第520話:できる弟
「アンタは冒険者らしくないねい」
「そお?」
脱落間際の冒険者ヨブ君の家への道中、マルーさんと話しながら行く。
まああたしは超絶美少女だし、ばっちゃんは悪名高き業突く張りだし、ニルエは『いい子』だし、うちの子達精霊はいるし、ヴィルはふよふよ飛んでるし。
何せ目立つメンバーだからジロジロ他人に見られる。
「あたしはやりたいことやってる兼業冒険者だからかな」
「新人冒険者が脱落しようがしまいが、アンタには全然関わりないだろうに」
バエちゃんとマルーさんのサイフには関わるけどね。
「あたしはドーラにおぜぜが回ると嬉しいんだ。大きい商売ができそうだから」
「アンタの話には夢があるねい」
「でしょ? きっと大物だからだなー」
アハハと笑い合う。
「ここがヨブさんの家ですよ」
ニルエが指し示す。
普通の家だね。
「ヨーブーくーん、あーそーぼーっ!」
大声で呼びかける。
ニルエがビックリしてるけど、うちの子達は慣れたもんだ。
家の中から一〇歳くらいの男の子が出てくる。
「こんにちは。お姉ちゃん達は誰だい?」
この子やるなあ。
こんだけ濃いメンバーが揃ってるのに、一発であたしに声かけてきたぞ?
勘所がわかってる。
「君はヨブ君の弟さんかな? お家の皆さんはどうしてる?」
「父ちゃんと母ちゃんは働きに行ってる。あんちゃんは寝てる」
「あんちゃん起こしてきてよ。超絶美少女が会いたがってるって」
「わかった!」
ほう、何も聞かないね。
行動が早くて小気味いい。
「ばっちゃん、今の子なかなかやるね」
「『竜殺し』の固有能力持ちだね。比較的珍しい」
「ヨブ君より、あの子を『アトラスの冒険者』にするのがいい気がしてきた」
「そうだねい」
弟さんに連れられて出てきた長身の男。
ボサボサ髪、無精ヒゲ、全体的にだらしない。
ははあ、引きこもりだな?
「ニルエと魔女! ……と、君達は?」
「精霊使いユーラシアだよ」
「あの有名な?」
「あの有名な美少女精霊使いユーラシアだよ」
おー弟さん目キラキラさせてるじゃないか。
見込みあるなあ。
ヨブ君よりずっと覇気があるし、年齢が許すならマジで弟さんを『アトラスの冒険者』にしたい。
「一体何しに……」
「ヨブ君がもう何日かで『アトラスの冒険者』の資格を失うっていう話だから、ちょっとからかいに来たんだよ」
「もったいないねい」
「……」
俯くヨブ君。
「いや、冗談抜きでもったいないんだよ。ヨブ君はどうして『アトラスの冒険者』諦めちゃったの?」
「単純な話さ。クエストがうまくいかない」
「え? 変だな」
カトマスという土地柄だろうか、ヨブ君は見るからに戦闘未経験者ではない。
レベルも二、三はありそうだし、初期のクエストで落ちこぼれそうにはとても見えないんだが?
特殊なクエストに当たっちゃったのだろうか?
「ヨブ君の実力があってこなせないクエストが振られてるんだ?」
「……というか、実力と自分の固有能力が合ってないんだ」
「何の固有能力だろ? あっ、言うの待って! 当ててみるよ。えーと、比較的よくある能力だね。実用的な感じがする。多分何かの魔法系だ!」
「アンタは『鑑定』なしでそこまでわかるのかい? 呆れたもんだね。『風魔法』だよ。しかも発現度合いがかなり強い」
マルーさんが言い、ヨブ君が頷く。
「俺は生まれつき『ウインドカッター』を使えるほどの強い風魔法使いだ。当然魔法を生かすべきだが、悲しいことに魔法力も最大マジックポイントも低い。俺の『ウインドカッター』ではクエストを進められないんだよ」
「バカだなー。斬れよ」
「えっ?」
ポカンとするヨブ君。
「いいんだよ、スキルなんか使わなくたって。あたし覚えたスキルの半分は試し撃ちすらしたことないぞ?」
「そんなのはアンタだけだねい」
「ヨブ君はふつーに物理攻撃で魔物倒せるでしょ? 剣術を生かすんだよ」
「し、しかし……」
「クララ、見せてやって」
「はい、フライ!」
すごいスピードで飛び回って優雅に舞い降りる。
周りの人から投げ銭もらってヴィルが拾い集めてるわ。
何だこれ?
「どう思う?」
「どうって、練度の高いすごい技だと思うけど……」
「飛行魔法は風魔法だよ。レベルが上がれば君も使えるんだぞ? レベルと慣れに依存するから魔法力関係ないし」
「魔法力に関係ない……」
ヨブ君の顔に赤みが差す。
「うちのクララの全速『フライ』なら、ここからレイノスまで一〇分くらいで行けるんだ。君はそーゆー便利なスキルを覚えるチャンスをムダにしようとしてるんだぞ?」
「……」
「ちなみにアンタほどの『風魔法』の発現度合いであれば、レベル二〇を超えたくらいで『フライ』を習得するねい」
「へー、クララでもレベル三〇だったのにな」
「飛行魔法か……」
ちょっとやる気出てきたっぽい。
「ばっちゃん、剣士が風魔法使うなら『フライ』の他、『ウインドエンチャント』と『ウインドウォール』使えれば十分だよねえ?」
「そうさね」
「剣士としてならクエストこなせるんでしょ?」
「まあ……おそらく」
「全然問題ないねえ。パーティーを組んでくれる候補もいるし」
「えっ?」
心当たりがないようだ。
身近なところに目を向けなよ。
「弟さんだよ。ハッキリ言ってヨブ君より冒険者適性は上だと思う」
「『竜殺し』の固有能力の持ち主だ。通常攻撃に竜特攻の属性が乗り、レベルが上がればいくつかスキルも覚える。そこまではサービスで教えてやるよ」
「ノブが?」
弟さんノブ君って言うんだ。
何か一人ですげえ盛り上がってるけど。
「あんちゃん、おいらも冒険者になる!」
「ほらほら、おいら『も』って言ってるぞ? あんちゃんは諦めちゃうのかな?」
「あんちゃん、やろうぜ!」
「わ、わかったよ」
「やったあ!」
うんうん、いいね。
ノブ君の勢いに乗せられて活躍してくださいな。
「はい、ここでアナウンスでーす。『アトラスの冒険者』は、転送魔法陣を一ヶ月使ってないとその資格を失うそーな」
「い、一ヶ月? もう一月くらい経ってるけど……」
「多分あと一日か二日だよ。ばっちゃん、クビになった『アトラスの冒険者』が復活した例はあるのかな?」
「ないね。クエスト中の負傷で、転送魔法陣の不使用期間延長が認められたことはあるが」
「着替えておいで。クエスト行こう。ノブ君もついておいでよ」




