第494話:村人達をドーラへ
フイィィーンシュパパパッ。
「うわ、寒い!」
「これ、今日はマシなんだよ?」
ソル君パーティーとともに帝国のテンケン山岳地帯の聖火教徒の集落に到着。
昨日よりは風が弱い。
村人の一人、以前砂蜘蛛に襲われていたところを助けた女性が、心配そうな様子で話しかけてくる。
「精霊使いさん!」
「こんにちはー。仲間を連れてきたよ」
「役人と歩兵が現れました。長老が話し合いをしています」
「えっ? 随分早いね」
もうか?
こんな朝早くに山の上まで登ってきたのかよ。
いや、飛空艇の到着と爆撃開始の時刻が決まっていて、それまでに村人への通達と連行は終わらせるってことだな?
「帝国の役人や兵隊は働き者だねえ」
「南の盆地と渓谷の境です」
「急ぎましょう!」
「クララ」
「はい。『フライ』!」
うちとソル君のパーティー計七人が現地に向かうと、もじゃもじゃ長老が帝国の役人と話しているところだった。
「お待たせ!」
「これは……我が戦士達」
やるね長老。
咄嗟に身元がバレるような言葉を引っ込めてくれた。
えらそーな役人が怒鳴る。
「何だ貴様らは!」
「今長老が戦士だって説明したじゃん。あったま悪いなー」
役人をからかう意図に気付いたか、ソル君パーティーの表情が緩む。
殺伐とした状況でもエンターテインメントを忘れないあたし。
「後ろの三人、武装しておるではないか! 重大な違法行為だぞ!」
「あんたの後ろの人達も武装してるよ?」
「国兵に向かって何ということを言うか!」
「国兵である証拠は?」
「しょ、証拠?」
うろたえる役人。
身分証明書他各種書類すら用意してきてないようだ。
どうせ一方的に通告して、村人達を引っ立てていくつもりだったんだろう。
バカめ、そーはいくか。
あたしの掛け合いの餌食になれ。
「あーやしーいなー。国兵が自分の身分を証明できないなんてことがあるのかなー」
「ま、魔物も多い山の中を通るのに武装は必要であろうが!」
「バッカだなー。あたし達だって同じことが言えるじゃん。何であたし達ばっかり違法行為扱いするのよ? おかしくね?」
「ええい黙れ、この者達を捕えろ!」
「ははーん、さてはあんたら悪者だな? 役人を名乗る詐欺に気をつけろと、回覧板で回ってきたぞ?」
こらアンセリ、笑い声が隠せてないから。
「でやっ!」
役人と護衛についてきた四人の兵隊を軽く叩きのめす。
「国軍の兵隊さんがこんなに弱いわけないじゃないか。ウソ吐きめ」
「そ、そんなバカな……」
「まだやるつもりかな? 今度は手加減しないぞ?」
「後悔するぞっ!」
「あたしは後悔しない生き方がモットーだとゆーのに。寝坊して一食抜きになると後悔するけど」
役人と兵隊が這う這うの体で逃げ出す。
ばいばーい。
「あー面白かった」
「精霊使い殿……」
歓喜と不安がないまぜになった長老の声。
赤プレートを取り出す。
「村人達を避難させるね。ヴィル、聞こえる?」
『聞こえるぬ!』
「聖火教の本部礼拝堂、ミスティ大祭司と連絡取ってくれる?」
『大丈夫ぬか?』
心配そうだね?
「大丈夫だよ。許可取ってあるからね」
『わかったぬ!』
ソル君が聞いてくる。
「ここは聖火教徒の村ですか?」
「うん。ミスティさんの故郷で、長老のクランさんはミスティさんの伯父さんなんだよ」
「そうでしたか。これはどうも。ソールと申します」
「精霊使い殿のお仲間ですな。よろしく」
「ソル君達はここの南の渓谷を偵察してくれる? 村人全部を連れ去るつもりなら、まとまった数の兵隊を連れてると思うんだ。多分飛空艇が来る前に実力行使に出るだろうから」
「「「了解です!」」」
ソル君パーティーが出動すると同時に、赤プレートに反応がある。
『ミスティです。ユーラシアさんですか?』
「うん。帝国本土の山の集落に来てるんだ。今からこっち戦場になるから、村人達を逃がしてくれる?」
『わかりました!』
「クランさんに代わるね」
長老に赤プレートを渡す。
「ミスティか。精霊使い殿に、わしらのために土地まで用意してくれていると聞いた」
『やはり伝わっていましたのね?』
「すまん、迷惑をかけるな」
『そんな、伯父様……』
「善き火の導きを」
『善き火の導きを』
赤プレートを返される。
『では、今すぐそちらへまいります』
「じゃ、お願いしまーす。ヴィルはこっちに戻ってくれる?」
『わかったぬ!』
よーし、これで細工は流々仕上げを御覧じろ。
「長老はやはり最後まで見ていくのかな?」
「ええ。つまらぬ老人の感傷ですがな」
「いえいえ」
この地と共に生き、苦労してきた。
その半生の舞台が無残にも破壊されようとしているのだ。
思うところだって山ほどあるだろう。
あたしみたいな若造が言えることはないっすよ。
「ただ今ヴィル参上ぬ!」
「よしよし、よく来たね」
ヴィルをぎゅっとしてやる。
「ユーラシアさん」
アンが戻ってきて報告してくれる。
「御苦労様。どんな感じかな?」
「まだ少し距離があるが、歩兵部隊が接近している」
「やっぱり近くまで来てたか。何人くらいいそう?」
「五、六〇人だと思う」
「御苦労なことだねえ。まーでもどうってことない数だ」
「どうする? 隘路で防ぐか?」
アンの提案は少数で多数を相手にする常道ではある。
しかしただ追い返すだけでは不十分なのだ。
「いや、考えてることがあるんだ。ここまで通しちゃって」
「わかった」
「クララ、ミスティさんに挨拶しとこうか」
「はい、『フライ』!」
あたしとクララ、長老の三人で、携帯型の転移石碑のところへ。
もう村人は半分くらいドーラへ転移済みだった。
よしよし、避難に関しては何の問題もなしだな。
「ミスティさん」
「ユーラシアさん、伯父様」
ミスティさんにこやかだ。
「よかったです。皆さん完全に準備ができていて。手間取っている内に敵に襲われたらどうしようかと」
「長老の指示が良かったんだねえ」
「いやいや、精霊使い殿の説得力ですぞ」
戦闘が近いとは思えぬ穏やかな雰囲気の中、ミスティさんに伝える。
「長老は最後まで見届けたいそうなんだ。あとでソル君に送ってもらうから、ミスティさんはそのビーコン、持って帰っちゃってよ」
「ユーラシアさんは意地悪ですね」
ミスティさんが笑う。
件のビーコンがただの転移先を示すものではなく、転移石碑として機能するのはバレバレなのだ。
ユーラシア劇場の始まりだ!




