第522話:赤字黒字を考える
フイィィーンシュパパパッ。
「ユーちゃん、いらっしゃい」
「お姉ちゃん!」
「おおう、ノブ君は元気だな」
先のクエストの完了条件を満たしたあと、昼食を食べてチュートリアルルームに来た。
ヨブ君達にも来るよう伝えてあったのだ。
「ごめんね、待たしちゃったかな」
「いやいや」
「ユーちゃん、ヨブ君はどうだったの?」
「全然問題ないよ。何であの条件で『アトラスの冒険者』辞めようとしてたんだか、理解に苦しむ。人生捨てんなと言いたい」
「ははは……」
苦笑するヨブ君。
何をヘラヘラしているのだ。
あたしが言ってるのは冗談じゃないからな?
言い聞かせておかねば。
「いいかな? ヨブ君がリタイアしたって誰も得しないんだ。大体最初にもらった杖と胸当てだって計三〇〇〇ゴールドもするんだぞ? 君に期待して出資した分がパーになる上、順調に育ってこなしてくれる依頼分やアイテム売買分の収益がなくなっちゃう。バエちゃんの給料だって下がっちゃうんだぞ?」
「わ、悪いと思ってるよ」
「そこが違うんだなー」
「「え?」」
ヨブ君とバエちゃんの声がハモる。
「俺が辞めたら困るだろ、ってふうに強気に出るんだよ。具体的には最初にもらった杖、あれ使わないでしょ? 何かと交換してもらおう」
「ええっ? 一ヶ月経ってるし、さすがに交換はできないけど……」
「いくらくらいのお値段なの?」
「二〇〇〇ゴールド相当だった」
結構高いんだな。
普通に売ったら半額以下になっちゃうが。
「じゃあ一五〇〇ゴールド相当のものと交換してよ」
「え? うーん、ほぼ使ってないし、一五〇〇ゴールドならいいかな……」
「よーし、決まった! 『ホワイトベーシック』のパワーカード、ギルドから取り寄せといてよ」
「うん、わかった」
ヨブ君とノブ君に言う。
「『ホワイトベーシック』のカードを装備すると、『ヒール』と『キュア』を使えるんだ。冒険者に必須の白魔法だよ。明日にはここにカード届くから、取りに来て魔法力の強いノブ君に装備させてね」
「すげえ!」
喜ぶ二人。
「いいかな? 回復を白魔法でできるようになるなら、チドメグサなんかは全部売って構わない。おゼゼを稼ぐのだ」
「ああ、わかった」
「薬草、アイテム、素材の類を回収し損なうと大損だ。カトマスならそーゆーの詳しい人いるでしょ? 勉強しとくんだぞ?」
「うん!」
「さっきも言ったけど、あんた達がリタイアして得する人は誰もいないんだ。ギルドに行く前に困ったことあったら、ここに来て相談するんだよ。きっと誰かが助けてくれる」
「「わかった!」」
「ヨブ君ノブ君はレベルいくつになったんだっけ?」
「ボーナスで上がった分含めて、俺が五、ノブが四だ」
大ネズミはスライムより経験値高いみたいだな。
スライムは自動回復があるから、戦闘素人にとっては倒しにくいのに。
「立派なもんだ。次はギルドで会おう。ギルドはいいよ。何がいいって、売り買いにインチキもぼったくりもない」
「それは素晴らしいな」
適正な取り引きをしてくれるところは、いらん神経使わなくていいから。
カトマスだと買い叩きぼったくりの店ばかりの予感。
「ちなみにここチュートリアルルームでは、各種スキルスクロールを売ってるよ。インチキはないけど、回復魔法や治癒魔法はぼったくり気味」
「ひどーい」
皆で笑う。
「以前、転移の玉の有効範囲は四人までと聞いたんだが」
「よく覚えてるね。五人になると転移事故起こすよ」
「一応安全には配慮されているから、転移の玉で事故起こしても致命的なことにはならないけど」
「そーだったん?」
でも転移事故起こした時、すごいお尻痛かったぞ?
「君のパーティーは精霊が四人いて合計五人だろう?」
ヴィルを精霊だと思ってるのか。
「黒赤の服のふよふよ飛んでたちっちゃい子いたでしょ? 犬耳の。あの子は精霊じゃなくて悪魔なんだ」
「「悪魔?」」
「戦闘メンバーじゃなくて、主に偵察とか連絡の役割を果たしてくれてるの」
「精霊使いは悪魔使いでもあったのか」
ヨブ君が感心してるけど。
「とってもいい子なのよ」
「あの子は転移の玉がなくても自分でワープできるんだ」
「悪魔すげえ!」
確かにすげえよ。
さてあたしは帰るか。
「じゃあまた。健闘を祈る!」
「また来てね」「さよなら」「お姉ちゃん、バイバイ!」
転移の玉を起動し帰宅する。
◇
「……ってわけで、ヨブ君は無事冒険者に復帰しましたとさ」
もう一度マルーさん家に状況を報告しに来ている。
「殊勝なことだねい」
その殊勝はヨブノブがだろうか?
あたしがだろうか?
「先輩の『アトラスの冒険者』による新人のサポート制度が、ヨブノブの次の子からは始まってるんだ。今後脱落者は激減すると思う」
「アタシに配当金が出るということだね?」
「確率は高くなるねえ」
脱落者が少なくなる分、新たな補充人員も減らそうとするかもしれないけど、一ヶ月一人としても年間一〇組は増えそう。
一方で辞めそうなのはマウさんくらいだから……。
「……うちのパーティーが魔宝玉を売買する頻度は低くなりそう。でもソル君やエルマが人形系レアを狩れるようになってる。パワーレベリングした連中が高額の依頼を請けてくれて、新人さんが増えるなら、うん、確実に黒字体質が近付く。間違いない」
「そうかい」
マルーさんは嬉しげだが。
「……でも今のギルドは恒常的に黒字を出すだけの広さがないな。ギルドの経営って考え方をしたことなかったけど。『初心者の館』とお店ゾーンは足りてるとして、冒険者の数を収容できないから酒場食堂の拡張は絶対に必要。依頼受付所ももう少し広いスペースが欲しいし、業務連絡する掲示板なりもいる。エントランスホールも出入り口と転送先座標は離れているべき……」
うーん?
ギルドの居心地が悪いのは、冒険者にとってよろしくないことだな。
「ねえ、ばっちゃん。あたしがギルドに出資して、もうちょっと建物の大きさを広げるってことはできないのかな?」
「えっ? ギルドの増改築なんてのは、向こうから話が来るものじゃないのかい?」
「いや、今口出すのは早いな。冒険者の間で不満が出てからで遅くないわ」
「アンタは本当に冒険者らしくないねい」
「真面目に冒険者やるより、赤字黒字考えることのほうが性に合ってるみたい」
軽い笑い。




