第484話:識字率を上げるゲーム
図書室にやって来た。
お、いるいる。
「おーい、アレク! ケス! ハヤテ!」
皆が一斉にこちらを向く。
図書室では大声を出すなって?
わかってるけどあんた達しかいないじゃん。
堅いことゆーな。
「ユー姉」「姐さん」「ユーラシアさん」
「皆で勉強? 偉いねえ」
「大分読めるようになってきただ。楽しいだ」
「マジであんた達は偉いな。偉いって言って欲しいのか? この可愛いやつらめ」
「姐さんは本とか読まねえのか?」
「本読むと眠くなっちゃうんだよね。変な時間に寝るとリズムが崩れるから、寝る前以外はなるべく読まないようにしてる」
ん、クララ?
「アレクさん。この前レイノスで買ってきていただいた本、ありがとうございました。楽しく読んでいます」
「そう言ってもらえると嬉しいよ」
「あたしに買ってきてくれた辞書はイマイチだったな。もうちょっと柔らかいと頭にフィットしそうではあるけど」
「辞書は枕じゃないよ」
「創意工夫が必要だと思うね。枕にもなる辞書は売れないかなあ?」
「枕にしては高価過ぎると思うよ」
「高いと売れないもんな。眠気がすぐに訪れるところまではバッチリなんだけどなあ」
「本好きのクララがどうしてユー姉について行ったの? おかしくない?」
「カリスマか人徳だね」
「ユー姉の怪しげな珍回答はいらないよ」
実に失礼だな。
さすがにクララは付き合いが長いだけあって、表情から考えを読ませないけど。
「ハヤテはどう? 字、かなり覚えたみたいだけど」
「あい、とても楽しいですだ。書くのはまだまだだけんど」
「ケスも?」
「字が読めねえと地図がわからねえから」
「あっ、そーか!」
以前、輸送隊員に地図を配ったが、あんまり役に立ってない?
「アレク、輸送隊員で読み書きできないのって何人くらいいる?」
「というか、読み書きできるのが隊長副隊長と二人の黒の民だけじゃないかな」
「マジか」
割とショックな現実だ。
カラーズの識字率はもっと高いと思ってたわ。
いかにも脳筋の眼帯隊長が読み書きできるのは何となく意外だけど、考えてみりゃフェイさんと黄の民のリーダーを争ってたんだ。
いいとこの坊ちゃんなのかもしれないな。
「アレク、こりゃダメだ。ドーラの識字率上げよう」
「えっ? どうやって?」
「ゲームを作ろう」
「この前の双六みたいなやつ?」
「いや、『美少女精霊使いのドラゴンを倒す旅』だって読めなきゃ遊べないでしょ。読める人増やすのが先だわ」
「何かそのタイトルすっかり定着してるけれども」
定着させるのも大事なんだぞ?
「字を覚えさせるゲームだよ。遊んでるだけで字を読めるようになっちゃうやつ」
「どういうこと? 字が表記されてるゲームってことなら、字が読めないんじゃどうしようもないじゃないか」
説明する。
「絵札二枚ずつペアで作っとくんだよ。誰が見てもそれとわかるやつ。例えばドラゴンの絵札に『ど』『ら』『ご』『ん』って字入りのやつが一枚と、『□』『□』『□』『□』って空欄のやつ一枚」
「ふんふん、字は知らなくても、絵で読み方がわかる感じだね?」
「そうそう。で、絵札とは別に字札作っといて場に置いとくでしょ? で空欄絵札見せて、これの三文字目はどれだ? とかでゲーム参加者が取り合いするの。合ってるかどうかは字入り絵札で確認すれば、読めなくても遊べる」
「「「「「「おおー!」」」」」」
皆が感心する。
盛大にあたしを称えろ。
「っていうのをベースに、考えてくれない?」
「姐御、それほぼ完成してやすぜ?」
「いや、絵札は二枚にするのがいいのか一枚で表裏にするのがいいのかとか。誰もが知ってる単語として何を絵札にしたらいいかとか。遊びやすい大きさとか材質とか細かいルールとか。詰めなきゃいけないこといくらでもあるでしょ。あたしややこしいの考えるのは苦手」
面倒なことはあたし向きじゃないんだよなー。
パッと瞬間的に判断するとかなら得意なんだけど。
「売り出した時の収益は三人で分ければいいから頑張って」
「えっ? ユーラシアさんはいいだか?」
「ドーラの人が字読めるようになれば、皆が『精霊使いユーラシアのサーガ』を読むでしょ? そっちのモデル料で儲かるからいいんだよ」
「おいらも『精霊使いユーラシアのサーガ』読みたい!」
「ケスはいい子だね。本が刷り上ったら一冊進呈しよう」
「いやったぜ!」
ハッハッハッ、架空の本で盛り上がる。
「字のゲームはいいのができたら仕掛けるから。大ブームになるよ」
「ユー姉は簡単に大ブームって言うけど」
おや、アレクは懐疑的だね?
「字を読めるようになりたい人が多い、字を読める人が多くなることで有利になる人も多い。こういうのは仕掛けを手伝ってくれる人も多いから、絶対売れるんだぞ?」
出来が良くて値段が高くなければね。
「この前レイノスの紙とか印刷とか扱ってる商人さんと会ってさ、ドーラの識字率は平均して二、三割だろうって話なんだ。しかもレイノスの市民を除くとガクンと下がっちゃう。でも読み書き計算できなくてお金持ちになるって、相当難しいでしょ? これじゃいつまで経っても地方のビンボー人は豊かになれない。だからまず字を読めるようになって欲しいんだよね」
字さえ読めれば、あとは教科書があれば理解できるだろうしな。
「お金持ちどうこうというのがわからないんだけれども」
「相手がおゼゼを持ってないと、こっちのものが売れないじゃん」
「お金を作ってばら撒くんじゃお金持ちにはなれないだか?」
「違うんだなー。あたしはものがたくさんあって、それを買えるような世界にしたいの。世の中のお金が増えてもものが増えないんじゃダメだな」
世の中にものが溢れ、ものに釣り合うおゼゼのある世界が理想だな。
ケスが聞いてくる。
「読み書き計算ができれば金持ちになれるのか?」
「とは限らないけど、計算できなくて商売はありえないでしょ? 読み書きできれば持てる知識や情報の量に大きな差がでるよ。お金持ちになれるチャンスの数が違うんだな」
一人お金持ちが出れば、その人の下で働いたり仕えたりする人もお金をもらえる。
優秀な人を雇おうとすれば他と競争になり、賃金を上げざるを得ない。
となると皆におゼゼが回る。
で、やっぱ優秀な人材は読み書き計算くらいはマスターしてないと。
基本的な知識ってのは必要だわ。




