第510話:あたしの戦いは終わった
リモネスのおっちゃんに聞く。
「魔道レーダーってのは何なの? 遠くから覗かれてるみたいで気持ち悪いんだけど」
「や、お察しでしたか。私も詳しくは知らんのですけど、宮廷魔道士達が作り出した、ある一定範囲の大きなレベル者を探知するというものらしいですな。今まで使う機会がなかったものを初めて使用でき、予算を申請できると知り合いが喜んでおりました」
とゆーことは攻撃に使えるものじゃない。
無害だな。
あたしも攻撃されるよーな気はしてなかったけど。
「あたしがドーラから来てるって知られると揉めそうで嫌なんだよね。一応有効レンジはわかってるから、範囲外まで飛行魔法で飛んでからドーラに戻るよ」
「それが良いでしょうな」
「おっちゃんにも土産話あげるね。リリー皇女はドーラで元気してるよ。従者のセバスチャンって人と冒険者やってる。今回のドーラ独立の水面下の攻防で、帝国の潜入工作兵部隊がリリーの根城にしてる村へ攻め込んでるはずなんだ。でもドーラの独立がすんなり認められたってことは、潜入工作兵を速やかに撃ち破って、ただの盗賊として処理してると思う」
「そうでしたか! 良いことを聞きました」
喜ぶおっちゃん。
「リリー毎日昼頃まで起きてこないんだよ。お茶がないと起きれないって。ドーラではお茶がまだ一般的じゃないんだ」
「ハハハ、懐かしいですな。しかしリリー様はお茶があっても昼まで起きてまいりませんぞ」
「マジか」
単なる寝坊助じゃないか。
しょーがないなー。
でもこれでリリーが元気でいることが、御両親にも伝わるだろ。
多分おっちゃんはあたしがドーラから来たことを隠して、上手に話してくれるに違いない。
「一つどうしてもわかんないことがあるんだ」
「ほう、何でしょうな。私の知ってることでしたら教えて差し上げよう」
「帝国とドーラはこれまでうまくやってたと思うんだけど、どうして特にきっかけもなく、帝国はドーラの支配を強めようなんて気を起こしたのかな?」
「……気になりますか」
「うん、すごく」
べつにドーラが独立したいなんて派手に運動してたわけじゃないしな?
おっちゃんの目が細くなり、ふとヴィルに目をやる。
「……高位魔族というのはあの子のように『いい子』ばかりではありませんでな。自らの欲望を満たすために、戦争を起こすことさえ厭わない者もいます」
「今回の騒動の裏側には悪魔がいたんだ?」
「はい」
衝撃だ。
まさかの事実。
「かの高位魔族の名はバアル」
「バアル……あっ、聞いたことがある! 一〇〇年位前にドーラ近海で海の一族間の争いを煽ったやつだ!」
「ほう、ドーラでも悪さを……」
おっちゃんが嘆息する。
「魔道士や技術者の達成感をくすぐって飛空艇を作らせ、政治家や軍人の名誉欲を弄んで戦争を起こさせる。誰も気付かない内に殺し合いの一丁あがりです」
「おっちゃんは固有能力で内訳を知ったの?」
「いや、聖火教のルートです。聖火教は悪魔に厳しく、特に危険な高位魔族に対して監視を怠りませんから」
「あ、ミスティさんの言ってたのはこのことだったか」
「ミスティさんとは?」
「ドーラの聖火教大祭司だよ。ここテンケン山の集落出身で、両親が『アトラスの冒険者』だったかでドーラに渡ったとか聞いたよ」
「ふむ。で、その方が?」
あんた心が読めるんじゃないのかよ。
「戦争に直接関係あって今あたしが知らなくていいことがある、って言ってたんだ。戦後に教えてくれるって」
「なるほど、間違いないでしょうな」
おっちゃんが大きく頷く。
「今回の件が戦争に至らず終結したのは、飛空艇が使えなかったからに他なりません。長い時間かけて周到に用意した戦争が不発に終わった、その原因である美少女戦士殿がバアルの恨みを買っている可能性は高いです」
「うんうん、わかったよ。楽しみだなー」
「楽しみ、ですか?」
おっちゃんは驚いたようだ。
「ヴィル、バアルって悪魔知ってる?」
「知ってるぬ。すごく嫌なやつぬ!」
「やっつけちゃおうねえ」
「強いぬよ? 今まで負けたことはないはずぬ。おかしな能力かスキルを持っていると、聞いたことがあるぬ」
ヴィルも心配そうだ。
「大丈夫、御主人を信じなさい」
「はいだぬ!」
おっちゃんがニッコリする。
「ははあ、いい子ですな」
「いい子ぬよ?」
「聖火教の礼拝堂に許可を受けて入ったことのある悪魔は、多分ヴィルだけだよ」
「許可? どういうことです?」
いや、だからあんた心読めるんでしょ?
「うちではこの子ヴィルを、主に連絡と偵察に使ってるんだ。で、ミスティさんに連絡取る時、ヴィルが礼拝堂に入るの許してって頼んであったの」
「ははあ、美少女戦士殿によほど信用があったのですな」
「どーだろ?」
その取り決めしたの、確か二回目に会った時だったけど?
「悪魔にも色々いるから、いい子は認めてやって欲しいな」
「ハハハ、そうですな」
さて、ボチボチ帰るか。
「おっちゃん、ありがとう。わかんなかったところが大分わかったよ。あたしにはまだまだ面白いことが待ち受けていると」
「面白いことですか」
絶対に面白いことだよ。
間違いないねえ。
「最後に聖火教の痕跡吹き飛ばしていくよ。この世で最大最強の魔法だよ? 『インチキ横文字トーカー』、やっちゃってちょうだい!」
「イエス、ボス!」
高まり凝縮する魔力が白い塊として撃ち出される!
ズガガガガガアアアアーーーーーーンンンンン!
「……呆れた威力ですな」
「でしょ? 攻めてきた兵隊さん達にこの魔法使う機会がなくてよかったよ」
もうもうとした砂煙の向こう側に見える、半円に削り取られた地面と失われた岩壁、そして青い空。
「じゃ、あたし達は行く」
「ふむ、また会える日を楽しみにしておりますぞ」
このリモネスという、不思議な印象のおっちゃんと知り合えたのは収穫だった。
クララの『ヒール』でダンテを起こす。
「あたしもおっちゃんとはまた会う気がする」
「『閃き』能力者のカンは当たりますからな」
笑い合う。
「またねっ!」
大荷物ごとクララの高速『フライ』で飛び立つ。
えっちな視線に似た嫌な感覚のレンジを抜けた頃、スピードを緩めて、転移の玉を起動し帰宅する。
ヴィルもまたドーラへワープする。
以上であたしにとっての帝国戦もまた終了したのだった。




