第536話:ドーラ産のお茶
肉饅頭とお茶をおいしくいただいてから、スリ君にザバンの村を案内してもらっている。
そーいやこのスリ君は何て名前なんだろ?
べつに覚える気もないけど。
「帝国の皇女が来ているという噂か。ここいらでもパッと広まったぜ」
「噂じゃなくて本当なんだ。今も塔の村にいる。でも全然皇女らしくないから、誰も信じてないんだよなー」
リリーは付き合いやすい気さくな子なのだ。
他の貴族とか皇族には会ったことないけど、リリーの庶民人気が高いってのはよーくわかる。
「で、この前もらったお茶、その皇女にあげたんだけど、評判良かったんだよ。発酵度合いの進んだものも飲んでみたいって言ってたからさ」
「ほう。皇女に認められたとなると箔がつくぜ」
スリ君ったら満更でもないようだ。
しかしこいつがお茶に入れ込んでるのは何でだろ?
いや、料理屋の息子ならお茶に無関心ってことはないか。
「しかしあんたが精霊使いって本当だったんだな」
「できれば美少女精霊使いって言って欲しいかな」
笑い合う。
「ところであんたの名前教えてくれないかな。あたしの脳内ではスリ君に固まりつつあるんだけど」
「おいおい、俺はシルヴァンって言うんだぜ」
「困ったなー。あたしモブの名前覚えられないんだよ」
「どうして聞いたんだよ! 間違ってもオヤジの前でスリ君なんて言うなよ?」
「うーん、努力はする。ダメなら天罰だと思って諦めて?」
「どんだけ人為的な天罰だ!」
いや、こげ茶色がかった赤毛とソバカスはキャラ立ってる気がするから、大丈夫だよ。
大丈夫だといいな。
「ここの村の自慢は何なの?」
「サトウキビだな」
「カトマスで売ってる砂糖ってここが産地なんだ?」
「ここだけじゃねえが、ザバンが一番多いんじゃないかな。砂糖搾ったカスから紙を作ってるからムダがないんだぜ」
「……新聞用の紙だよね。レイノスのヘリオス・トニックさんのところに売ってるんだったっけ?」
「さすが精霊使い。情報通だな。知ってるとは思わなかったぜ」
鎌かけたら喋りやがったぞ?
まさか砂糖の搾りカスから紙を作れるとは。
安くできるわけだ。
ちょっとビックリ。
「他は茶以外には変わったもんはねえな。自給自足の作物作ってるくらいだ」
「ふーん。じゃあ紙とお茶のとこ見せてよ。買ってくからさ」
シルヴァンが首を捻る。
「紙はどうだったかな? 全部ヘリオス氏に売る契約と聞いた気がする」
「ああ、ならしょうがないねえ」
まとめて買うから安くしろってことか。
これはいよいよ価格的には勝負にならない。
カラーズ緑の民の作る紙がどういうものか知らないが、新聞用の紙に食い込むのはムリだ。
レイノスに売り込むなら他の作戦を考えないとな。
「おーちゃ! おーちゃ!」
「わかってるよ。こっちだ」
案内されてついて行くと……。
「わあ、奇麗だねえ!」
一面の茶畑だ。
これは素晴らしい。
「今は冬だからそうでもないぜ。新芽の出る春以降は本当に最高なんだぜ」
「今度またいい季節の時に見たいな。でもお茶ってこんなに植えてあるんだ? かなり収穫できるんじゃないの?」
「まあな。しかしここの主は安売りするつもりはないんだとよ」
「当たり前だ。安売りしてどーする」
丁寧に整えられた樹形。
かなりの手がかかっていることが窺える。
「おーいテオ! お客さんだ」
小屋の中から、もう冬だというのによく日焼けした青年が出てくる。
シルヴァンと同年代だ。
あたしが精霊連れなのを見て驚いたようだが。
「ようこそ。精霊使いユーラシアさん?」
「うん、よろしく、テオさん」
「シルヴァンから聞いていたんだ。カトマスで会ったって」
「その時お茶もらってさ。評判良かったからザバンへ来ようと思ったの」
「ものすごい怪力で腕ねじり上げたんだって?」
「人聞きが悪いなー。かるーくだよ、かるーく」
「一瞬で逆らう気なくすくらい軽くだったぜ」
皆で笑う。
テオさんとスリ男はかなり親しい友達みたいだ。
「テオの茶を帝国の皇女に飲ませたんだってよ。イケるそうだぜ」
「励みになるな」
嬉しそうだね。
「発酵度合いの進んだものも飲みたいって話だったんだ」
「ああ、よく発酵させたやつもあるよ」
よしよし。
お土産に買ってこ。
「これ、テオさん一人で管理してるの?」
「まさか。母と弟妹達にも協力してもらってるよ」
といっても数人じゃないか。
これだけの面積の茶畑を維持管理するってどんだけだ。
「先祖が帝国で茶農家を営んでいてね。ドーラに移住する時に枝を持ち込んで増やしたんだ」
「これ、どれだけの収入になるのかな?」
テオさんが諦めたような顔になる。
「ドーラにも少数だが茶好きがいて、引き合いがなくはないんだ。が、売り上げは毎年五〇〇〇~一万ゴールドってところかな」
シルヴァンが言う。
「ザバンの村では茶の良さを理解してる。作物と物々交換してるから、テオん家が飢えるってこたあないんだが。作業の煩雑さに収入が見合ってねえ」
「シルヴァンは他所へ行く時なんかに茶を土産に持っていってね。広報活動みたいなことをしてくれてるんだ」
「なあ、精霊使いさんよ。あんたの知恵でどうにかなんねえか?」
「なるよ」
「「えっ?」」
驚く二人。
「売ろう!」
「だ、誰に? どこに?」
「帝国に!」
「「帝国?」」
唖然とする二人に説明する。
「ドーラが円満に独立したから、細っていた帝国との貿易が活発になるはずなんだ。一方で移民もメッチャたくさん来るから、食料品は輸出できる状況にない。魔宝玉とコショウが重要な輸出品とは聞くけど、輸入したいものの多さに比べて輸出できるものが少ないでしょ? お茶はかなーり有望だよ」
理屈では、だが。
「ドーラ内では売れねえのか?」
「お茶を飲む習慣もお茶に払うおゼゼもないからなー」
テオさんも難しい顔をする。
「……レイノスの上級市民には飲茶の習慣があるんだ。しかし連中は帝国志向だから、茶葉も帝国から輸入したものを使おうとする」
「ああ、ドーラ産のお茶? って鼻で笑われたことあるな」
「ザバンのお茶は、皇女リリーがいいって言うくらいなのにな?」
質を重視してるわけじゃなくて、帝国産だからありがたがってるんだろうな。
そーいえば上級市民は、帝国に税金納める必要がなくなる代わりに、帝国の市民権を失うのか。
今後の扱いはどうなるんだろ?




