第53話:ほこら守りの村の怪
フイィィーンシュパパパッ。
新クエスト、ほこら守りの村の怪の転送先にやって来た。
「ここは?」
「ナイスプレイスね」
転送された場所は、比較的まばらに木の生えた森だ。
うむ、ダンテの言う通り感じのいいところだな。
転送完了するやいなや戦闘、ということもあり得るかと思ったので、いい意味で拍子抜けした。
適度な塩梅で陽の光も差し込み、あたしの好きな雰囲気だ。
あ、ウサギがこっち見てる。
おいしそ……可愛いな。
こんなのんびりした雰囲気で怪異が起きているそうなので恐れ入る。
少し歩いた奥の開けたところに集落があった。
その真ん中の井戸を囲む広場で、三人の男女が何事か話し合っている。
「こんにちはー」
皆さんがこちらを向く。
精霊連れだけど、特に騒がれることもないようなのはありがたい。
「やっ、外から来たお方ですな? 申し訳ありませんが、今、ほこらは立ち入り禁止なのですじゃ」
ほこらが何だって?
事情がサッパリわからん。
怪が起きてますかって聞かなきゃならんのか?
怪し過ぎるだろ。
『アトラスの冒険者』の石板クエストは、最初全然状況がわからんのが不親切だな。
不得意とか請けたくないタイプのクエストだってあるだろうに。
「あたし達は旅でここに寄っただけなんだよ。特にほこらとかは関係なくて」
「ああ、すいません。ほこらを参りに来た方ではありませんのですな?」
「何やら立て込んでいる様子だね? お困りだったら冒険者のあたし達がお手伝いするよ」
グイグイ押してみろ。
石板クエストってそーゆーもんみたいだしな。
コミュ力がないとやってられんお仕事だわ。
あたし達を観察していた壮年の男が言う。
「村長。どうやら、旅の御仁は精霊連れの冒険者でいらっしゃる様子。相談してみてはいかがでしょうか?」
精霊を見知ってる人なんだな。
村長と呼ばれた年配の男は迷っているようだったが、やがて口を開く。
「……どうやら我らだけでは解決できぬようじゃ。旅のお方、耳汚しですまぬですが、少々我らの話を聞いてもらえんでしょうか?」
「喜んで」
いくらあたしが超レア『精霊使い』の固有能力持ちだからといって、話も聞かずでは何もできない。
いや『精霊使い』全然関係ないけど、クエストが進まないのは困るのだ。
お話カモン。
「ありがたや。ここは森の奥にあるほこらを祀る者達の集落でしてな、霊験あらたかなことで、近隣には知られておりますじゃ」
ふむふむ。
ほこらを中心とした一種の宗教集落みたいなもんだな?
「ところが最近、怪奇現象が起きての、ほこら守りもままならんのです」
「怪奇現象?」
「魔物が出るんです。幽霊みたいな」
耐えきれぬ、といった気色で三人目中年の女性が口を挟む。
この三人がこの村の顔役なのだろう。
つまりユーレイチックな魔物が出るから怪ってことらしいな。
「ほこらまでの通路で、御神体らしき声が聞こえるのだ。どうやら魔物を倒してほこらまで来い、ということらしい。しかしいかんせん村に戦士はおらんでな、どうすべきか相談していたのだ」
御神体とはほこらに祀られている何かだろう。
魔物に困って冒険者にというところまでは、極めてオーソドックスなクエストに思える。
御神体らしき声うんぬんというのは、ちと実体が不明だ。
が、ユーレイが出るってだけのことならば退治すればいい。
力技で何とでもなりそう。
「旅のお方を見込んでお願いする。何とかほこらに辿り着いて、御神体の様子を探ってきていただけんじゃろうか? 精霊使いならば、御神体と意思の疎通が可能なのかもしれぬゆえ……」
「うん、引き受けた。やってみるよ」
即答したことに三人は驚いたようだ。
いや、だって引き受けないことには先に進めんのだもん。
まあ『アトラスの冒険者』は、達成不可能なほどのクエストを分配したりはしないってことだったし。
「でもしょせんあたし達は駆け出し冒険者だから、失敗したらごめんね」
違約金とか言われても困るわ。
予防線を張っておく。
てへぺろ。
「いやいや何の何の。村の者ではどうにもならなかったのじゃ。やってみてくれるだけでありがたい。報酬もできる限り、弾ませていただきますぞ」
「ではまず、村の皆さんに話を伺ってから、挑ませていただきまーす」
「村の衆には最大限協力するよう、申し伝えておきますでな」
皆が協力してくれるのは嬉しい。
情報をたくさん得られるという意味でも、モチベーションが上がるっていう意味でも。
以下は聞き込みでわかったことだが。
「御神体様は、昔このあたり一帯を救った少女の霊とされていますよ。ただ詳しい経緯は失伝してしまってるんです」
「素材を集めてるの? 森の幽霊は高頻度で素材を落とすって聞いたわよ」
「村の北から参道が通じているよ。森の回廊みたいになっていて、差し込む光がとても奇麗なんだ。でも幽霊みたいな魔物が出現するようになってから、空間がおかしくなってるのかな。参道がループしてしまっていて、行けども行けどもほこらに辿り着かなくなっちゃったの」
「ポーションやマジックウォーターが必要なら、道具屋で売ってるよ」
「参道に入ったところで、御神体様らしき声がするんだ。どうやら何かのヒントを語っているようなんだが」
ふーむ? まとまりのない情報は結構集まった。
でもどうもハッキリしないというか、断片的過ぎるというか。
御神体の謎の解明には役立たないんじゃないかって気がする。
どーすべ?
「一度参道に行ってみようか?」
「賛成でさあ。話聞いてるだけじゃ埒が明かねえ」
「私も賛成です。出現する魔物の強さだけでも把握しておくべきだと思います。ループで帰れなくなるようなら、転移の玉を使いましょう」
しかしダンテは何か気になることがあるようだ。
少し離れた位置にある、テントのような仮家屋を指差す。
「魔力のウェーブを感じるね。参道のものとはアナザーの」
「魔力の波動? 気になるな。そっちに怪の原因がある可能性もある」
「行ってみましょうか。大した手間でもありませんし」
テントもどきに近付く。
……本当だ、何とも言いようのない独特の空気感がある。
特に邪悪な感じはしないように思えるが?
警戒しながらテントもどきの中を覗いてみると、香草だか香木だかの匂いが強い。
何かいる、ユーレイだ!




