第533話:眠れなくなっちゃうわ、ぐう
塔の村サイドの内情を聞くと、こっちの作戦がたまたま嵌っただけのようにも思える。
潜入工作兵指揮官のメキスさん可愛そう。
「しかし経過はともあれ、勝利は君達のものだ! 乾杯!」
「「「「「「かんぱーい!」」」」」」
気分がいい時のハーブティーは安らぐなー。
「ところでリリー、ドーラ産のお茶どうだった?」
「ん? あのソールというドラゴンスレイヤーに聞かなんだか?」
「ソル君? あたしドーラに帰ってからまだ『アトラスの冒険者』に会ってないんだよね」
「どうして?」
「早くあんた達の顔を見たかったからかな」
「「「「「「……」」」」」」
あれ、嬉しそうだね?
「……ユーラシアの不意打ちはズルい」
「そうだ! あたしの不意打ちはズルいぞー!」
皆で大笑いする。
「開戦初日に、総督府で飛空艇破壊の報告に来たソールのパーティーと会ったのだ。その時にお茶の感想も伝えておいてくれと言った」
「一番大変だった日か。で?」
「あのお茶、美味であった。帝国本土のものと遜色ない。発酵度合いの進んだものも飲んでみたいの」
「生産地で発酵度合いや混ぜ物がどうのって聞いたな。リリーがおいしいって言うくらいの品質なら、もう少し調べてみるよ」
「うむ」
茶を栽培している自由開拓民集落ザバンには早めに足を運びたい。
「さて、最後に皆さんにミッションを授けまーす」
「ん、何だ?」
「塔の村に攻め寄せたメキス隊長以下二五名の工作兵いるでしょ? 気にしててやってよ」
エルが言う。
「警戒しろということかい?」
「じゃなくて、色々面倒見てやってくれってこと」
「何故降伏兵を気にする?」
「一番怖いのは独立前からのドーラ人 > 帝国からの新移民っていう上下関係ができることだな。くだらない風潮はドーラ発展の妨げになる。あの有能な二五人が貶められることがあっちゃならない。バカにするような冒険者がもしいたらしばいて」
「「「わかった」」」
皆に承知させる。
「これからかなり大量の移民が来るんだ。今はデス爺がカラーズから野菜持ってきてるんだけど、あんまりこっちに回せなくなると思う。だから降参工作兵二五名にはこっちで野菜作ってもらう」
「なるほど、重要だな」
レイカが大きく頷く。
「あとは……考えたくないことだけど、もしあの二五人が反乱起こすと、今度は手に負えなくなるよ」
「何? どういうことだ?」
「『マップ』の固有能力持ちがいる。今回は塔の村が襲撃目標になってたからどうにでもなったけど、ゲリラ戦やられて街道の流通をあちこちで切られるのはまずいんだ」
ハオランが顔を顰める。
「集落が襲われるのも困る」
「まあねえ」
「案外物騒だの」
「リリーがマメに声かけてやってくれれば大丈夫なんだけどな。でも寝坊助で当てにならないから」
「何だとお!」
プリンセスパワーに期待してるんだぞ?
「ごちそーさま。じゃ、よろしく頼むよ。人材は有効活用しないといけないからね」
「帰るのか?」
エルが寂しそうに言う。
「今日は帰る。エルも可愛い顔はアレクに見せてやりなよ。そーするとあたしにとって面白い展開になるから」
「ボクは君のための玩具じゃないんだ!」
「わかってるってば、このボクっ娘め」
一笑い。
気持ちのいい夜だ。
「また来る!」
「バイバイぬ!」
転移の玉を起動し帰宅する。
◇
「サイナスさん、こんばんはー」
寝る前恒例のヴィル通信だ。
『ああ、こんばんは』
「識字率向上ゲームについてだけど。アレク達にサイナスさんの嵌め込み式のアイデアを伝えてきたよ。で、札取り式の試作品を預かってきた」
『試作品? もう必要になるのか?』
「まだだけど、木で作ってちゃんと印刷したプロトタイプは作っときたいんだよね。どれくらいのコストになるか知りたいし」
『木は黄の民に委託するんだろう? 印刷は?』
「レイノスで心当たりあるけど、緑の民で可能なら任せたい」
『緑の民か。まだ早いんじゃないか?』
サイナスさんの懸念もわかる。
緑の民に仕事を依頼した時の、長老連のリアクションがわからん。
「交易に反対してる長老連ってのに会ったことないからさ。お土産持って緑の民の村行ってみようかなと思ってる」
『お茶か』
「うん」
となるとお茶手に入れるのが先か?
『転移石碑が先だろう?』
「うーん、転移石碑もいつできるか確認はしたいんだけど」
アルアさんとこへ素材持たずに行くのは損した気分だしなー。
すると新クエストか魔境で素材稼ぎするべきか?
「やんなきゃいけないことが目白押しだなー。順番は考えとくよ。明日輸送隊出る日だよね? アレクはいる?」
『アレクもケスも今回は休みだ』
「ん、わかった」
黄の民に木製札の製作頼みに行く時は連れていくか。
「今日の午後、塔の村行ってたんだ」
『おっ、女子会かい?』
「目的はお喋りだったね。でも塔の村に攻め入った帝国の潜入工作兵がそのままだったからさあ。ちょっと話してきた」
『レイノスに引き渡してるんじゃなかったのか?』
「放し飼いだったわ。デス爺は好きなように働いてくれって意図があったみたいだけど、全然伝わってなかった。ドーラ独立までの内幕を全部伝えて、帝国に帰る道はないからドーラで頑張れ。とりあえず畑作ってって頼んできた」
『ユーラシアは面倒見がいいなあ』
「あたしはドーラをいい国にしたいからね」
『スケールが大きいな』
「人間の?」
アハハと笑う。
『いや、しかし塔の村で畑を整備してくれると助かる。大量移民が来るなら、こっちも作物足りなくなるだろうから』
「拡張した畑があってもやっぱ油断できないよね。でも塔の村も軍人の作る畑だからなー。あんまり当てになんないかも」
移民の関係で灰の村からは作物を送りづらくなる。
詰草の精霊であるコケシが畑に関わってくれると、塔の村の収穫量が全然違うんだけど。
いや、収穫量以前に植えるものがないのか。
やっぱイモ?
「何か難しいぞー?」
『難しいな。しかし優先順位一位は食べ物だ』
どうあっても変わらない部分だ。
とにかく来年一年、来る移民を飢えさせないようにしなければ。
「眠いぞー? サイナスさんおやすみ」
『ああ、おやすみ』
「ヴィル、ありがとう。通常任務に戻ってね」
『わかったぬ!』
明日どうしよう。
何するのが先だ?
悩ましいことを考えてると眠れなくなっちゃうわ、ぐう。




