第507話:この人もスカウトしとく
もうヒゲ隊長も世間話程度なら全然問題ないな。
当たり障りなさそうなところから。
「艦長さん、どうしてるかなあ? あたしが操舵室壊したって言ったら、すぐあのデカブツもうダメだって判断を下して、総員退避命令出したんだよ。あの素早い決断でかなり犠牲者は減った。有能な人だと思ったけど」
「おそらくは予備役に編入だ。第一線に戻ってくることはないと思う」
「そーかー」
ヒゲ隊長が大きな身体に似合わぬ首を竦めたポーズを取り、ため息のあとに続ける。
「俺の最も尊敬する上官だったが」
「隊長さんもまあまあだよ。逃げる時の指示は前もって出してたんでしょ?」
苦笑するヒゲ隊長。
一回目の失敗であたし達のレベルを知り、難しい任務だと理解したに違いない。
無闇と人数を多くせず、逃げる手段を徹底させていた。
「隊長さんはあたしに聞きたいことないの? 言えることと言えないことがあるけど」
「あの飛空艇、軍の最高機密だったと聞いている。事前にどこまで知っていたんだ?」
「謎の情報源で、対ドーラ決戦兵器として飛空艇を開発していたのは知ってた。一方でこっちに役人や行商人がパタッと来なくなったから、ひょっとしてヤバいんじゃねと言われてたんだ。試運転を兼ねて初めて実戦投入されるとするとこの山だ、どうせ油断ぶっこいてるから落としちゃえって」
「なるほど、飛空艇はドーラ戦に投入予定だったのか」
知らなかったのか。
考えてみりゃテンケン山岳地帯の集落を占領する役割の歩兵隊に、ドーラどうこうなんて説明する必要ないわ。
やっぱ飛空艇は結構な軍事機密だな。
ちょっと突っ込んで聞いてみよ。
「帝都の外港に並んでた八艦、あれドーラに行ったんでしょ?」
「ハハッ、よく知ってるな」
「やっぱあのデカブツいないと勝てないの?」
「どうかな? まだ我々には何の情報も入ってないが」
大分ヒゲの口が緩くなってきたな。
「……三日前、最後に帰ってきた兵士達から、君に助けられた、君が村人を逃がす時間稼ぎのために戦っている、と聞いた。どうせいずれ姿をくらます、損害が大きくなるからムリに攻めなくていい、とも」
「あっ、言っちゃったんだ。バカ正直だなー。悪気があっての進言じゃないから、罰しないであげてよ」
「ここを去るのか?」
「もちろん。惜しいものは岩塩とコッカー肉くらいしかないし、あたし達はバトルマニアじゃないからね」
深く頷くヒゲ。
「あと数日で君達もいなくなる、か?」
「うん。もう大体いい感じなんだけど念のため」
「思えば俺も愚かだった。時間稼ぎしていればよかったものの、功に逸ってしまった」
「いやー、攻めてこざるを得なかったんでしょ?」
憮然としてるね?
軍人は上からの命令に従わなきゃならないもんな。
「とゆーか魔道の装置でこっちを監視してるんだから、あたし達があんまり動き見せないのわかるじゃん。とするとあと何日かでいなくなるっていうの、説得力ないもんねえ」
「魔道レーダーまで知ってるのか?」
ビンゴか。
これはヒゲも本当にビックリしたみたいだな。
「知らなかったけど感じるんだよ。覗きには敏感な年頃だし」
「君のレベルだと当然か」
「でもすげええっちな感覚があるから嫌いなんだけど」
「ハハッ、すまんな。魔道は軍の管轄じゃないから何ともならん」
魔道士側の管轄ということだな?
「隊長さんはここで交代で、次は新しい人が指揮官になって攻めてくるの?」
「ああ、おそらくな」
「気が重いなー」
「何故?」
「隊長さんは損害を少なくしようとしてたけど、次の人は人数かけて遮二無二来そうな気がするんだよね。この地形で強引に攻めたって、人死にが多くなるだけじゃん?」
「もっともだ」
嘆息するヒゲ。
「敵である君に心配されるとはな」
「うまくいかないもんだねえ」
笑い合う。
「地の利があるあたし達には勝てないって。でも人数多いと手加減できないから困ったなー」
『デトネートストライク』で一発吹き飛ばせばビビッて来なくなるだろうけど、犠牲が大き過ぎる。
まあでも残り数日のことだし、何とか誤魔化し誤魔化ししていくか。
一回は切り札のヴィルを使えるしな。
「ところで初めの二回で来たあの役人さんどうなったかな? 伯爵家の次男だとかいう。この前の兵隊さん達の話聞く限り、えらく評判悪い人みたいだけど」
「あいつか」
露骨に侮蔑の感情が入りますね。
「貴族というだけで世の中を睥睨してたようなやつだ。今回の失敗で誰も擁護する者がいなかった。密かに君に感謝してる人もいるんじゃないか?」
「おおう、あたしの知らんところで?」
哀れだなー。
でもあの役人の報告書は重視されてないっぽい。
とゆーことならば、ヴィルをもう一度派手に活躍させておかなきゃな。
「隊長さんは今後どうするの?」
「俺か? 俺も終いだ。田舎にでも帰るかな」
「ごめんよ。相手が悪かったねえ」
「ハハッ。まったくだ」
屈託なく笑う隊長さん。
思いついたように聞いてくる。
「そういえば君、『閃き』の固有能力持ちなんだって?」
「うん。艦長さんに会ったんだ?」
「ほんの挨拶程度な。不思議な少女だ、話す機会があれば耳を傾けておけって言われたんだが」
「そお? 信じる信じないは隊長さん次第だけど、一つ教えてあげる。艦長さんと行動をともにするといいよ。うまくするとリリー皇女に会う機会がある」
「リリー皇女殿下と?」
首をかしげるヒゲ隊長。
「どうして落ちぶれ軍人にリリー殿下と会う機会ができるのかわからんが、面白そうな話だ。覚えておこう」
「もうちょっと土産話いる? あのデカブツの動力炉と魔力炉はメタメタに壊しちゃったから回収できないよ。燃え残りの爆弾はまだあるけど、多分あたし達が全部使っちゃう」
「サービスがいいな。じゃああばよ」
握手をしてヒゲ隊長と別れる。
ばいばーい。
「今のヒゲはスカウトですかい?」
「うん。真面目な人とわかった。帝国にいて腐っちゃうくらいなら、ドーラで活躍してもらおうよ」
「腐らせようとしてるのはボスね」
「おいこら、共犯者のクセに何を言う」
皆で笑う。
「ユー様、次回はかなり異なる陣容で攻めてくるんじゃないかと思いますが」
「タイムリミットからして、相手するのもあと一回か二回でしょ。次はヴィルも参加で派手にいくよ。楽しみにしててね」
人間相手の駆け引きは楽しいな。




