第486話:レッツ睡眠
「あ、結構寒いわ」
図書室から外に出たらぶるっと来た。
そりゃまあドーラがいくら温暖とはいえ、落窪の月、いわゆる一二の月の夕方ともなれば気温は低い。
風も出てきたしな。
でもよかった。
この前ギリギリ間に合った秋植えの野菜達も、しっかり根付いているようだ。
「おや、ユーラシアじゃないか」
「こんにちはー」
ショップで店員やってるおばちゃんだ。
こんな時間まで畑仕事しているのか。
御苦労だなあ。
「あんた時々、肉を持ってきてくれるだろう?」
「うん。あたし冒険者になったんだ。知ってた?」
「もちろんだよ。緩衝地帯で他色の民もよく話しているよ」
「あたし有名になったな。うまーいお肉がノコノコ歩いてる狩場があるんだよ。そこで調達するの」
「ありがたいねえ」
「あたしがありがたいのか、お肉がありがたいのか」
「あはは、ユーラシアがありがたいんだよ」
「また張り切って狩ってきたくなるなあ」
「楽しみにしてるよ」
ホンワカした空気になった。
「あんたが村を飛び出てったのは、今年の三の月だったかねえ?」
「そうそう、精霊の月。あたしの誕生月だから」
「今や立派な冒険者だものねえ。大したものだよ」
「まあまあ、もっと尊敬していいんだよ。ほれほれ」
「ちっとも変わらないねえ。あんたはやんちゃでお転婆で腕白だったから」
「あれ、随分重ねたね。可憐で可愛くてチャーミングって言ってくれればいいのに」
掃討戦後の獲得地に拡張した畑を眺める。
広いなー。
「あんたがいなくなってから寂しくなったよ」
「あたしばっかりじゃないでしょ。デス爺達も西へ行っちゃったしねえ」
「こっちの広げた畑を見るのは初めてかい?」
「うん、サイナスさんに様子は聞いてたけど」
ハクション!
ちょっと冷えるわ。
「あらあら、あんたは健康だけが取り柄なんだから」
「『健康だけ』はひどいなー。『知性』や『美貌』も取り柄なのに」
アハハと笑い合う。
「カゼ引くといけないよ。これ羽織ってなさい」
「ありがとう」
ケープを借りた。
肩に温もりを感じる。
「この畑ねえ。族長が急いで仕上げろって躍起になってたんだよ」
「サイナスさんが族長って言われると、今でもメッチャ違和感があるなあ」
「あはははっ! そうだねえ」
ひとしきりの笑い。
「まーでもサイナスさん、思ったよりもしっかり族長してるわ。ただのヘタレじゃなかったわ」
「たくさん作物があっても余っちゃうと思うんだけど」
「レイノスと交易進んでるのは知ってるでしょ? 灰の村も作物を売るんだよ」
「理屈はわかるんだけどねえ。でもここは精霊とともに生きる村だよ。お金なんか、暮らせるだけあればいいと思うんだが」
灰の民は無欲だ。
こういう考え方をする人もまだまだ多い。
「あたしも冒険者になっていろんなところを見たけど、野菜は灰の民の村のが一番おいしいな。他所の人にも食べさせてあげないと可愛そうでしょ?」
「ああ、わかる気がするねえ。他色の民にもよく売れるんだよ。丸々としたいい野菜だって」
「移民が増えるんじゃないかって話もあるんだ。食べ物足んなくなるかもしれないよ」
「ふうん?」
話を曖昧に盛った。
戦争については話さないけれども、作物の収穫量は多くても決して困らないという意識は持っててもらいたいからだ。
「最近アレクと仲の良い、羽の生えた精霊がいるだろう?」
「ハヤテのことだね」
「あの子、どこから来たのかねえ? 何か聞いてない?」
「あ、ごめん。あたしが拾ってきた」
「え?」
緑の民の村の森に住む精霊なのだが、魔境で迷子になっていたことを話す。
「……ってわけで、ハヤテは今も緑の民の村の森に住んでるんだ。日中こっちに遊びに来てるの。居心地がいいらしくて」
「ああ、そうなのかい」
灰の民は精霊に優しいから。
「いつまでも精霊と暮らせる村だといいけどねえ」
「……うん」
デス爺がそれはムリだと考えてることを知ったら悲しむだろうな。
「さて、あたしはそろそろ帰ろうかな。ケープ返すね」
「本当にカゼなんか引くんじゃないよ」
「うん、じゃあねー」
図書室に駆け戻る。
◇
「やー今日身体冷えたから、あったかいスープがおいしい」
帰宅して夕食の一時だ。
「今日はのんびりした日でしたねえ」
「たまにはいいね」
戦争が近い。
明後日には帝国艦隊がドーラに来るらしい。
最近ゴリゴリやることをこなす毎日だからなー。
もっとも今日はドスケベスライムをやっつけたから、退屈を持て余すほど何もしてなかったわけではないのだが。
「ボス、トゥモローはどうするね?」
「絶対しなきゃいけないことはないなー。でも新しい『地図の石板』来てるかのチェックはしとこうか。あと何かあるかもしれないから、ギルドに顔出しときたい」
「石板来てたら、クエスト行くんでやすか?」
「うーん、中途半端になるのは嫌だから、転送先だけ確認して、戦争終わってからにしよう。でも至急だったらその限りじゃないな。すぐ行く」
「「「了解!」」」
クララが言う。
「ユー様、お茶の葉どうしましょう。リリーさんにお渡ししますか?」
「お茶もあったか」
翌日には帝国軍来るぞーって注意喚起も必要か?
サイナスさん~デス爺のラインから聞いてるとは思うけど、気合いは入れておきたいな。
「時間あったら、塔の村も行こうか」
「バット、ギルドで何があるか予想できないね」
「それなー」
開戦間際だもんな。
何だかんだで浮足立ってて、起きんでもいいアクシデントとかもあり得る。
時間で予定立てるのは危険だな。
「……少しでも情報が欲しいな。本の世界へ話だけでも聞きに行こうか。アリスが新しいことを知ってるかもしれないし」
新情報があるなら、パラキアスさんにも連絡取っとくべきか?
パラキアスさんはもう、レイノスに入ってるかな?
「何となく慌ただしいでやすね」
「まさに何となくだねえ。あたし達らしくもなく、フワフワ足が地についてない感じがする」
「こんな時はゆっくり寝ましょう」
大正義クララの鶴の一声。
身体と頭を休めることは大事だな。
「そーだね。クララの言う通りだ」
「えへへー」
「寝やしょう寝やしょう」
「レッツスイミングね」
流れで納得しそうだったけど、スイミングって睡眠と何も関係ないからな?
ダンテ、あんた一番浮足立ってるだろ。
「レッツおやすみっ!」




