第488話:ドーラもいいところ
フイィィーンシュパパパッ。
カル帝国・山の集落の転送先に降り立つ。
「うあ、寒い!」
やっぱ寒さはドーラの比じゃないな。
冷たい風が吹きつける。
「あっ、精霊使いさん! どうしたんですか?」
「大問題発生だよ。長老いるかな?」
「家にいますよ」
岩壁に開いた穴の家に案内される。
「長老、こんにちはー」
「おお、お客人。久しぶりですな」
「こっち寒いねえ。ビックリしちゃった。ドーラとは違うわ」
「ハハハ、雪はあまり降らんのですが、冬は寒い土地ですぞ。岩肌を舐める風も強いですしな」
挨拶もそこそこに早速本題に入る。
「以前あたしが、ここの土地を捨てなきゃいけなくなったらドーラにおいでって言ったの覚えてるかな?」
長老がヒゲだが髪だかをぞろっと動かしながら、大きく頷く。
「もちろん。妙に印象に残っておる」
「その時が来たんだ。ここに帝国軍が攻めてくる」
「……やはり、か」
あれ、意外そうじゃないのが却って意外だわ。
前兆でもあったのかな?
「役人も行商人もとんと来ぬしの。山の中の邪教徒の存在がよほど迷惑と見える。事前通告もなし。大層狭量なことではあるの」
「事態は切羽詰まってるんだ。帝国軍の歩兵と空飛ぶ巨大軍艦が明日来る」
「空飛ぶ巨大軍艦? 明日?」
さすがに動揺する長老。
「ごめんね。あたしも確報を掴んだの、ついさっきなんだ。その空飛ぶ軍艦ってのが明日試運転がてらここへ投入されるんだけど、すんごい高いところからドカドカ爆撃してくるの。歩兵を撃退したとしても、もうここには住めない」
「……」
沈黙する長老。
いつの間にか集まる不安そうな村人達。
一人が質問してくる。
「さ、最初から降伏したらどうでしょうか?」
「何もしてないのに、事前警告もなしでいきなり攻めてくるって普通あり得ないぞ? あんた達は善良な帝国民のつもりかもしれないけど、完全に反乱扱いじゃん。帝国では住民反乱の扱いはどうなの? 死刑? 奴隷? あたしは帝国の法律はよく知らないんだ」
震え上がる村人達。
「この土地と心中するつもりがなければ、皆荷物まとめといてね。ドーラの聖火教大祭司ミスティさんが明日迎えに来るよ。あたし達が帝国軍を食い止めてる間に、転移でドーラへ逃げて」
「精霊使いさんが強いのは知ってるが、どうして俺らのために戦ってくれるんだ?」
これには説明が必要だな。
「ドーラ側の事情もあるんだよ。こっちと時を同じくして、ドーラも帝国と戦争になる。ただドーラの近海は魚人のナワバリで、向こうの首都であるレイノスっていう港町以外は船で近付けないの」
「じゃあ帝国軍は上陸できない?」
「うん。だからレイノスで帝国艦隊と砲撃戦になるんだろうけど、遠くからドンパチするだけでドーラが降参するわけないじゃん? だから問題になるのが……」
「先ほどの空飛ぶ軍艦か」
「そゆこと」
長老の声に頷くあたし。
「空飛ぶ軍艦なんてもんがドーラに来られると被害が大きくなっちゃうから、明日試験飛行で油断してる時に落としてしまえっていう作戦なんだ」
「お、落とすってどうやって?」
「根性で」
唖然とする一同。
腹案があることはあるけど、実際に問題の飛行軍艦を見てみないことには何とも言えないからな。
「ドーラだってここと一緒だ。帝国に逆らったんでも刃向かったんでもないんだよ。帝国は空飛ぶ巨大軍艦なんてものを造り上げたから、ドーラに対する支配力を強められるなんて、いらんこと考えたんじゃないかな。空飛ぶ巨大軍艦のせいでこことドーラが不幸になる。となると世の中に不必要なものだ。だから破壊する」
あたしの決然とした態度に息を呑む人々。
照れるぜ、そんなに格好いい?
「も、もし落とせなければ?」
「仕方がないからこっちでゲリラ戦やって、足元に火がついてるぞドーラなんか攻めてる場合じゃないぞーって作戦に切り替える。でもゲリラ戦なんかすると、帝国の一般市民の皆さんに迷惑でしょ? だからデカブツ落として終わらせたいんだよねえ」
しーんとする。
「皆に移住してもらおうと思ってる地は、ミスティ大祭司の指示の下、ドーラの聖火教徒徒が冬越しの準備もそこそこに、一生懸命整地してる場所だよ。戦場にはまずならないから安心していい」
「すまんな」
長老の一言に皆が頭を下げる。
「いや、あたしはあたしとドーラの都合で動いてるだけだからいいんだよ。でもミスティさんは違うの。ここの集落が襲われるかもって可能性だけを根拠に、使うか使わないかわかんない土地を、えらい労力かけて開墾してたわけでしょ? 向こうの信徒の間でもかなり不満が出てるらしいんだ」
初めてその点に気付いたか、どよめく村人達。
「ど、どうすりゃいいかな?」
「お、オレは帝国軍と戦うぞ!」
「そーゆーのはいらない」
村人一同を見渡す。
「向こうでミスティさんに感謝して。自分達が生きることだけ考えて。できる限りの支援はするよ? でもドーラもこれから冬だし、厳しいことは厳しいから」
「帝国兵は……」
「あたしに任せなよ。空飛ぶ軍艦以外はどうにでもなるから」
「しかし……」
「悪いけど、戦い慣れてない人は邪魔」
バッサリ切り捨てる。
あたしはやりたいようにやるのだ。
「お客人……精霊使い殿に従おう」
うん、そーしてください。
「だが、わしは村の最期を見届けよう。よろしいだろうか?」
「……はい」
ミスティさんがあの転移石碑を持ち帰ったとしても、ソル君のパーティーは三人だ。
一人だけなら転移の玉の帰還に問題はない。
「皆の者、明日に備えるのだ!」
「「「「「「「「はい!」」」」」」」」
よしよし、これでいい。
長老と話す。
「よかったよ。信じてもらえなかったらどうしようと思ってたんだ」
「ハハハ。あの気迫で話されて信じない者などおりはせぬよ」
気迫なのかな?
「でも、せっかく南の盆地が形になってきたところだったから」
「何の。命は大事ですからな」
わかってもらえてよかった。
これで集落の住民に犠牲者は出るまい。
「……ドーラもいいところだよ。温暖で土地が肥えてるからね」
「ドーラ『も』とおっしゃってくださるか。精霊使い殿は優しいですな」
「コッカーおいしかったからねえ」
アハハと笑い合う。
「今日は帰るね。明日は朝に来る」
「うむ、よろしく」
転移の玉を起動し帰宅する。




