第526話:エア葬式代、エア供物代、エア空涙代
フイィィーンシュパパパッ。
昼食後に塔の村に飛んできた、が?
「おーい、コモさーん! エル!」
「ユーラシア! 無事だったか」
「生死不明って聞いてたんだ。よかった!」
「無事だってばよ。どういうわけか、ちょっとあたしが働くと皆に心配されちゃうんだよね。それにしても……」
この時間にエルがいるのも意外だが、コモさんと?
「……逢引きにしてはおかしなカップリングだね?」
「違うよ」
「アレクが泣くぞ?」
「違うというのに」
苦笑するコモさんとエル。
……コケシがスタンバイしてるけど?
あれ、その顔はエルじゃなくてあたしを標的にしようとしてるだろ。
考えが甘いぞ?
「アイテムの相談に乗ってたんだぜ」
「アイテムの?」
戦闘に使うアイテムってことかな?
コモさんはアイテムの使用法とかに詳しいからな。
「そんなどうでもいいことよりユーラシアさん。私達皆心配してたんですよ。死亡認定されてたんですから」
色の白い植物系精霊というところだけはクララと共通している、クラッシャー精霊コケシが何か言ってるぞ?
どうでもいいこと扱いされたコモさんとエルが目を白黒させてるけど。
「生死不明って言ってたじゃないか。死亡認定してたのはコケシだけでしょ」
「エア葬式代、エア供物代、エア空涙代、どうしてくれるんですか! 何かいただかないと採算が取れません!」
「おお、予想以上に重ねてきたね。さすがコケシ。これあげる」
帝国からの獲得物その一を渡す。
一瞬フリーズするコケシ。
「……何ですか? これは」
「帝国軍が使ってきた、捕縛用の網を広範囲に撃ち出す装置のワイヤー。強化魔法が使ってあって、効いてる時は普通じゃ切れないんだよ。弱体化しないと。金属に工夫があるのか魔法に工夫があるのかわかんないけどさ、研究してみてよ」
「おお、帝国の新技術か! 面白い土産だな!」
コモさんが食い気味だけど、コケシは宿題を押しつけられて苦い顔をしている。
コケシも勉強家ではあるんだが、興味は文字や言葉に偏っている。
こーゆーのはツボではないのだ。
「コモさんもだけど、デス爺も興味あると思う。研究の成果で何かを開発できても、あたし達は儲けいらないからそっちで分けて」
「……ありがとうございます」
「ところで無事帰還祝いはまだ受けつけてるけどどうする?」
「……おめでとうございます本当によかったです、の言葉に代えさせていただきます」
「遠慮深いなーコケシは。今日のプレゼントのお返しは今度でいいからね」
「……恐縮です」
ますます苦い顔になるコケシ。
チャグとちょんまげがすげえビックリしてるけど、クララはユー様に絡もうとするからって思ってるんだろうなー。
「ところでアイテムの相談って何なの?」
「敵が逃げないようにする類のアイテムあるだろう? 今、道具屋でセールなんだよ。どういう時に使えばいいかなって」
「ははあ、なるほど。あたしも使ったことないわ」
以前チラッと話に出たくらいか。
「一番一般的なのは使い捨ての逃封の札だけど、通常価格一〇〇ゴールドもするだろう? 例えば肉の美味いタワーバットは逃げて欲しくないが、戦闘のたびに一〇〇ゴールドの出費じゃ割に合わない」
「割に合うのは人形系?」
「四人パーティーならヒットポイント四までのは、『経穴砕き』を覚えていれば一ターンで倒せる計算だ。それ以上のヒットポイントを持つ人形系専用ってことか?」
「あ、ウィッカーマンっていうデタラメにヒットポイント多い人形系レアがいるんだけど、そいつに逃げ封じは効果ないって聞いた」
コモさんから説明が入る。
「普通は逃走防止なんて用のないアイテムだな。使われるのはほぼ退治依頼や討伐依頼の時だけだぜ」
なるほど、盗賊退治の時に使えばよかったか。
「あとは特定の魔物のドロップアイテムがどうしても欲しい時くらいか。ま、ユーラシアやエルには必要あるめえ」
「そうですね」
あたしもエルも『アンリミテッド』があるから、人形系も問題なく倒せるしな?
しかし何かが引っかかる……。
「……セールなら買っとこうかな」
「何に使うんだ?」
「買い占めて転売するんじゃねえぞ」
「買占めたって儲からんわ、じゃないよもー。どこかで使うような気がするの」
「姐御のカン、当たりやすから」
アトムの一言で少し場が引き締まる。
「……ユーラシアが言うなら、使う場面があるんだろうな」
「二枚買ってくる」
二割引き一六〇ゴールドで逃封の札を手に入れた。
「エルは今からダンジョン?」
「ああ。ユーラシアは夜までこっちにいるんだろう?」
「うん、今日はゆっくりするんだ」
「じゃあ行ってくる」
「行ってらー」
心なしかエルのパーティーの足取りが軽い。
コケシ以外は。
「コモさん、デス爺知らない? あの光り輝く頭頂部が見当たらないんだけど?」
「灰の村に飛んでるはずだぜ」
「しまった、行き違ったな。今日午前中、あたしも灰の民の村へ行ってたのに」
ま、特に用があるわけじゃなし。
「塔の村で変わったことある?」
「リリーが帝国の皇女だということが知れ渡ったが、冗談は眉毛だけにしろってことになってるな」
「あははははは!」
リリーの太眉は塔の村でも弄りの対象なのか。
コモさんがやや真剣そうな顔になる。
「正直俺も信じられねえんだが、本当なんだよな?」
「大マジなんだよ。皇帝陛下と現在の皇妃様との娘で、最も愛されてるんだって。皇位継承順位は二十何番目かなんだけど、気さくだから庶民の人気が高くて、次期皇帝にって声もあるくらいだそーな。これ帝国本土の兵士さんが言ってた」
「へえ、人は見かけによらねえもんだ。何でウケのいいお姫様がドーラなんかに来たんだ?」
それがな?
「内情がすげえドロドロしてんの。リリーは今の皇妃様の子ね? 今は亡き前の皇妃様の皇子皇女がいて、その人達は当然のことながら現在の皇妃系の皇子皇女を嫌ってる。中でもリリーが一番人気だから風当たりが強いんだそーな」
「ほお? よく調べたな」
「前の皇妃系で皇位継承順位一位の皇子は病弱、二位の皇子は享楽的、一番実力があると考えられている第二皇子は側室の子っていう面倒な状況で、リリーは貴族や大商人皆から色目使われて嫌になったみたい」
「ほえー、本物のお姫様みたいだな」
「リリーのクセにねえ」
笑い合う。




