第483話:勇者の手を経たパワーカード
「ただいまー」
「おう、帰ってきたか。ん……何をした?」
魔境で一仕事したあと、スライム牧場へ戻ると、早速爺さんの質問だ。
さすがに年を取ったとは言え、元『アトラスの冒険者』だなあ。
お孫さんの変化にすぐ気付いたらしい。
「お孫さんのレベル上げてきたよ。これなら少々の魔物が出ても依頼出さなくていいからね。ステータスパラメーターもかなり上がってるから、牧場の拡張も捗ると思う」
「大変助かるが、しかし……?」
お孫さんをしげしげと眺める爺さん。
「……どう見ても上級冒険者クラスなんじゃが?」
「今のレベルは三一だよ」
スライム爺さんも口あんぐりパフォーマーでしたか。
顎の関節を痛めやしないかと心配になるのはあたしだけ?
「ど、どういう理屈で?」
「えーと、共闘することによってレベル上げするという、あたし達の得意技があるんだよ。お孫さんに付き合ってもらって……」
「わからんでもないが、さっきから一時間と経っておらんだろう?」
「魔境でデカダンスを倒すと、すぐレベル上がるんだよ」
「魔境でデカダンスとな……」
「うちのパーティーではデカダンスのこと、真経験値君って呼んでるんだ」
絶句するスライム爺さん。
元『アトラスの冒険者』ならばこそ、その困難さが理解できるのであろう。
昔は人形系レア魔物を狙って倒して経験値稼ぐっていう考え方自体が一般的ではなかったろうし。
そもそも衝波属性の武器かスキルがないと、高級人形系なんて倒せないしな?
「……お主らが初めてこの牧場に来てから、三ヶ月くらいになるか」
「ちょうどそのくらいだねえ」
「驚くべき才能じゃのう」
才能じゃなくて運だと思う。
多分人形系に絞って戦おうと考えた冒険者があたし達くらいしかいなくて。
簡単に人形系を倒せる『アンリミテッド』をすぐに手に入れることができて。
調子に乗ってたところでたまたま魔宝玉クエストが入って。
うちのパーティーは、うまい具合にトントントーンってパワーアップできる一本道を歩いてきたのだ。
誰かの思惑であったかみたいなスムーズさで。
考えられないくらいの幸運を背負って戦争に臨むことになる。
ってのは一旦置いとくとしても、冒険者としてのレベルアップ法は、人形系を倒すのが要だと思うんだけどね。
最初からこういうスタイルを教え込んで、それを可能にする武器が普及すれば、皆短期間でレベルカンストするんじゃないかな?
「これ、返すね」
「む? ああ、これは……」
『アンチスライム』のパワーカード。
以前、スライム爺さんにもらったものだ。
「大変役に立ちました。でも今は、お孫さんにこそ必要なカードだと思うよ」
「ふふっ、うむうむ」
爺さんは大きく頷き、受け取った『アンチスライム』のパワーカードをお孫さんに渡す。
「ヒューバートよ。勇者の手を経たパワーカードじゃ。大切に使うのじゃぞ」
「はい、わかりました」
勇者だってよ。
勇者ってのはソル君みたいな、真面目で実力があって上を目指してる冒険者を言うんだと思うがなあ。
あたしはどーしても商売人目線になっちゃう。
人口が多くなると『スライムスキン』の需要は絶対増えるしな。
スライム牧場は安定のお仕事だと思うよ。
「じゃ、あたし達は帰るね」
「ありがとうございました!」
「お主達の活躍を聞くのを楽しみにしておるぞ。また来るがよい」
「はーい」
転移の玉を起動し帰宅する。
『クエストを完了しました。ボーナス経験値が付与されます』
このタイミングでクエスト終了か。
ドスケベスライムとゆー色物を相手したにしては、いい仕事した実感があるわ。
満足満足。
◇
「サイナスさん、こんにちはー」
「ユーラシアじゃないか。どうした?」
午後は灰の民の村に遊びに来た。
「どうってほどのこともないけど、たまにはサイナスさんがあたしの可愛い顔を見たいだろうと思って」
「お土産の肉は素直に嬉しい。皆で分けるよ」
もーサイナスさんたら恥ずかしがっちゃって。
「カラーズは今日何かある?」
「特には。午前中に輸送隊全員に集合がかかって、パワーカードを配布したくらいだな。明日輸送隊は七名で出すらしい」
「ふーん、七名か。気持ち多めだな。その心は?」
「お団子頭のインウェン副隊長がいるだろう? あの子には戦争のことを伝えたんだと。なるべくレイノスの様子を探ってこいとのことで」
ははあ、なるほど。
明後日到着する頃には帝国艦隊が沖に現れ、レイノスが混乱してる可能性が高い。
情報収集を重要と見たか。
今のままだと、ギルドを経由した情報をエルマが聞いてくるくらいしかない。
それだとカラーズに関係する情報はあんまり得られないだろうからな。
「アレクとケスも今回のメンバーに入っているんだ」
「いいんじゃないの? あの二人は観察力あるし」
アレクは戦争あること知ってるもんな。
市内が混乱してたって浮つくことないだろうし、セレシアさんの服屋を知ってるから連絡も取れる。
まあでもセレシアさんは戦争あることわかっててこの時期に開店したんだから、カラーズに撤退するって意思はないんだろうけど。
「……ところでそれは何だい?」
「転移石碑用のでっかい黒妖石二つと『スライムスキン』だよ。あたししばらく帰ってこられないかもしれないんだ。こっちの戦争に終結の目鼻ついたら、デス爺捕まえて転移石碑設置の計画進めてよ」
「了解だ。しばらく帰ってこられないかもしれないとは?」
「文字通りの意味だよ」
サイナスさんがあたしの表情から探ろうとする。
でもムダだろう。
あたし自身にだってどうなるかわからないんだから。
「どこに置いておけばいいかな? 結構重いんだよ、これ」
「ん? ああ、じゃあ隅に」
どっこいせっと。
「これ、迂闊に持とうとすると腰やられるよ。あてんしょんぷりーず!」
「ハハハ、ユーラシアが重いって言うくらいだとオレじゃ持ち上がらないから平気だ。わざわざチャレンジしない」
「サイナスさん、賢いねえ」
笑い。
「今日は夜、ヴィル飛ばさなくて大丈夫かな?」
「ああ、これ以上特に用はなさそうだが」
「じゃあ緊急のことがない限り、なしね」
「わかった」
ないならないでヴィルが可哀そうかなあ?
「ケスとハヤテは来てるのかな?」
「アレクと図書室だよ」
「行ってくる!」
サイナスさんと別れ、図書室へ。




