第509話:『サトリ』のリモネス
――――――――――一一三日目。
デカブツを落としてから一五日目となった。
もうそろそろ家に帰ってもいいんじゃないかとも思うけど、最後に一発どーんと楽しませてくれないかなって気もしてる。
「御主人?」
あれ、初めてのパターンだね。
ヴィルが戸惑いながら飛んでくる。
「どうしたの?」
「誰か来たぬよ?」
「誰か? 一人だけ?」
「そうだぬ」
ほう、面白いじゃないか。
ついに帝国も本気になったかな。
「あとどれくらいで来そう?」
「一時間はかからないと思うぬ」
「わかった。その人かなりの達人だと思うから、もう近付いちゃダメだよ」
「了解だぬ。でも気付かれてる気がするぬ」
「ふーん、やるなあ」
クララが言う。
「ユー様。十分時間は稼げました。その人に会わずに去ってもよいと思いますが」
「まあクララの言うことが正しいね。ただ目の前にエンターテインメントが転がってるのに逃すのは、あたしのポリシーに反するかな」
「エンターテインメントね?」
「エンターテインメントだねえ」
アトムが首を捻る。
「一人ってのがわからねえ」
「エンパイアの関係者とは限らないね」
「うーん、でもヴィルの気配を察するほどの実力者が、帝国政府や軍と全然関係ないのに今来るのは考えられないわ」
うちの子達が頷く。
「よし、盆地でもてなそう」
◇
「いらっしゃーい。どうぞ」
その男は来た。
灰色のローブとフードに身を包んだ、一見黒の民っぽい人だ。
顔が見えているのは黒の民と違うところ。
中肉中背で、老人にも見えるが、もっと若い人なんじゃないかな。
「やあ、これはすみませんな」
声に臆する気配は見られない。
薄藤色の瞳が印象的だ。
ははあ、こーゆーのを送り込んできたか。
さほどレベルが高いわけじゃないが、全てを見通すような独特の雰囲気がある。
この人にウソは通じないと見た。
「御用件は?」
「それ、あたしが言うことじゃん。何で訪問者が言っちゃうの?」
互いに笑い合う。
面白そうな目であたしを見てくる。
「ほう、『精霊使い』『自然抵抗』『発気術』『ゴールデンラッキー』『閃き』。何と何と、五つの固有能力持ちとは。しかも全て自然に発現しているようだ。こんな例は私も初めて出会いましたぞ」
「おっちゃん『鑑定』の固有能力持ってるんだ? でもそれだけじゃないよねえ。すごくレアな能力持ちの気がする。どーぞ」
熱いハーブティーを勧める。
「いただきます。助かります」
ここの盆地は風が遮られて比較的暖かいが、渓谷は寒かっただろう。
ローブの男が何げないように言う。
「精霊ですか。こちらでは見ませんな。あ、悪魔もいますか」
「ドーラでも多いわけじゃないんだけど」
『ドーラ』とあたしが口にしたことでうちの子達が驚くが、いいんだよ。
この人とは腹を割って話さないといけない。
「で、美少女戦士殿は、何故にこちらへ?」
「『アトラスの冒険者』って知ってる?」
「聞いたことはあります。担当するクエストの転送魔法陣を設置されて、それを請け負うというものでしたかな?」
「うん。昔は帝国にもいたらしいけど、今はドーラ人だけみたいだね。あたしが『アトラスの冒険者』としてもらったクエストの関係で、テンケン山岳地帯の集落を知ってたんだよ。別個に飛空艇のことも知ってて、山の集落に投入されることがわかったから落としちゃえってことでこっち来たの」
「なるほど。どうせ飛空艇はドーラ戦に使われることになってたでしょうからな」
淡々と話すその男。
軍関係者じゃなさそうなのに、飛空艇のことは知ってるんだな?
「あたしにも教えて。おっちゃんはどういう人? 相当変な人だってのはわかるけど」
「ハハハ、変な人ですか。私は」
掴めない人だなー。
「私はリモネスといいまして、他人の考えてることが少しわかるという『サトリ』の固有能力を持っています」
「マジか。キツくない? その能力」
「や、察していただけますか。知りたくないことまで知る立場にありますし、そのせいで命を狙われることもあります」
「わかる」
「おかげで美少女戦士殿のような方と知り合うこともできますが」
「十分おつりが来るわ。よかったねえ」
再び互いに笑い合う。
「おっちゃんには全部話しとくけど、帝国の人には内緒だぞ? 適当に誤魔化しといてよ」
「了解です」
「ここの山の集落の住人は聖火教徒だったけど、反乱を計画してたってのは根も葉もないウソ。見捨てておけないからドーラに逃がしたよ。他の聖火教徒に迷惑かけるのもなんだから、うちの悪魔の子を使って聖火教徒じゃないぞーって偽装した」
「ありがとうございます。実は私も聖火教徒でして」
「あ、そーなんだ?」
何だ、じゃあ双方にメリットじゃないか。
「一方でドーラ側の理由もある。独立戦争を有利に運ぶために飛空艇破壊して、こっちで暴れてこいってのがあたしの役目なの」
「ふむふむ。ドーラ独立戦争は終わりましたぞ。というか始まりもせなんだようです」
「え?」
どーゆーこと?
「軍艦でドーラの港町を囲んだのですがそれだけ。カル帝国は正式にドーラの独立を認め、ドーラ側から友好の証として世にも稀な魔宝玉を献上されたとのことです」
「要するに表向き何もなかったことにして、すげー魔宝玉を貢いだから独立認めてやんよ、みたいな形になったんだね?」
「さようです」
「あーよかった。帝国との貿易や人の行き来が止まっちゃうと、ドーラもふん詰まりだからさあ。何とか友好的に収まんないかなーって思ってたんだ」
一安心だ。
「ところでおっちゃんはどういう立ち位置の人なの?」
「皇室の顧問というか相談役というか、陛下と茶飲み話をする立場にありまして。テンケン山岳地帯がおかしなことになってるから様子を見てこいと」
丸っきりウソでもないんだろうけど、おっちゃん自身が興味あるから、この役目を買ってでたんじゃないかな?
聖火教徒の村人がどうなったかも含めて。
「じゃあ軍や魔道士とは関係ないんだ?」
「はい」
「あたしはもうここにいる用がなくなったから、今日ドーラに戻るよ。あ、住居跡残しとくと、聖火教徒が住んでたってバレちゃうかな?」
初めておっちゃんの顔が曇る。
「何とかなりませんか?」
「じゃ、サービスで吹き飛ばしてから行く」
「助かります」
もういくつか聞いておくか。
リモネスさんか。
帝国にはおかしな人がいるなあ。




