第48話:その男、早耳のダン
階段を昇って伸びをする。
『初心者の館』はためになったなー。
行き詰まったら相談しに来るのがいいかも。
お店のコーナーへ足を運ぶ。
今日はスキル屋が営業していない。
きっとあの小型魔導士ペペさんは、怪しげなスキルを開発してるんだろうなー。
次も期待しよ。
できればエンタメ方面じゃなく、実用方面で期待に応えて欲しいもんだ。
この前やってなかった店が開いていて、かなりの人数の冒険者が群がってる。
えーと、掘り出し物屋か。
この前総合受付のポロックさんに聞いたやつだ。
ふむ、おゼゼが全くないわけじゃないし、覗いてみるだけでも。
「こんにちはー」
「おう、噂の精霊使いだな?」
「可愛いっていう噂だった? 可憐っていう噂だった?」
「ハハッ、君ら向けに掘り出し物があるぜ!」
「え? 嬉しいな。何だろ?」
「これだ。パワーカード『ポンコツトーイ』四枚組四〇〇〇ゴールド!」
おお、パワーカードか。
パワーカード大好きアトムが反応している。
今は数を揃えたい時ではあるんだよな。
あたし達がパワーカード使いだということは広まってきてるみたい。
しかし『ポンコツトーイ』?
そんな変な名前のが交換リストあったら覚えてるはず。
クララも首を振ってる。
アルアさんとこでの交換対象にはなかったカードだ。
とするとこれは、製法の失われたカードなのか?
ダンテにもらった素材やアイテムを売ったお金があるし、四〇〇〇ゴールドならギリギリ手が届くが……。
「うーん、いらない」
「え?」
「四〇〇〇ゴールドって、あたし達みたいな新人冒険者には大金だよ? 大体四枚もいらないし、名前が『ポンコツトーイ』じゃハズレの予感しかしない」
焦った様子になる掘り出し物屋さん。
「ちょちょっと待ってくれよ、じゃあ三〇〇〇、三〇〇〇ゴールドでどうだ?」
「もう一声っ!」
思った通りだ。
パワーカードなんてあたし達にしか用がないものだし、値下げしてでも売ろうとするわな。
「二五〇〇だ!」
「買ったっ!」
掘り出し物屋に値引きさせるなんて初めて見たぜ、と、周りの冒険者の呆れたような声が聞こえる。
いや、いい買い物だったかは、まだあたしにもわからんのだけど。
「ちぇっ、今日は厄日だ」
「ごめんね、これあげるから許して」
「何を……魚の干物か」
「一夜干しだよ。たくさん作ったんだ。欲しいだけ持って帰ってよ」
「そうかい? 滅多に食べられないが好物なんだよ。嬉しいね」
掘り出し物屋さんの表情がちょっとほころぶ。
「周りの皆さんもどーぞー」
「おっ、ありがたいねえ」
あたし達の分は確保してあるし、どうせ原価はタダなのだ。
あれ、まだまだ残ってるな。
食堂の大将に引き取ってもらい、冒険者の皆にサービスしてくれるよう頼んだ。
「よう、ペペさんの魔法を購入した精霊使いってのはあんたのことなんだろ? よかったら話聞かせてくれよ。茶くらい奢るからさ」
振り向くと軽薄そうな二〇歳くらいの男がいる。
「あんたも冒険者なの?」
「一応な。時々パーティーに入れてもらってクエストに参加することもある。俺の名はダンだ。よろしく」
「あたしはユーラシア、よろしくダンダ」
「ダン、な。大将、柿の葉茶五つとつまみ盛り合わせ」
奢ってくれるのか。
ダンと名乗ったツンツンした銀髪の男が話し始める。
「ペペさんって見た目あんなんだけど、伝説的なエピソード持ちだろ?」
「伝説的なんだ?」
そーいや『初心者の館』にいたヒゲのおじさんが、ある意味当代一の魔道士って言ってたっけ。
ペペさんは確かに規格外の雰囲気ある。
「ああ、あの人魔法の研究家だろ? メチャ強魔物の住む魔境にしょっちゅう極大魔法撃ち込んでテストしてたんだと。で、いつの間にかマスタークラスになってたとか。実戦の立ち回り一つ知らないのにだぜ?」
「マスタークラスって、レベル九九でカンストしてるってこと?」
「ああ」
マジかよ。
いや、あんな広範囲の魔法撃ち込んでたら、狙ってなくとも魔物を巻き込むだろうな。
グリフォンだろうがドラゴンだろうが木っ端微塵だわ。
料理と飲み物が来た。
いただきまーす。
「まあ食べながら聞いてくれよ。このギルドでも注目してたやつは多いんだぜ? どんなやつがペペさんの魔法買うのかって。威力だけは保証つきだからな。ただ習得条件が異常に厳しかったから……」
三系統以上の魔法が使える固有能力持ち。
確かに聞いたことない習得条件だわ。
「買ったの新人冒険者だって言うじゃねえか。しかもレア固有能力持ちの。こんなおいしいネタ、この『早耳のダン』が逃すわけにいかねえんだな」
ははあ、こいつゴシップ屋か。
「で、どうだった? 試し撃ちしたんだろ?」
「した。でもあんまり思い出したくないんだけど」
「そりゃああんまりだぜ! 少しでいいから話してくれよ」
トラウマもんなんだが、あれは。
「覚えたのそこのオレンジ髪の子なんだけどね。炎、氷、雷の魔法の固有能力持ちだよ。試し撃ちは海でやった。障害物がないからいいかと思って」
「わかるな」
「もー予備段階から魔力の高まり具合がヤバいの。で、撃つでしょ? 白い塊が見たことないスピードで飛ぶ」
「うんうん」
ダンが身を乗り出してくる。
「射程もデタラメに長くてさ、着弾して弾けると海面がくり抜かれたみたいに半円状に水なくなってんの」
「水が? 本当ならすげえな」
「見たことない光景じゃん? ボーっとしてると、ゴワーンって音と衝撃があとから来るの。で、ハッと気付くと波が迫ってくる。津波だよ。もー必死で逃げたわ。あんな必死になったの人生で初めて」
「ハハハ、津波が起きるほどの魔法ってのは面白いな」
あれ? 本気にしてないのか?
「ありがたいことに、大量に魚が浜に打ち上げられてね。それで作ったのがさっきの一夜干し」
「え? 今の話フカシてるんじゃなかったのか?」
「残念ながら掛け値なしのマジ話」
あたしは沈痛な顔で言う。
「本当かよ……?」
「本当。この目を見て」
一欠片の濁りもない瞳を見よ!
「可愛い女の子の顔を覗き込むのは照れるな」
チャラい印象に似合わずピュアなことをほざくじゃないか。
「『可愛い女の子』のところがよく聞こえなかったから、もう一度言って?」
「全部聞こえてんじゃねえか。いい性格してんな」
性格まで褒められてしまった。
ダンはいいやつだ。




