第502話:帝国はゲストをもてなす意思がないのかな?
夕御飯を食べながら、うちの子達と話し合う。
「渓谷の入り口をずっと見張っていたぬが、誰も来なかったぬ」
「つまんなかったねえ」
「そうでもないぬよ?」
よしよし、ヴィル偉い。
ぎゅっとしてやる。
「ところで渓谷ってどれくらいの大きさなのかな? 山の集落の村人が開発しようとしてた盆地から麓までどれくらい?」
「川沿いならば、下りは歩いて四時間かからないと思うぬ」
「あれ、思ったより近いんだな?」
じゃあ歩兵や飛空艇から脱出した人員は、余裕で昨日の内に麓に辿り着いているはずだ。
歩兵の作戦を指揮する本部は麓に置かれていると考えるのが妥当だが……。
「……ふつーに考えりゃ、今日もう一度歩兵が来てもおかしくなかったな」
「対応が遅いでやすね?」
「朝雨が降ってたからかなあ?」
「まだ昨日の報告をまとめている最中なのではないですか?」
「アイシンク、インフォメーションが多過ぎて、どうレスポンスしていいかドントノウね」
「そーかも」
クララやダンテの言うことが当たってそう。
悪魔を使うわデカブツを墜落させるわ、報告を受ける側にとってみれば何が何だかわからないかもしれない。
アンタッチャブルなやつらが山にいる、という認識かも知れないが……。
「艦長さんは、軍はまだこの場所に拘ると仰ってましたよ」
「うん、必ず来るんだろうねえ」
おそらく飛空艇は機密なんだろうから、墜落原因の調査なり機材の回収なりが絶対に行われる。
飛空艇には魔力炉があるんで、多分魔道士もついてくるな。
あたし達にとっても放置されると存在感を示せなくて困る。
せいぜい派手に暴れて、帝国にとっての頭痛の種にならなきゃいけないのだ。
「ダンテの説が一番近そうだな。情報が錯綜しててあたしらがどういう存在か測りかねてる。必ずしも役人や兵隊を追っ払ったのと、デカブツ落としたのが同じパーティーと思ってないかもしれないし」
「姐御、さすがにそれはないですぜ。ヤバめのパーティーが貧しい山の集落にいくつもあると考えるのは、ムリがありやす」
「うんうん。となると敵さんの対応はどうなるかな?」
「様子見の人員を送り込んでくる、かと」
ふむ、様子見か。
「……いきなり夜襲ってのはなさそうだね」
こら、あんたら驚くな。
素直ないい子達だけれども。
「よし、じゃあ明日帝国の使者なり軍なりが来たら丁寧に応対する。まだあたし達の手の内は見せない方向で」
「丁寧に、とはどの程度でやすか?」
「『精霊使いユーラシアのサーガ』のエピソードとして相応しいくらいかな」
「相応しいくらいぬ!」
ユー様悪い顔してる、とクララが思っているに違いない。
おかしなことを考えてるわけじゃないよ。
でもあたしの行く手にはお笑い要素というものがね?
「ごちそうさまっ! おやすみっ!」
◇
――――――――――一〇〇日目。
結局今日も帝国から何の反応もなかった。
しかし、遠くから覗かれているような嫌な感じは消えない。
何だろうな? これ。
あたしらの知らない、おそらくは魔道の監視技術があるみたい。
クララの『フライ』で飛んでみて、嫌な感じのする大まかな範囲を把握した。
「ヤバいでやすか?」
「かなりのレンジね」
「うん、さすがは帝国だけのことはあるな。侮れないねえ」
「姐御も侮れないでやすけれども」
「侮るくらいなら尊敬してよー」
皆で笑う。
「遠距離から攻撃されるおそれはないですか?」
「そーゆー雰囲気じゃないなー。もっと何か、えっちな感じ?」
「ははあ」
何となく納得したようだ。
まあ飛空艇の残骸から回収できるものは回収したいだろうし、遠距離からむやみやたらと攻撃してくることはないと思いたい。
「大体わかった。こっちはこれでいいや。アトムが『マジックボム』仕掛けた場所、まだ効果が生きてるか確認しに行こうか」
「「「了解!」」」
◇
――――――――――一〇一日目。
デカブツを落として三日目になる。
帝国の反応鈍くない?
あたしのやる気をなくさせる作戦かな?
ヴィルが飛んでくる。
「帝国軍が来たぬ!」
「よおし! いよいよお出ましか」
「腕が鳴りやすぜ!」
「でも『マジックボム』に引っかかって帰っちゃったぬ」
「何だよもー。暇なんだけど?」
やる気ないのか?
『マジックボム』に引っかかるなんて油断し過ぎだろ。
魔道士やレベル高めの人を連れてないのかな?
「帝国はゲストをもてなす意思がないのかな?」
「招かれざるゲストでやすぜ?」
「エンターテインメントの精神に欠けてるよねえ。なっとらん」
クララが考えながら発言する。
「対ドーラの戦況報告が入ってから、こっちへ本格的に取りかかる、もしくはその方法を定めるということかもしれません」
「かもしれないけど、あのデカブツ大事じゃないのかなあ?」
艦長さん少将って言ってたぞ?
軍人の階級はよく知らんけれども、偉い人なんじゃないの?
そんだけの人が乗ってて、あんだけ秘密にしてたデカブツの扱いがぞんざいじゃない?
「忙しくなることはあると思ってたけど、こんな手持無沙汰なのは予想外だったわ」
「どうせカントリーガールには理解できない、とシンクされてるのかもしれないね」
「野郎、舐めくさっていやがるのか!」
「姐御、それあっしのセリフでやす」
わけのわからん監視の嫌な感じが消えてるわけじゃないんで、軽視されてるのではないと思うのだが?
今一番あたしの警戒心を刺激するのは、この嫌な感じだ。
「コッカー肉をイートしたいね」
「ダンテがいいこと言った! 逃げ散ったコッカー戻ってきてるかな?」
「戻ってきてるぬよ?」
「よーし、コッカー狩りだっ!」
「「「了解!」」」「了解だぬ!」
アトムが聞いてくる。
「『マジックボム』を仕掛け直してきやしょうか?」
「ん? いいよ、やめとこ。繰り返しのギャグもなくはないけど、素人さんにはイラッとくるかもしれないから」
「シロート、ワッツ?」
「いつもの掛け合いはイラッとしませんか?」
「少なくともあたしは楽しいからいいんだよ。向こうがこっちを楽しませてくれないのに、あたしが向こうを楽しませる義理はないなあ」
「義理はないぬ!」
うちの子達が苦笑する。
「渓谷にうまーいお肉を狩りに行こう。食べられる野草もチェックしとこうか」
「「「了解!」」」
今日はコッカーの石焼きだ!




