第517話:精霊使いの悪知恵
話を続ける。
「建前だよ。セレシアさんの店で買うか新しいライバル店で買うかっていう二択を作っちゃえば、どっちが売れても青の民は儲かるでしょ?」
「いくら何でも阿漕じゃないか?」
唖然とするディオ君オイゲンさんサイナスさん。
フェイさんを見習えよ。
「材料だって二店分を一括で買うなら安く仕入れられるぞ? 第三のライバル店が参入してきても勝てる可能性が高い」
「こ、これが精霊使い殿の魔術的手法か」
オイゲンさんが驚いてるけど、大げさだってばよ。
「セレシアさんの店が儲かってる内は必要ないんだ。あのデカい倉庫の在庫調べてりゃわかるよね?」
「は、はい」
「今、やっとかなきゃいけないことは新店の場所の選定、店長店員に当たりつけとくことかな。ディオ君が漠然とした危機感を持ってるってことは、青の民で同じように考えてる人いるんでしょ?」
「はい」
「似た考えの人達を抱き込め。セレシアさんの店と新店とどっちでも販売できるような、定番商品の比率を上げておくんだ。そーすりゃ在庫が積み上がったとしても、新店オープンで一気に捌ける」
「はい!」
ディオ君の澄んだ瞳が輝きを帯びる。
この子、なかなかカリスマ性がある気がするなあ。
族長の器量としてはセレシアさんよりずっと上だぞ?
「もーセレシアさんが泣いちゃうからあんまりこういうことしたくないんだけど、青の民皆が泣くよりマシだからなー。この策を秘密に進めるのは多分ムリだから、二号店のシミュレーションって感じでカモフラージュしときなさい」
「わかりました」
「大事なことだからもう一回言っとくけど、セレシアさんの店が儲かってる内は絶対新店オープン計画をおおっぴらにしちゃダメ。いいね?」
「儲かってる内はダメというのは何故だ?」
フェイさんが聞いてくるが、あんた絶対わかってるだろ。
「青の民が割れるからだよ。ピンチだこれしか方法がない、って時は皆が協力してくれる。でも有力な選択肢が他にある時はそうじゃない。同じことやるんでも、タイミング次第でおねーちゃんに恨まれるか感謝されるか変わっちゃうんだぞ? 感謝されるほうがいいでしょ。人の上に立つ者は民をまとめるのが仕事だからね」
あ、さてはこれ、オイゲンさんにも聞かせたかったんだな?
緑の民もタイミング次第で面倒なことになりそうだから。
フェイさん悪いやつ。
「精霊使いの悪知恵は理解したか?」
「はい、十分に!」
「悪知恵とはひどいなー。スーパーヒロインの叡智だとゆーのに」
皆で笑う。
「緑の民は今どうなってるのかな? あたししばらくドーラにいなかったから、状況がわかんないんだよね」
「少々問題がある。緩衝地帯への再出店から始めてはどうかと勧めてはいるのだが」
「交易に繋がりかねないと、長老連から大反対されておりまして」
「ははあ、ヨハンさん関係なしに商売を嫌がる感じになってるんだ?」
拗らせてるな。
しかし?
「ユーラシアはどう思う?」
「強引にやっちゃってもいいと思うけど、あたしにも敬老精神がないわけじゃないから」
こら、笑うところじゃないわ。
「……丁寧に行こうか。名目は何でもいい。ああ、転移石碑ができたら開墾進めるぞーの件でいいや。オイゲンさんから各族長クラスに頻繁に使者を出す。で、緑の民の使者が来るたび、各村で商売や交易のメリットをチラッチラッと使者にわからせるよーにしておくじゃん?」
「地ならしか」
「そうそう。商売万歳の意見を前もって受け入れやすいようにしておく」
皆が頷く。
「で、開墾が始まったらどーやったって緑の民も他色の民と関わるから、商売いいなお金儲かるといいなって気運になってくると思う。ところで反対派の長老達は何か欲しいものないかな?」
「要するに、交易でのメリットをエサに釣るわけか」
「うん」
オイゲンさんが首をかしげる。
「……お茶を飲みたいと言っていたことがありますな。帝国産のを昔手に入れたことがあって、大層おいしかったと」
「有用な情報だね。ドーラでお茶作ってるとこ教えてもらったんだ。帝国産の茶葉も今後貿易復活で手に入るようになるから、飲み比べなんて趣向として面白いかも。いただきものだけどって感じで与えて餌付けして、飼い慣らしていこうか。最後に民の総意で商売・交易したいんですけど、でないと族長の立場が危ういんですけどって言えば、折れざるを得ないと思う。とどめにヨハンさんとの手紙を見せてあげればいいよ」
「手紙?」
おっと、フェイさんは知らなかったか。
「オイゲンさんとヨハンさんに手紙のやり取りしてもらってるの。緑の民エルマとヨハンさんの息子が『アトラスの冒険者』だから、そっち経由で」
「ほう、さすがだな」
緑の民は族長のほうを向くってマルーさんが言ってたくらいだ。
緑の民に商売と交易のメリットが伝われば、長老連が反対してたってどうにでもなるけどな。
「ところで緑の民は交易に参加したら、何を売れるんだろ?」
「紙、蝋、あとは柑橘類などの果実ですかな」
「蝋燭は聖火教徒に確実な需要があるよ。紙は……必ず売れるようになる」
フェイさんが興味を抱く。
「ほう、どうして?」
「ドーラの識字率低いんだよねえ。ドーラの発展のためには識字率を上げないとしょうがないと思ってるんだけど、識字率が上がると紙が売れるのは必然だから」
ディオ君が聞いてくる。
「では、識字率は上がるということですか?」
「うん、上げる仕掛けを考えてるとこ」
「簡単に識字率を上げる方法があるんですか?」
「あるよ。今灰の民アレク、白の民ケス、精霊ハヤテの三人に丸投げしてるんだ。あれ今どうなってるのかな? サイナスさん何か知らない?」
「あの札取りゲームのことか? 形になってるぞ」
「もう試作品できてるんだ?」
「ゲーム、ですか?」
首をかしげるディオ君。
これだけじゃわからないか。
「どうせなら楽しく学べるといいからね。ゲーム形式にして、遊ぶだけで自然に字を覚えられるとゆーものを売ることを考えてるんだ。字を覚えたくない人なんかいないでしょ? この手の仕掛けは値段間違えなきゃまず失敗しないんだなー」
「勉強になります!」
ハハッ、ディオ君素直。
あ、輸送隊帰ってきた。
今日は疲れてるか。
今度ゲームどうなってるか見せてもらお。




