第49話:老練の冒険者マウ爺
調子に乗ってさらにダンを相手にする。
あたしだってペペさんのデタラメな魔法『デトネートストライク』について、誰かに話したかったんだもん。
「でさ、射程が長いからいいようなものの、間違って近くに落ちたら自爆でしょ?」
「……想像したくねえな」
「使用コストが残りマジックポイント全部とヒットポイントほとんど」
「何だそりゃ? 聞いたことねえぞ」
「あんまり使えないから禁呪にした」
「ハハハ、禁呪かよ」
ダンがちょっと真顔になって言う。
「説明くらいされたんだろう? ユーラシア、あんたあれがどんな魔法か大体予想できてたはずだ。何で買ったんだ?」
「キャラクターが愉快だったからかな」
「ペペさんのか?」
「うん」
ダンは半ば呆れたように口に出す。
「まったく、いい性格してるよ」
二度も褒めんなよ。
照れるじゃないか。
「ペペさんに期待してるってこともある」
「期待?」
「ペペさんは、買ってくれないと次の魔法を開発できないって言ってたんだ。スキルを作るってえらいことじゃん? またすんごいやつができてくるんじゃないかと」
「あんたまたペペさんから魔法買うつもりなのかよ?」
「とゆーかペペさんはあたしに売るつもりらしいぞ?」
あたしはペペさんの開発するスキルを買う権利を獲得したんだぞ?
ダンが笑う。
「面白れえネタだったぜ。あんた、これから用はあるのかい?」
「夜になるとベテラン冒険者が多くなるって言うじゃん? 話だけでも聞きたいかな」
夜は早く寝たいし、人が多くなるなら精霊連れはちょっとな、とは思ってるけど。
ダンは振り向きもせず、親指で後ろを指す。
「あそこに貫禄のある爺さんいるだろ? 近頃大して現場には出てないらしいが、現役最年長の『アトラスの冒険者』だぜ」
ダンの指し示す食堂のテーブルに、老齢の冒険者がいた。
がっちりした体格と日焼けした肌は、彼が歴戦の勇士であることを容易に想像させる。
「体験談には事欠かないに違いないぜ。ただ偏屈な爺さんなんだ。俺が取り持ってやるよ」
「わあ、助かるー。ダンが今日初めて頼りになる!」
「未来永劫頼りになるんだぜ。おーい、マウ爺!」
マウ爺と呼ばれた老戦士がゆるりとこちらに身体を向ける。
「何じゃ、ダンか。そっち向いただけ労力のムダじゃったわい」
「相変わらずひでえ言い草だな」
ダンが苦笑する。
「彼女達は新人冒険者でな、ぜひ爺さんの話を聞きたいんだと。武勇伝でも聞かせてやってくれよ」
「ほう、これはめんこいお嬢さんだ。ほっ?」
精霊である後ろのうちの子達が目に留まったのだろう。
少し眉を上げている。
「精霊使いが加入したとは聞いていたが、嬢のことじゃったか」
「ユーラシア・ライムでーす。よろしく、マウさん」
「ま、座ってくれ。大きいテーブルがよいかの」
大テーブルの席に移動し、カモミールティーと盛り合わせ大皿を注文する。
ダンも話に加わるようだ。
マウ爺が先ほど掘り出し物屋で買った特売カードに目をやる。
「ほお、パワーカードか。久しぶりに見るの」
「パワーカード? マウ爺、そりゃ何だ?」
「ダンは知らなんだか。ムリもない。魔力を流し込んで具現化させる、カード型の装備品だ」
「あんた何でそんな変な装備品使ってるんだよ」
「変ゆーな。いや、精霊はパワーカード以外のふつーの装備品を使えないからさ」
「もちろん人間にも使えるのじゃがの。使い勝手が直観的じゃないせいか単に出回っておらんせいか、ほとんど使い手はおらん」
「弱いのか?」
おいこら、ダンよ。
ここに使用者がいるんだから、ちょっとは遠慮しなよ。
「武器なぞ使い手次第じゃ。しかし容量の関係で、突出して優れたカードはないと聞いたことがある」
容量の関係とは?
「どういうことかな?」
「一枚のカードに詰め込める機能には限界がある。仮にレアな素材が豊富にあったとしても、伝説級のカードなど作れんということじゃ。例えば武器だったら、ありふれた剣と名工の鍛えた魔法剣では、比較にならぬ差があるじゃろう? 伝説級の装備を手に入れたら、代わりを探すなど普通は考えん。しかしパワーカードは違う」
一呼吸置き、あたし達を見るマウ爺。
ダンもパワーカードには興味あるみたいだな。
情報屋の性だろうか?
「七つのカードを柔軟に組み替え、状況に即応させるのが醍醐味と言える。おそらくあるカードが、別のあるカードの完全上位ということすらないのではないか」
アルアさんのところで教わった、『サイドワインダー』と『スラッシュ』の関係を思い出した。
同じ斬撃属性・攻撃力上昇であっても、『サイドワインダー』はバトルスキル・薙ぎ払いを使うことができ、『スラッシュ』はより攻撃力上昇効果が大きいのだという。
「マウさんはどうしてパワーカードについて詳しいの?」
「ハハッ、とても詳しいとは言えぬな。長く冒険者をやっとると断片的な知識は増える、というだけじゃ。今、嬢が持ってる『ポンコツトーイ』については知っておるぞ。かつてパワーカードの使い手だった男が、常に装備していたカードだからの」
ビックリした。
常に装備していたカード?
じゃあ長期にわたって有効なカードかもしれないな。
「これ、ついさっき掘り出し物屋で買ったんだよ。まだあたしもどういうカードだかチェックしてないの」
「こいつ、掘り出し物屋で値切ってたんだぜ」
ダンめ。
いらんことは言わなくていい。
「冒険者なり立てで『ポンコツトーイ』を手に入れるとは、嬢も大変ツイておる。それは装備していると、得られる経験値が五割増えるカードじゃ」
経験値五割増し?
レベルアップが早くなるということか。
メッチャ使えるじゃねーか。
四枚手に入ってよかった。
全員が装備すること決定だな。
「他に一切効果はないので、ギリギリの敵と戦わねばならん場面で装備するカードではないがの」
「なるほど、ボス戦では使いづらいのか。ボスは経験値多そうなのになあ」
「パワーカード製作者のアルアという女ドワーフがおるじゃろう? あやつの祖母アリアが生み出したものだと伝えられておるぞ」
マウさんは物知りだなあ。
つまりこの『ポンコツトーイ』こそが、アルアさんでも理屈のわからないパワーカードの一種だな?
しかしあたし達の冒険者生活をサポートしてくれる、素敵な効果だ。




