第489話:背中がかゆくなっちゃうからムリ
「ただいまー」
テンケン山岳地帯の聖火教徒の集落から戻ってきた。
うちの子達が聞いてくる。
「お帰りなさい」
「どうでやした?」
「全く問題ないな。大急ぎで移住の準備してもらってる。聞きわけが良過ぎてあたし自身がビックリだわ」
「ベリーナイスね」
「ナイスだねえ」
「ユー様は他人に言い聞かせるのが得意ですから」
クララの言う通りだな。
あたしの言うことは皆がよく聞いてくれる。
ありがたい、とゆーか話が早くて助かるわ。
さーて、もうレイノスの総督府も開いてる時間だろ。
赤プレートに話しかける。
「ヴィル、聞こえる?」
『聞こえるぬ! 感度良好だぬ!』
「パラキアスさん、どこにいるかわかるかな?」
『ちょっと待つぬ』
しばし待つ。
『見つけたぬ! 前もいたことのある、レイノスの大きな役所だぬ』
ビンゴだ。
パラキアスさんはレイノスのドーラ総督府にいる。
「前と同じ部屋かな?」
『そうだぬ』
「副市長室だな。じゃあ窓をノックして開けてもらいなさい。あたしが連絡取りたいって。同室の人にも聞かせて構わないから」
『はいだぬ!』
明日には開戦だ。
やはり情報を得やすいレイノスで戦況を見るつもりだな。
通信が繋がる。
『パラキアスだ。オルムスとオリオンがいるが構わないな?』
「うん、全然構わないよ」
レイノス副市長のオルムス・ヤンさんと、確か船団長のオリオン・カーツさんか。
パラキアスさんと合わせて、パワーナインの中でもドーラの行政に関わる三人だ。
「大型飛行軍艦は明日初めて実戦投入、行く先はテンケン山岳地帯の聖火教徒の村だって」
『予想通りだな』
「もーパラキアスさん悪い人だな。おかげでこっちが苦労するよ」
『ハハハ、すまんがよろしく頼む』
憎めない人だなー。
パラキアスさんはパラキアスさんの信念でやってることだし。
おそらくパラキアスさんが、山岳地帯の聖火教徒が反乱を企図しているとの噂を帝国に流した。
本人が明言したわけじゃないけど、まあ間違いないだろ。
帝国本土の状況を混沌とさせることでドーラに対する圧力を減らし、最終的には住民を移民として迎え入れるつもりだったのだろう。
確かにうまく嵌れば帝国政府の注意を山岳地帯に引きつけることができ、人的被害少なく、ドーラ戦の戦況を有利にすることができたかもしれない。
でも山の聖火教徒達が父祖の地を捨てなきゃいけなくなることは、考慮されていないようだ。
飛空艇の存在については完全に計算外だったろうしな。
『予想より帝国艦隊の航行速度が速い。明日朝にはレイノス沖に来るとのオリオンの情報だ』
「了解。ギルドにはそう伝えとくね」
『……テンケン山岳地帯の村はどうしてる?』
躊躇した言い方だね。
「今行ってきた。明日迎えに行くから荷物まとめといてって言っといたよ」
『信じたか?』
「うん。村の人は聖火教徒だから攻められるんだと思ってたけど」
『そうか』
パラキアスさんも言葉少なだ。
でも確信犯だから、自分のしたことに後悔なんかしてないだろ。
『向こうでは君の裁量で動いてくれ』
「任せてちょうだい」
『戦後のドーラの体制作りについての会議を開くんだが、君参加できるか?』
「えっ、いつ?」
『七日後だ』
「……つまりその頃までには大体決着がついていると?」
『ドーラはな。あとはユーラシア次第だ』
あたしが飛空艇を壊しさえすれば、七日後には勝って独立気分でいるつもりらしいぞ?
この前一〇日って言ってたのに、相当自信があるっぽいな。
根拠は知らんけど、パラキアスさんがその気ならドーラは問題ないんだろ。
となればあたしは日数に余裕を見て、これ見よがしに暴れて注意を引けば対帝国交渉は楽になるから……。
「真面目な会議は背中がかゆくなっちゃうからムリ」
『ハハハ、まあムリだろうとは思ったが』
「代わりといっては何だけど、ソル君を推薦しとくよ」
『『スキルハッカー』の固有能力持ちのか?』
「うん、スキルハッカーで最年少ドラゴンスレイヤーだよ。前途洋々の立派な勇者」
『……ふむ、わかった』
あたしに声がかかるところ見ると、その会議って政治の専門家だけでやるものではないな。
パワーナイン&ソル君ってとこか。
よーし、面倒なことはソル君に押しつけたし。
「じゃあね、パラキアスさん。オルムスさんとオリオンさんにもよろしく」
『ああ、武運を祈る』
「ヴィル、ありがとう。ギルド行っててくれる? あたし達も行くから」
『わかったぬ!』
これでよし。
◇
フイィィーンシュパパパッ。
ギルドにやって来た。
「やあ、ユーラシアさん。今日もチャーミングだね」
「こんにちはー、ポロックさん。……帝国艦隊は明日朝にはレイノス沖だって」
パラキアスさんから聞いた情報を声を落として付け加えた。
「朝か。わかった、ありがとう」
ギルド内部へ。
あれ? またヴィルがおっぱいさんのところにいる。
もうおっぱいさんが黒い感情を撒き散らして怖いってことは、全然ないんだろうな。
ヴィルは現金だ。
「こんにちはー」
「御主人!」
ヴィルが飛びついてくる。
よしよし、あんたはいい子だね。
「こんにちは、ユーラシアさん。ヴィルちゃんは可愛いですね」
「可愛いぬよ?」
「あたしも可愛いぞ?」
「御主人も可愛いぬよ?」
アハハと笑う。
「スライム牧場のクエストは問題ありませんでしたか?」
「クエストを終えることに関しては問題なかったけど、問題ありだったよ」
「え?」
おっぱいさんの目が点になる。
「御迷惑でしたか? 依頼内容としては、野生のスライムが出たから退治してくれ、とのことだったはずですが」
「そのスライムが、かの有名な服を溶かすスライムだったの」
「ああ」
大きく頷くおっぱいさん。
「本当にそんなスライムがいるんですね」
「もー危うく乙女の柔肌を晒すところだったよ」
互いに笑い合う。
「スライムが嫌う石というものがあってね。ちょうどあたしの欲しい石だったんだ。依頼主が取り除いてたやつをたくさんもらえたから、結果としてすごくありがたかった」
「ああ、よかったです」
おっぱいさんもニコニコだ。
声を低くして伝える。
「……ポロックさんにも言ったけど、帝国艦隊の進軍は思ったより早め。明日朝にはレイノスに来るって。気を引き締めてね」
「……はい」
よし、あとはギルド内部の様子を見たら帰るか。




