第515話:悪魔バアルと聖火教の関わり
礼拝堂の奥の間に通される。
驚いたことにヴィルも中に入れてもらえた。
よかったねえ。
ヴィルをぎゅっとしてやる。
「帝国でリモネスって人に会ったんだ。年齢よくわかんないけどパラキアスさんくらいかな? 聖火教徒で、フワッとした雲みたいなイメージの人」
まずテンケン山岳地帯であったことを話しておく。
特にリモネスのおっちゃんについては触れておかねばなるまい。
「賢者リモネス……名前だけは聞いたことがあります。『サトリ』の固有能力持ちで、コンスタンティヌス帝も彼の意見には耳を傾けるという?」
「うん、多分その人だな。陛下の相談役みたいなことしてるって言ってたから」
ワッフーは後ろに控えているだけで何も言わない。
つまらんなー。
「『サトリ』とは人の考えていることがわかるという固有能力なのでしょう?」
「らしいね。知りたくないことまで知るし、そのせいで命を狙われることもあるって」
「確かに心を読める人に会うとなると身構えてしまいますね」
「いや、大丈夫だよ。いかにも信用できる感じの人」
こっちの考えてることがわかるったって、限界はあるようだった。
喋ってる話の内容と考えとの乖離を感じて相手が信用できる人物なのか測る、ということに本質がある固有能力の気がする。
「……リモネス氏に教わったのですか? 今回のドーラ独立戦争の裏に悪魔はいたことは」
「うん。高位魔族バアルが帝国のお偉いさんを煽ったらしいね」
声は出さないがワッフーが驚愕の表情を見せる。
わかる。
あたしだってまさか悪魔が戦争の裏にいたとは思わんかったもん。
「ミスティさんが戦後あたしに教えてくれるって言ってたのもバアルのこと?」
「はい。戦争前にユーラシアさんがバアルのことを知ったら、そっちにかかりきりになって戦争の犠牲が増えるかもしれないから言うなと、口止めされていました」
「パラキアスさんに? あたしの性格をよく知ってるなー」
苦笑い。
もしあたしが原因たるバアルの兆候とかきっかけを掴んでいたら、のめり込んでいたってのはあり得たなー。
「で、リモネスのおっちゃんが言うには、あたしがバアルの楽しみを潰したようなものだから、恨みを買うかもしれないんだって」
「可能性は高かろうと思います」
「すごく嫌なやつぬ!」
「ヴィルもこう言うくらいなんだよ。おかしな能力かスキルを持っているって話なんだけど、ミスティさん何か知らないかな?」
聖火教は高位魔族の動向をよく調べているようだから、何か情報を持ってるんじゃないだろうか?
ミスティさんが視線を真っ直ぐこちらに向ける。
「……私はバアルに遭遇したことがあります」
「そーなんだ?」
悪魔バアルと直接会ってる?
これはビックリ。
「この礼拝堂の完成直後のことです。最大の白魔法も通じず、退魔結界に引き込もうとしたところ、感付かれて逃げられてしまいました」
ふむ?
重要な示唆が二つほどある。
「退魔結界というのはヴィルが捕まった、あの聖火の結界のこと?」
「はい。あれがかかればたとえ大魔王であろうと逃すことはないのですが」
「すごい結界ぬよ? 捕まったら悪魔では絶対に逃げられないと思うぬ」
「ふーん」
ミスティさん悔しそうだね。
感付いたバアルも、聖火教についてかなりの知識があるのかもしれない。
油断できないやつだな。
「あの時バアルを逃がしたことが、帝国での聖火教徒の立場を悪くしたのかもしれないんです」
「仕返しってことかー」
ありそう。
ただバアルって、戦争起こすみたいな大がかりな混乱が好きな悪魔にも思える。
あたしにやり返そうとするのは当然として、実害がなかったことの仕返しなんてするかな?
バアルの性格を知りたいもんだ。
「最大の白魔法って『セイクリッドポール』だよね? 悪魔に聖属性の魔法が通じないってどういうことだろ?」
「通じないというか、何かをされて発動できなかったんです」
「むーん?」
バアルの持つ正体不明の能力か。
魔法が効かないのか?
「物理攻撃じゃないと効かないのかな?」
「武器自体に聖属性が乗ってるものなら効くと思います。しかし魔法で聖属性をエンチャントしようとすると発動できないかもしれません」
「厄介だねえ」
聖属性や闇属性を扱うのはすごく難しいと聞いたことがある。
聖剣なんてものは伝説レベルだしな?
もちろんパワーカードで攻撃属性として聖属性が乗ってるものは見たことない。
「聖属性の武器を持ってたら怖いぬよ? 近寄らないぬ」
「ヴィルの言う通りだな」
ミスティさんも頷く。
聖属性の武器は手に入れることの困難さも含めて現実的じゃないな。
「魔法は効かない。バトルスキルも効かないかもしれない。聖属性の武器ならダメージ与えられるだろうけど、持ってたら近付いてこない……」
あれ、思ったよりハードル高くね?
「私の知ってるのはそれくらいです」
「ありがとう。無敵じゃないことはわかったから、多分何とかなりそう」
「本当ですか?」
「うん」
デス爺に転移アイテムを作ってもらって亜空間に飛ばしてもいいし、逃走禁止のアイテムを使って結界に追い込むかしてもいい。
厄介ではあるけど、対応策はいくつか考えつく。
やりようがないわけじゃないのだ。
そもそも結界を察したら逃げちゃうような小物から脅威を感じないんだよな?
「ところでワッフーは正式にミスティさんの側近になったの?」
「ワッフー? ああ、ワフロスは聖騎士やハイプリースト達の意見を取りまとめ、よく私を補佐してくれるのです」
「やるなあ」
嬉しそうなワッフー。
口が達者で比較的前に出るタイプだから、人や意見をまとめるのは向いてるのかもしれないな。
「あたし達は帰るよ。掃討戦跡の広い土地を開墾して、人の住めるところと耕地をなるべく増やそうと思うんだ」
「移民用にですね?」
「うん。カラーズは向こうにかかりっきりになるから、こっちに店作るの遅れるかも。ごめんね」
「いえいえ、構いませんよ」
「移民の皆の生活が落ち着いて、必要なものがあったりレイノスやカラーズに売れそうなものがあるなら教えてよ。カラーズの輸送隊に注意するように言っとくから」
「何から何まですみません」
「じゃ、また。ヴィルは通常任務に戻っててね」
「わかったぬ!」
「さようなら」
転移の玉を起動し帰宅する。
バアル、厄介なやつなのは間違いないけど……。




