「あんた話聞いてたか? ザバン以外じゃあの味が出ねえんだぞ?」

「今聞いたわ。でもこのお茶は真価を発揮できればもっと美味いんじゃないかって、うちの子達が言うんだ」

「「えっ?」」


 二人が驚く。


「つ、つまり、ザバンの水でも真価を発揮できていないと?」

「うん。精霊は敏感だし、人間じゃわからないことも知ることができるから、多分このお茶本当ならもっとおいしいんだと思う」

「バカな……」


 絶句する二人。


「で、あたしも色々試してみたいことがあるから、このお茶の葉欲しいんだ。普通の茶葉もお土産用に買ってく」

「わ、わかった。研究にということなら」


 一抱えもある大きな包みを二個。

 実験するには十分な量だな。


「普通の茶葉はどれくらい必要だい?」

「この前もらった筒に入ってるやつ? あれ五個ちょうだい」

「じゃあこれで。赤筒が発酵度合い高め、緑筒が低めだからね」

「ありがとう。代金は五万ゴールドでいい?」

「「五万ゴールド!」」


 ビックリするなよ。


「い、いいのかい? オレはありがたいが」

「あたし達が実験してうまーいお茶の淹れ方を確立すれば、五万ゴールド? そんなに安く手に入れたのかってなるんだぞ?」

「マジかよ。さすが精霊使いだな!」


 料金を渡す。


「こんな大金見たの初めてだな」

「あんたいつもこんな大金持ち歩いてるのかよ?」

「まあ。美少女の常として急にものが欲しくなることあるから」

「盗まれたらどうすんだよ」

「盗もうとするとどうなるか、あんたはよく知ってると思うけど?」


 苦笑するシルヴァン。

 カトマスであたしからスリ取ろうとしたことを思い出したらしい。


「じゃ、あたし達帰るね。いい出会いだった。また来るよ」

「おう、じゃあな」

「いい知らせ待ってるよ」


 転移の玉を起動し帰宅する。

 すごいお茶だけど面倒みたい。

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