第496話:奇襲
「そこそこのダメージを与えることはできても、落とせないだろうね。でも飛空艇に思ったより機動力があったりすると、パターンAの方法しか取れないかな」
ダメージを与えたからドーラ戦に出張ってこないと考えるのは甘過ぎる。
決定力はおそらく高々度からの爆撃しかないと思うから、少々の修理で直っちゃうものなら必ずドーラ戦に投入されると考えるべきだ。
可能ならば完全に破壊しなければならない。
「パターンBは何でしょう?」
「ソル君に『デトネートストライク』を覚えてもらう」
「「「!」」」
驚くソル君パーティー。
『デトネートストライク』とは最大最強の魔法なんだよ、と長老に説明しておく。
アンが聞いてくる。
「攻撃魔法は効かないんだろう?」
「何をもって効かないと言ってるんだと思う?」
「「「えっ?」」」
虚を突かれるソル君パーティー。
「例えば人形系レア魔物には攻撃魔法でダメージを与えることはできないけど、魔法当てると吹っ飛ぶでしょ?」
「え、ええ」
「ドカンとデカい魔法ぶつけるとするよ? 魔法無効なら船体を壊すことはできないんだろうけど、中の乗組員はビックリするんじゃないかな」
「ユーラシアさんはそんなことを考えていたんですか」
「乗員が混乱して狙い撃ちさえされなければ、あたしとクララは『フライ』で乗り込める。中入っちゃえばこっちのもんだよ。ぶっ壊してくる」
実際はどうやって無効化するんだか知らんけれども。
どうせ『ファイアーボール』や『サンダーボルト』を撃たれて燃やされることを一番の警戒対象にしてるに違いない。
魔法自体の衝撃の威力がどうこうなんて、完全に想定外だと思われる。
反射であっても吸収であっても、『デトネートストライク』の威力全てを消せはしないだろ。
「そうか、魔法が効かなくても、乗員を動揺させればいいというだけなら……」
「可能性は高いです!」
「敵艦が鈍重なデカブツだったらパターンBでいく。これなら確実に落とせる」
「「「わかりました!」」」
「最大最強の魔法は勇者に相応しいぞ!」
「「そうですねっ!」」「……」
こらソル君。
ノリが悪いぞ。
『御主人!』
赤プレートに連絡が入る。
ヴィルが敵艦を発見したか?
「どう?」
『大きな船がゆっくりそちらに飛行中ぬ! まだあと一時間くらいはかかると思うぬ』
「一時間か。ヴィル、ありがとう。そのまま見つからないように監視しててね。変化があったら連絡して」
『はいだぬ!』
長老が言う。
「いい子ですな」
「とってもいい子なんだよ。聖火教もヴィルは認めてやって欲しいねえ。聖火教徒のために働いてるとも言えるんだから」
大きく頷くもじゃもじゃ長老。
ヴィルは本当にいい子だからね。
偏見で見るのはやめて欲しいな。
「さて、一時間あるって言うから、お昼食べちゃおうよ」
◇
――――――――――飛空艇内部にて。艦長クリーク・ミュラー視点。
「……つまらん任務だ」
「提督、まあそう言わずに」
好天の空を往くオレの心中は荒天だ。
カル帝国が誇る新型戦艦飛空艇の初作戦だというのに、どうしてこうなった?
「動力炉、魔力炉、ともに異常ありません」
「大したものであるとお思いになりませんか?」
魔道士の言葉に不承不承ながら頷く。
飛空艇が大したものであることは認めざるを得ない。
しかし、ただ大したものであるだけだ。
何故こんなデカブツが空を飛ぶのか、オレの単純な頭では何度説明されても理解できない。
オレに理解できるのは、この飛空艇の戦略上戦術上の価値だけだ。
「貴公は御機嫌ではないか」
「提督のおかげをもちまして、大変順調でございますれば」
オレの補佐につき、主として魔道結界の運用保守を担当している宮廷魔道士、名前を何といったか。
こんなに偉そうに諂うやつを見たことがない。
飛空艇開発における中心人物の一人とのことだったが。
「オレは弱者をいたぶる趣味はない」
「反乱軍ですぞ?」
テンケン山岳地帯の聖火教徒に反乱の気配があるという。
反乱だと?
貧しい村民に何ができるというのだ。
試験飛行だけでいいではないか。
どうして爆撃が必要なのだ?
「実績が必要なのでございます」
「わからんではないがな」
実績を作り予算が下りれば、無敵の飛行艦隊を組織できるだろう。
中将に昇進したオレが飛行艦隊を率いる。
そうした欲がないわけではないが。
「この野蛮なピクニックが必要とは思えん」
「反乱軍ですぞ?」
またそれか。
本当なのか?
目障りな聖火教徒を掃除したい、何者かの恨みか望みかが結晶化しただけじゃないのか?
あるいは飛空艇の実績を得たいがために、集落一つを犠牲にするなどということを考えたとか……。
「……オレも軍人だ。任務には最大限の努力を払う」
「さすがは提督でございます!」
お前は黙ってろ!
心の中で毒づく。
まあいい、どの道命令拒否などできなかった。
反乱の噂の出所と真偽はわからんが、疑われるようなことをするやつらも悪い。
つまらん任務はとっとと片付けて、ドーラ遠征に参加すればいいのだ。
華々しい武勲を立てる場が待っている。
ドゴゴゴッゴワーーーーーーーンンンンン!
突然の轟音と激しい揺れ。
椅子ごと壁に叩きつけられる。
「な、何事だっ!」
どこからも返事がない。
哀れにも滑稽な魔道士は、頭から血を流して倒れている。
部屋を飛び出し機関室へ。
「どうした! 事故か?」
「ど、動力炉、魔力炉、ともに異常ありません。外部からの攻撃と思われます!」
「攻撃だと?」
ドゴゴゴッゴワーーーーーーーンンンンン!
再びの轟音と激しい揺れ。
船体が大きく傾く。
たまたま動力炉の窪みに身体を預けることができ、転倒を免れる。
間違いない、確かにこれは攻撃だ!
あり得ないことが起こっているのだ。
オレは伝声管に飛びつき、操舵室に指示を出す。
「操舵室、聞こえるか! オレだ! 艦長クリーク・ミュラーだ! 当艦は攻撃されている! 基地へ転進しろ!」
『了解!』
よし、操舵室は機能している。
再び伝声管に声を発する。
「艦底倉庫、応答せよ! 艦長クリーク・ミュラー少将である。爆薬は無事か!」
『艦底倉庫、異常ありません。艦長、これは何事でありますか?』
「外部からの攻撃だ」
『攻撃? まさか……』
絶句する艦底倉庫の兵。
まさかで思考停止していいものなら、オレだってそうしたい。




