第500話:たわわ女神再び
「……もうし。あの、ユーラシア・ライムさん?」
「んー眠い……」
「眠いのはわかりますが、ちょっとよろしいでしょうか?」
「よろしくない。乙女の睡眠は最重要事項」
「眠ったままで結構ですので」
「わかった。でも五時間、もう五時間だけ……」
「ユーラシアさんったら!」
うるさいなあ。
寝ることより大事なことなんてこの世にないとゆーのに。
……ん? フワフワしたような、足元の覚束ない感覚。
以前にも同じことがあったような気がする。
目の前の薄着でたわわですげー美人のお姉さんが、笑顔というにはあまりにも面倒くさそうな表情を浮かべている。
「これは夢かな?」
「夢です。夢の中にお邪魔しています」
「ということは、あたしに夢賃借金請求権か損害賠償請求権が発生するということだね?」
「えっ? そんなことを言われたことは過去に一度も……」
「今までの人が権利を行使したかしなかったかなんてのは、あたしには関係ないぞ?」
「お、お許しください!」
「許すか許さないかは、話を聞いてから決めようじゃないか」
寝起きは機嫌が悪いのだ。
いや、起きてはいないのか?
おずおずと話し出す薄着美人。
「私のことは覚えておいでとは思いますが……」
「うん、ドーラのおっぱいさんより、やや重力に負け気味のその胸には見覚えがある」
「じ、重力に負け気味って……」
「えーと確か、薄着の国のたわわ姫……」
「そんな国はありません!」
「誰が決めたのかな?」
一つくらいあってもいいと思うよ。
あるべきじゃないかな。
「私はこの世界を統括する女神です」
「おお、そういえばそーゆー設定だった。思い出した!」
「設定って……まあよろしいですけれども」
諦め気味のたわわ姫。
「あたしがいい子だから、地位・財産・名誉・美貌・カリスマをくれるんだったよね?」
「違いますったら! あなたは今日の飛空艇との戦いにおいて、命を落とす予定だったんです」
「ふーん。予定は未定とはよく言ったもんだ」
結構危なかったもんな。
おっと、これは聞いておくか。
「ところで未来って決まってるものなの?」
「完全に決定してはいませんが、大体大筋に沿うものではあるのです。例えば川の流れを考えてください。上流の水は、海に流れ込むことが決まっているわけではないものの、放っておけばそうなりますよね?」
「うんうん」
「その流れが『運命』と呼ばれるものです。おわかりでしょうか?」
「イメージはわかる。ためになるなー」
たわわ姫が続ける。
「ユーラシアさんは『運命』の指し示す方向とは別の未来に辿り着きました」
「大したことしちゃった気分になるね。あたし偉い!」
「個々の小さき者が、『運命』に逆らって異なる結果を掴み取るというのは滅多にないことです。ましてや偶然でなくて自らの力でなし得たとなると、英雄クラスの事跡ですよ」
「英雄じゃなくてヒロインだとゆーのに。で、たわわ姫が損害賠償を請求される覚悟であたしの夢に現れたということは、何か重要な話があるんだね?」
「そ、そんな覚悟はしていなかったですけれども」
慌てるなよ。
軽いジョークじゃないか。
「私はこの世界を統括しているといっても、基本的に干渉することはできないんです。見守るだけで」
「ふむふむ、で?」
「しかし私にも、こうなって欲しいという未来があるのですね。つまり人類の繁栄、もっと具体的に言うと、文化が進歩し、人とものの流れが活性化され、世界が発展する未来です」
「つまり人類が繁栄すると、たわわ姫はボーナスをもらえちゃうというカラクリなのか」
「どうしてわかるのっ!」
バエちゃんの原理と同じだからだよ。
前に会った時も、給料がどうのこうのと言ってたじゃん。
あたしと望む未来が同じなら、たわわ姫は味方にできるんじゃないかな。
でもこっちからたわわ姫にアプローチする手段がなく、夢に出てくるのを待つしかない。
条件としては難しい。
「あたしが生き残ったことによって、ドーラを中心に世界が発展する運命の流れが強まった。ならあたしに乗っかってしまえということだね?」
「正解です。御理解が早くて助かります」
「あたしもドーラをいい国にしたいんだ。この件についてはたわわ姫と協力できるね。頑張るから期待しててよ」
「はい、ありがとうございます」
たわわ姫嬉しそう。
しかし?
「となると、今日は何で夢に出てきたの? あたしがやりたいようにやっていいなら、放っといてもたわわ姫の望む運命に近くなると思うけど?」
「『アトラスの冒険者』のことで、お話ししておきたいことが」
「おおう」
これは予想外だった。
忌々しそうな顔になるたわわ姫。
「実は『アトラスの冒険者』は、私の管轄ではないのです」
「ははあ? じゃあ要するに亜空間で隔てられた世界ごとに管轄の神様が違うってことなんだね?」
「どうしてそれを!」
「まあいいじゃん。あたしもいろんなことを見聞きしてて、想像できるようなこともあるってことだよ。で、『アトラスの冒険者』が何なの?」
ちょっと面白い話になってきたぞ?
たわわ姫が話す。
「『アトラスの冒険者』が私の世界に安定をもたらすものならば、受け入れるのにやぶさかではないです。しかしユーラシアさんのおかげで最も難しい場面を乗り切った今となっては、私にとって邪魔者になってしまったというか……」
「他所の神様の手助けがあると見做されて、ボーナスの配分が減らされちゃうんだね?」
「合ってますけど、どうしてわかるのっ!」
「あたしはカンがいいから。いや、あたしもこういう事業はドーラでやらなきゃと思ってはいるんだよ。他所の世界の都合でこっちが振り回されるんじゃたまらないからね」
どーもあたしの働きが目覚まし過ぎるから、たわわ姫が『アトラスの冒険者』をいらんもの扱いし始めたらしい。
困ったな?
「ただ今すぐ『アトラスの冒険者』をどうにかなんてことはできないぞ? 却って世の中が混乱しちゃうわ。たわわ姫の事情は理解したんで、意向に沿えるよう努力はする。いいかな?」
「は、はい。結構です」
「じゃ、最後に地位・財産・名誉・美貌・カリスマを最高ランクでプレゼントしてくれる件と、夢賃借金請求ないし損害賠償請求の件だけど」
「失礼いたしまーす!」
ちっ、逃げられたか。
ぐーすか。
たわわ姫は今後も登場します。
特に終盤になるとしょっちゅう。




