第518話:武勇伝で腹筋を攻撃
フイィィーンシュパパパッ。
チュートリアルルームにやって来た。
「うーん、食本能を刺激するかれえの香りがプンプン」
「あっ、ユーちゃん達いらっしゃい!」
「こんにちはぬ!」
「ヴィルちゃん、こんにちは」
チュートリアルルームとギルドと魔境、どれが最も頻繁に飛んでる転送先だろう?
どーでもいいけれども。
「もうできてるのよ」
「わかるわかる。黄金の香りがするもん」
「あはは、黄金の香りって」
かれえは食べてももちろんおいしいんだけど、それ以上に香りが素晴らしい。
匂い嗅いだだけでお腹がすくもんな。
「ゴチになります!」
「ゴチになりやす!」
「ゴチだぬ!」
ハハッ、ヴィルは食べるわけじゃないのにな。
最近のカットイン芸は面白いなあ。
「今日はお米たくさん炊いてるからね。大型炊飯器大活躍!」
「よーし、その挑戦状は受け取った。メッチャ食べる!」
「ありがとうございます」
「メニーメニー食べるね」
ダンテ、あんた一番小食だろうが。
アトムは脇目も振らずにかっ込んでるわ。
バエちゃんが聞いてくる。
「ユーちゃん達の武勇伝聞かせて?」
「武勇伝? 戦争のってこと?」
「うん、せっかく無事に帰ってきてくれたから」
こう言ってもらえると嬉しいもんだ。
あたし達の無事を祈ってくれてた人がいる。
「飛空艇のことはソル君達から聞いてないのかな?」
「ユーちゃんサイドの話も聞きたいの」
「なるほど、じゃあ……」
「……役人を名乗る詐欺に気をつけろと、回覧板で回ってきたぞ? って言ったら、アンセリが笑っちゃってさあ」
「あははははははは!」
「……で、その艦長さんが四天王と言うからにはあと二人いるのだろう? って聞くから、『カードマニア』と『インチキ横文字トーカー』だよと教えてあげた」
「あははははははは!」
「……『精霊使いユーラシアのサーガ』のエピソードとして相応しいくらいかなって言ったら、ヴィルが相応しいくらいぬ! って」
「あははははははは!」
「……お前ら一〇〇人も雁首並べて一人もおかしいと思わなかったのかって、上の人に怒られたらどうするの? 経歴に傷がつくぞ? って言ったら、何もしないで帰っちゃったんだ。迎え撃つ準備してたのに」
「あははははははは!」
「……おっぱい割とあるんだよって教えてあげたら、どうして知ってるって聞くんだよ。ハグしたことあるからって言ったら、全員がすげえ羨ましそうなの」
「あははははははは!」
「……覗きには敏感な年頃だし。でもすごいえっちな感覚があるから嫌いなんだけどって抗議したんだ。ハハハすまんなって謝らせたった」
「あははははははは!」
「……おかげで美少女戦士殿のような方と知り合うこともできますがって言うからさ。十分おつりが来るねえって。あたしには会うだけでお得」
「あははははははは!」
ジスイズマイ武勇伝インテンケン山岳地帯。
バエちゃんがヒクヒクしとるわ。
十分楽しんでいただけたようで、あたしも満足。
「ああ、腹筋が痛い」
「おお、バエちゃんの鍛えられた腹筋を降参させたぞ!」
「何でユーちゃんの武勇伝はとっても愉快なの?」
「姐御は戦闘よりエンターテインメントの優先順位が上なんでやすぜ」
「つい笑いを取ろうとしてしまうね」
アハハとバエちゃんの腹筋に追い討ちをかける。
「ドーラは何もなかったんだ? あたしまだあちこち行けてなくてさ。話聞いただけなんだよね」
「戦争が起こることを知ってた上級冒険者の人は、事前のほうが緊張してたくらい。事後はユーちゃんの心配だけよ」
「そっかー、あたしの人望がなせる業だな」
「本当にねえ」
笑いどころなのに。
「まあ今回はヴィルがおいしいところを持ってったよ」
「ごちそうさまだぬ!」
ヴィルがバエちゃんに頭を撫でられている。
もう戦争は終わった。
独立後のドーラは問題がてんこ盛りなのだから、手のつけられるところから解決していかないとな。
チュートリアルルームで聞くことといえば……。
「ツインズはどうなったかな?」
「ヌヌス兄妹? 問題ないわよ。ギルドはまだだけど。戦争があることをデミアンさんから教えられたみたいで、一度ここにも相談に来たの。ギルドが非常時の体制だと思うから、戦争終わるまで急がなくていいよって」
「妥当な判断だな。新人さんは今のところツインズが最後?」
「ええ。次も選定は終わってるからすぐだと思う」
ふーん、楽しみだなあ。
「あれ? ツインズの前の新人がエルマ?」
「もう一人いたけど、事実上の脱落ね。三〇日間どの転送魔法陣も使用していないと使えなくなっちゃうんだけど、あと二、三日がリミットのはず」
「転送魔法陣は三〇日不使用でクビって縛りがあるのか。知らなかった。覚えとこ」
とゆーことは、エルマ以前の『アトラスの冒険者』の卵達は脱落決定なのか。
何人いたか知らんけど、先輩冒険者が教える制度のギリギリ適用外だった、ツインズの前の子が気の毒だな。
「……会ってみたいな」
「脱落間際の子? あっ、すごく助かる!」
「バエちゃんの給料が?」
「そお!」
アハハと再びバエちゃんの腹筋を虐めにかかる。
「どんな子?」
そもそも会いに行ける場所なのかが問題だが?
「一七歳の男の子で、名前はヨブ・タルクスカル。カトマスに住んでるの。固有能力が……」
「カトマスなら固有能力いいや。ドーラ一の鑑定士がいるから」
一七歳ならニルエと同い年だから知ってるだろうし。
「ユー様、であればカトマス行きの件は明日、急ぎですね?」
「うん。マルーのばっちゃんにもあたしのプリティフェイスを見せときたいし」
明日行こ。
「正確には何日余裕があるの?」
「ちょっと待って」
帳面をチェックするバエちゃん。
「ええと、チュートリアルルームへは最初の一回しか来ていないの。それが二八日前ね。他に一つ転送魔法陣が出てるはずだけど、何回チャレンジしてるかはわからないわ」
「どうせ一回か二回でヘタレてるんだろうなー。となると明日一発勝負っぽい。ダメならごめんよ」
「ユーちゃんなら大丈夫だと思うの」
謎の信頼感。
「ごちそーさま。今日は帰るよ」
「バエの姉貴、美味かったでやすぜ」
「御馳走様でした」
「レディー、グッドテイストだったね」
「バイバイぬ!」
「じゃあね、またね」
転移の玉を起動して帰宅、ヴィルは通常任務へ。




