第497話:墜落直前
オレ自身が気を落ち着かせる意味もあって、あえて伝声管の向こうの相手を叱咤する。
「しっかりしろ! 貴様それでも帝国軍人か!」
『はっ、申し訳ありません!』
「異常が続くなら追って指示する。それまで待機!」
『了解!』
甲板はどうだ?
かなり激しい揺れだった。
振り落とされてしまった者も多いんじゃないか?
伝声管に向かって叫ぶ。
「甲板、誰かいないか? 応答せよ! 応答せよ!」
『か、甲板です』
よかった。
少なくとも無事な者はいる。
「こちら機関室の艦長クリーク・ミュラーだ。本艦は外部からの攻撃を受けたものと思われる。よって一旦基地へ転進する。落ち着いて甲板の被害状況を聞かせよ」
「艦長、それどころじゃありません! 二人の賊が甲板の全兵を撃ち倒し、艦内に侵入しました!』
「賊だと!」
どういうことだ。
出航時から潜んでいたということなのか?
いや、あの轟音と激しい揺れは、外部からの砲撃か魔法攻撃だ。
魔法攻撃?
この飛空艇の魔道結界に魔法攻撃は通用しないという触れ込みではなかったか?
では砲撃?
この空高くまで届き、あの音と揺れを引き起こす砲撃?
それでいて艦底に異常なし?
あり得ない事実ばかりが脳内を占める。
辻褄の合わないことが多過ぎるじゃないか。
バタバタと足音がして機関室に飛び込んできた者がいる。
「あっ、偉そうな人発見!」
「何者だ!」
彼女が侵入者か?
少女ではないか。
しかし異様にレベルが高い?
「あたしはテンケン山の四天王が一人、『美少女戦士』だよ。で、こっちが『白き幼女ヒーラー』ね」
「……お初にお目にかかる。オレがこの艦の艦長クリーク・ミュラー帝国軍少将だ」
「艦長さんだったか。ちょうどいいや。よろしくね」
何なのだ、このピクニックに来たかのように緊張感のない少女は。
侵入者には違いないんだろうが、のほほんとし過ぎている。
敵対の意思すらないんじゃないかと思えるくらいだ。
しかし妙に惹きつけられる……。
「用件を聞こうじゃないか」
問答無用に襲ってくるというわけでもなさそうだ。
まずは出方を見てみよう。
「艦長さんが話の通じそうな人でよかった。今、操舵室壊しちゃってさあ。もうすぐこの艦落ちちゃうから、皆に逃げろって命令出してよ」
「何だと!」
慌てて丸窓から外を見る。
高度が下がってる!
「本艦は墜落する! 総員退避せよ! 繰り返す! 本艦は墜落する! 総員退避せよ!」
全ての伝声管に向けて声を張り上げ、機関室員達にも命令する。
「お前らも逃げろ!」
「了解! しかし艦長は?」
「オレは彼女らに用がある」
「わかりました!」
機関室員達を逃がし、少女に向き直る。
「君は、何だ?」
「だから山の四天王の『美少女戦士』だってば」
人を食ったような答えが返ってくる。
これ以上、素性を明かす気はないらしい。
……オレの見る目に誤りがなければ、この二人は上限に近いレベルを持っている。
まともに戦って勝てるわけがない。
「四天王と言うからにはあと二人いるのだろう? それは?」
「『カードマニア』と『インチキ横文字トーカー』だよ」
横の幼女ヒーラーが笑った気がした。
色が白い。
亜人だろうか?
「ねえ、この船は空飛んでるけど、皆逃げられるかなあ?」
「非常時を想定した、脱出用のウインドスライダーがある。数は充分に用意されているから大丈夫だ」
というか今日は試運転だ。
ほぼ最小限しか乗組員がいない。
「へー、空から逃げられるんだ? 都会にはすごいものがあるねえ。あたし達もそのウインドスライダー、一つもらっていいかな?」
「ああ、構わんぞ」
「やったあ! ありがとう!」
無邪気に礼を言う少女。
何なのだ一体。
「君達は最初から当艦に乗り込んでいたのか?」
「違うよ。飛行魔法で艦の上まで飛んできて、魔道結界の外で飛行魔法を解除して乗り込んだの」
「ば、バカな。そんなマネができるとは……」
いや、しかしわからんでもない。
いくら何でもこれほど存在感のある少女が出発前から乗り込んでいて気付かないはずがない。
というか、隠れるのが得意そうにはとても思えない。
……かなり地面が近くなってきた。
「何故オレの任務の邪魔をする」
「上からドカドカ爆弾落とされちゃ困るからだよ」
「……どうして飛空艇のことを知っている?」
「調べたから」
かなり厳重な機密だったはずだ。
少将かつ艦長たるオレでさえ、知らされたのは数日前だぞ?
なのにこんな田舎少女が?
「今、田舎少女がとか考えたでしょ? わかるんだぞ?」
「ハハッ、すまない。君達が乗り込んでくる直前だと思うが、わけのわからん攻撃を受けた。あれは?」
「乗り込む時に狙い撃ちされちゃ困っちゃうじゃん? だからドカーンと援護してもらって、艦内を混乱させたの」
残りの四天王二人が援護と歩兵の相手を担当ということか。
地上部隊も散々に蹴散らされているようだ。
「なるほど、理にかなっている。で、そのドカーンの正体は?」
「うーん、ちょっと言えないかな。乙女の秘め事ってやつだよ」
肝心なことはのらりくらりと躱して話さない。
年齢相応の喋り口だが、相当危機意識が高い?
驚くほど高いレベルといい、こんな化け物がテンケン山岳地帯にいるとは。
「今、化け物って……」
「すまんな。うまい表現が思いつかんのだ」
冗談みたいなカンの良さ。
素晴らしい逸材だ。
「君は……軍に入る気はないか?」
「チヤホヤしてくれる? 美少女手当ては支給される?」
「美少女手当て? いや、特別扱いはさすがにできんが」
「じゃあ入らない」
騎士団に女性はいても軍にはいない。
内戦などの混乱期に女性兵士がいたことがあるだけだ。
女性が軍に入るだけでも、実は相当な特別扱いではある。
ふざけた言い方ではあるが、明確な拒絶であろう。
「艦長さんは逃げないのかな?」
「オレはこの艦を失った責任を取らねばならんのでな」
「艦長さんに責任ないよ? 誰が艦長でも落としたもん」
「ふ……」
笑いがこみあげてくる。
もっともだ。
誰がこの襲撃を防げたというのか?
この少女はどういうわけかオレを生かそうとしているらしいが……。
「艦長さんみたいないい人に死なれると寝覚めが悪いから、腕ずくでも連れて逃げるよ」
「もう遅い。オレも君みたいな子を道連れにするのは寝覚めが悪いが、生かしておくのは国のためにならん。死んでくれ」
緊迫。




