第491話:塔の村に注意喚起
フイィィーンシュパパパッ。
クララ達に夕食と明日以降の食事の準備を任せ、あたしはヴィルと塔の村に来た。
特にギルドでトラブルがなくてよかった。
おかげで戦争前に塔の村の皆に挨拶できる。
『あなたはカル帝国との戦争で、勇敢に戦いました。しかし残念ながら、命を落としてしまったのです』
夢の中でたわわ女神に言われたことを思い出す。
あたしもむざむざ死ぬ気はないけれど、先のことはわからないから。
「眩しいぬ!」
「おーい、じっちゃーん!」
よく目立つハゲ頭に声をかける。
「何じゃ、ユーラシア。騒々しい」
「御機嫌伺いだよ」
「こちらへ」
戦争のことと察したか、デス爺の小屋へ案内される。
「どこまで情報入ってる? 明日の朝、帝国の艦隊がレイノス沖まで来るよ」
「パラキアス殿と連絡を取った時に聞いた。バルバロスやマルーにも情報を回しておる」
「じっちゃんが連絡係やってるんだ?」
当たり前だったわ。
転移術を使えるデス爺以外に務まらない役だ。
「あたしは明日から帝国行ってくる」
「魔法の通じぬ空飛ぶ巨大戦艦相手と聞いたが」
「うん。相手に不足はないねえ」
「ムリはするでないぞ」
「わかってる」
何事も適当があたしのモットーだ。
ただ明日はなー。
少々ムリせにゃいかん場面もあるんだわ。
「塔の村では何か変わったことある?」
「……帝国の皇女がこの村に匿われているという噂が流れておる」
「え? 何で?」
「わからん。不測の要因にならねばよいのじゃが……」
リリーが見た目から皇女と思われるなんてあり得ない(偏見)。
大体皇女がドーラに来たことを知ってる人なんて……。
「ははーん、わかった」
「知ってることがあるなら話せ」
「多分パラキアスさんだよ。リリーが塔の村にいるって情報をリークして、帝国工作兵の注目を集める作戦だ」
「何? どういうことじゃ!」
手短に説明する。
「リリーはあんなんでも帝国ではすごく人気ある皇女らしいんだ。保護して連れ帰ることができたなら、工作兵の武勲としては十分過ぎるじゃん?」
後方を撹乱されるなんて、やられる側は嫌なもんだ。
けどやる側としては危険度の割に地味な仕事。
結局勝負を決めるのは空飛ぶ巨大軍艦だとわかってるだろうし、工作兵指揮官は絶対に手柄が欲しいはず。
「パラキアスさんが、早期決着間違いないみたいな口振りだったんだよ。何の根拠があるのかなーとは思ったけど」
「ふむ?」
「帝国のスパイが紛れ込んでるんでしょ。それをパラキアスさんが把握してて、リリーが塔の村にいることをバラした」
「ふむ」
一〇日だの七日だのって自信の根拠がわかった。
敵軍工作兵の襲撃目標を塔の村に限定できれば、当然決着は早くなるという目算なのだろう。
「となればここ塔の村が攻撃目標になる確率は高くなる。とゆーかパラキアスさんの言い方からすると、十中八九攻められるんだと思う」
「パラキアス殿も人が悪いの」
「今更何言ってんの。パラキアスさんは相当悪いやつだぞ?」
「思惑を読んでおるお主も相当じゃからな?」
「あたしの人の好さでトントンにしてよ」
「トントンにするぬ!」
アハハ、ヴィルいい子。
「土地勘のある人を斥候に出して、不意打ちを警戒して。塔の村の戦力だけで勝つ必要ないからね。『アトラスの冒険者』はバルバロスさんとの取り決めで最初西域各地の防備から外せないけど、ここが襲われてることがハッキリすれば討伐隊を組織できる。三日持ち堪えてくれれば援軍が来る」
「うむ、承知じゃ!」
デス爺がしっかりしてればこっちは大丈夫だろ。
「エルとレイカとリリーに注意だけしてくるよ。もうそろそろ塔から帰ってくるよね?」
「おそらくな」
「じゃねー」
「バイバイぬ!」
食堂行って待ってよっと。
あ、ちょうどいい。
「レイカ!」
「ユーラシアじゃないか。久しぶりだな」
「エルとリリーはまだ塔かな?」
「そうだな。もう帰ってくるんじゃないか?」
レイカパーティーと食堂へ。
◇
「……ってわけで、ジンのお父さんとは知り合いになったんだ」
レイカパーティーと話に花を咲かせる。
「強引な父ですが」
「ユーラシアはもっと強引だから問題ないだろ」
「ひどいなー」
一笑い。
エルとリリーも来た。
「おーい、こっちこっち!」
「「ユーラシア!」」
「よーやく戻ってきたか。のんびりしてるなー」
「何を言うか!」
アハハ。
エルのパーティーとリリー、黒服がやって来て席に着く。
「今日は精霊達は置いてきたのかい?」
「あたし明日から出張なんだ。うちの子達は携帯食とか作ってるの」
「出張?」
内緒話モード発動。
「帝国との戦争がいよいよ始まる」
「すまんの。帝国人が必ずしも戦争に賛成しているわけではないと思うのだが」
「わかってる。リリーのせいではない」
「以前リリーが言ってたでしょ? 魔道結界を施した飛行軍艦ってやつ。あれが実際に完成した。明日帝国の山岳地帯へ試験飛行だから壊してくる」
「「「「「「!」」」」」」
「だって放っとくとドーラを爆撃しようとするに決まってるからさー。迷惑極まりないじゃん? だから試験飛行で浮かれてる内にボコしちゃう」
リリーが聞いてくる。
「落とすってどうやって……」
「頑張って?」
皆が唖然とする。
そんなに尊敬しなくてもいいとゆーのに。
「飛行軍艦はあたしの担当だから任された。あんた達も仕事だよ」
「うん、話してくれ」
エルもノッてきたね。
「明日の朝、帝国の艦隊がドーラのレイノス港に到着する。で、以前に言ってた潜入兵特殊工作部隊だけど、攻撃目標がここ塔の村になる可能性が高いんだ」
「明日か……思ったより早いな」
黒服が聞いてくる。
「ユーラシア様。物流からすると、この塔の村が攻撃目標になることに違和感を覚えます。何か事情がありますか?」
「問題はそこだ。リリーが塔の村にいることがバレてるっぽい。リリーを確保して帝国へ連れ帰ることができたなら、工作兵大勝利の巻でしょ?」
衝撃が走る。
「わ、我が迷惑をかけておるのか?」
「迷惑なんて誰も思っちゃいないよ。どの道帝国は攻めてくるんだから。むしろドーラ全体から考えれば、敵が塔の村に拘ってくれるのはありがたいくらい」
皆が頷く。
塔の村は戦略的には重要な地点ではない。
おまけに必ずしも手練ればっかりじゃないけど、戦える冒険者の数はいる。
もーパラキアスさんは変な工作してるんだから。




