第512話:あたしの生死が不明だそうだ
フイィィーンシュパパパッ。
「バエちゃん、こんにちはー」
「あっ、ユーちゃん? ユーぢゃああああーーーん!」
「え、何なの?」
チュートリアルルームに到着した途端、バエちゃんに泣きつかれる。
「どーした? せっかくの美人が台無しだぞ」
「えっ? 美人?」
「泣くのか喜ぶのかどっちかにしなよ。残念美人という言葉が外見上ピッタリ」
アハハと笑うが、まだ涙がボロボロ出てくるみたいだな。
メッチャ愉快な有様だけど、そーゆーエンターテインメントを提供してくれてるわけじゃないんでしょ?
「で、どーしたんだってばよ? 心して聞こうじゃないか」
「ユーちゃん達の生死が不明って聞いたのおおおおおお!」
「えっ?」
ドーラでの扱いが悲劇のヒロインっぽくなってたとは。
あたしとクララが脱出したのは墜落直前だったもんな。
ソル君達の位置からは、あたし達が脱出したとこ見えてなかったかもしれない。
「大丈夫だってばよ。ユーラシアさんだぞ?」
「うああああああ、よかったあああああ!」
こう熱烈に帰還を喜んでもらえると悪い気しないな。
「大きな炊飯器買ったのお! ムダになっちゃうところだったあ!」
「そんな理由かい!」
アハハと笑い合う。
ほら、顔拭いて。
しかしつまりあたしは、ドーラでは半分死んだと思われてるわけか。
ま、そんなんはあたしのビューティーフェイスを拝ませてやればすぐ解決するんだが、優先順位ってもんがあるだろ。
まずは移民関係だ。
聖火教のミスティさんと連絡を取って注意喚起すること。
あとは何といっても掃討戦跡地の開発だ。
緩衝地帯とクー川近くの基地を結ぶ転移石碑を早めに設置して、カラーズ各色の民を総動員しないと!
「どうしたの? ユーちゃんも難しい顔してるわよ?」
「想像してごらん。懐かしの我が家に帰ってみたら、宿題が山積みだった状態を」
「ひやああああああ!」
見てて不安になるような、題して『混沌』の舞いを披露するバエちゃん。
しかしここまでリアクションが大きいと思わなかったわ。
宿題に嫌な思い出でもあるんだろうか?
「宿題はともかく、腹が減っては戦はできんのだ。戦は終わったけれども」
「あはは。夕御飯食べにくる?」
「お肉持ってきたんだ。明日食べに来ていい?」
「あっ、じゃあカレーにするね。大型炊飯器初めての出番」
「お肉ゴロゴロかれえだね。楽しみにしてるよ」
大型炊飯器ってなかなか魅力的な響きだわ。
おかわりできるなあ。
「ユーちゃんが空飛ぶ軍艦を落としたって聞いたよ?」
「そうそう。ソル君の情報かな? でもあたしは帝国本土にいたから、逆にドーラがどうなってるかわからなくてさあ。もうこっちで全て終わってるのに、向こうに延々と居座ってたんだよ。今日帰ってきたとこ」
「あっ、今日帰ってきたの?」
「まだドーラの人達の誰にも会ってないんだ。生死不明扱いになってることも、今バエちゃんに聞いてそうなのかって知ったわ」
「大変だったわねえ」
「でも帝国で面白い人にも会えたからいいんだ」
艦長さんとヒゲ隊長さんと『サトリ』のおっちゃん。
この三人にはまたいつか会える気がする。
と、積極的にフラグを立てておく作戦だ。
「無事帰れてよかったじゃない。挨拶回りに行くんでしょ?」
「うーん……」
帰宅後、本の世界とチュートリアルルームにコンタクトを取ったのは正解だった。
おかげで自分のやるべきことが見えてきた。
「しばらく間を開けちゃったからさー。やらなきゃいけないことが溜まっちゃってるんだよね」
「それが宿題なの?」
「うん。えらい数の移民が来るっぽいんだ。放っとくと餓死者が出ちゃう」
「餓死者? 大変じゃない!」
ビックリするバエちゃん。
「メッチャ大変なんだよ。早めに手を打たないといけない」
「ここに来る冒険者で、移民の話をする人なんていないんだけど?」
「んーあたしが兼業冒険者だからなのかなあ?」
「ユーちゃん、何と兼業なんだかよくわからないのだけれど?」
「疑問形が多いね。あたしもわかんない」
再びアハハと笑い合う。
「まあ色々問題点はあるんだけどさ。まずバエちゃんと御飯かなと思って」
「いや~ん」
出ました高速クネクネ。
どこに萌えポイントがあったんだか。
「じゃ、明日来るね」
「うん、待ってる」
転移の玉を起動し帰宅する。
◇
「どう思った? リモネスのおっちゃんのこと」
夕方の食事時に皆と話す。
まずは今日帝国を去る前に会った、あの飄々とした態度のおっちゃんについてだ。
「皇帝陛下の相談役が務まるってすげえな」
「普通の優しいおじさんという感じでしたが」
「いや、あのおっちゃんはかなりヤバい人だよ」
「姐御がそう言うほどですかい?」
「アテンションね?」
「要注意だねえ」
あの『サトリ』という固有能力、他人の考えてることが少しわかるって言ってたけど、真実と偽りを見抜くというのが本質な気がする。
「だからああいう人は信頼関係を築けたと思ってても、一回ウソ吐いただけでパーになると思うんだな」
「ははあ、じゃあどうしやす?」
「簡単だねえ。ウソ吐かずにガンガン貸しを押しつけていけば、いくらでもこっちの言うこと聞いてくれるよ」
「ワッツ?」
「剛腕ですねえ」
得意技だねえ。
逆にリモネスのおっちゃんはああいう固有能力持ちだから、信用できる人があんまりいないんじゃないかって気がする。
能力が能力だから迂闊に口に出せないようなことも知ってるだろうしな。
「聖火教徒って帝国では白い目で見られてるんでしょ? なのに皇帝の相談役になるほど信頼されてるんだもんなー」
帝国本土において聖火教徒は迫害の二歩手前みたいな状態だって話だった。
とゆーかあのおっちゃんがいるから、その程度の扱いですんでいるってことなのか?
「聖火教徒のドーラへの移住は進むと思います」
「クララの言う通りだな。でも聖火教徒って悪い人いないよねえ?」
何で帝国では扱いが悪いんだろ?
「トップの方にデビルが入り込んでるのかもしれないね」
「だから悪魔を嫌う聖火教徒がバカを見るってこと? あり得そうなのが嫌だなあ」
あたしじゃ何ともならんしな?
帝国のトップに顔が利くリモネスのおっちゃんの仕事だと思う。
「バアルとかいう悪魔でやすが」
「明確に敵だよね」
こんなにわかりやすい敵は初めてじゃないだろうか。




