第475話:関わった段階で諦めろ
何でだかわからんけどダンが得意げだ。
えらそーに聞いてくる。
「デミアンとはこういうやつだ。第一印象は?」
「黄色」
「他には?」
「イエロー?」
「ハハッ、ま、意味するところはわかるぜ」
ダンが大笑いする。
目の前のデミアンなる冒険者は、中背でややがっしりめの体形で、堅実な前衛を思わせる。
が、装いを見るとな?
おそらく魔道効果が付与されているであろう、黄色のマントがすごく目立つ。
薄く明るいストレートの茶髪も黄色と言えないこともなく、全体の印象が黄色なんだなあ。
「で、誰?」
「『アトラスの冒険者』ぬよ?」
「そりゃそうだろうけど」
「あんたが来る前に、天才の名をほしいままにしてたやつだ。まだ冒険者になって二年にはならねえんじゃないかな」
「有名な人なんだ?」
「まあな。あんたほどじゃねえが、一気に駆け上がった冒険者だしな」
ざっと見たところレベル七〇くらいはある。
あたしが関わってないのに二年でレベル七〇ってメッチャすごいぞ?
あたしはもっとすごいだろうって?
そんなことはないわ。
あたしの場合は心がけのいい美少女だから、神様が最速レベルアップの道を歩ませてくれてるだけだもん。
実力はレベルにものを言わせてるだけの後付けだわ。
デミアンが興味深そうな目を向けてくる。
「吾輩も噂の精霊使いに会うのは楽しみだったのだ。噂通りの美少女、悪くない」
「天才冒険者さんは話せるねえ」
「おい、いきなり飼い馴らされてるじゃねーか」
「初対面で『噂通りの美少女』と言ってくれるもののわかった人は、丁重に扱わないと」
「俺も丁重に扱えよ!」
「低調に扱うよ」
黄色の一人称吾輩冒険者デミアンが言う。
「美少女精霊使いは、吾輩が天才冒険者であることに異論はないんだな?」
「ないよ。でもあたしが美少女精霊使いであることは譲らないよ」
「もちろんだ、悪くない」
「悪くないぬ!」
何かヴィルはデミアンの『悪くない』って口癖が好みみたいだな?
よしよし、ぎゅっとしたる。
「あんたらさては同類だな?」
「「違う」」
おおう、ダンってそんな微妙な顔できるんだな。
でも同類ではないわ。
デミアンは天才で見るからに努力の人だわ。
あたしは運に恵まれてるだけの可憐な美少女だわ。
「あたしのことはユーラシアって呼んでよ。あんたのことはデミアンって呼ぶから」
「いいだろう。悪くない」
握手。
「で? デミアンがあたしにお昼を奢りたい理由は何なの?」
「奢りたいと言った記憶はないが、まあいいだろう。悪くない。実は吾輩、人生で一番の壁に直面している。美少女精霊使いユーラシアの力を借りたい」
『美少女精霊使いユーラシア』とフルネームで呼ばれると、力を貸したくなるじゃないか。
しかし自称天才冒険者の、人生で一番の壁って一体何?
戦争も近いのだ。
面倒な案件を持ち込んでくれるなよ。
「……面倒ごとだと思うと、御飯が腹八分目くらいしか入らないんだけど」
「安心しろ。あんたの得意分野だ」
「ダンは内容知ってるんだ?」
「珍しくこいつが困った顔してたからな。冒険者として捨て置けねえじゃねえか」
「ゴシップ屋として捨て置けないの間違いでしょ?」
ニヤッとするダン。
このパパラッチめ。
とっとと内容を話すのだ。
「要するに、デミアンに新人冒険者の教育係が振られたんだぜ」
「あっ、なるほど!」
例の新人さんいらっしゃーい、優しい先輩が手取り足取り指導するよの試みの第一号ケースか。
いきなり仕事を回されたんじゃ勝手がわからないかも知れない。
担当の新人さんとの相性もあるだろうしな。
あたしにも責任があることだし、今後の『アトラスの冒険者』のためにも新人さんのためにもなる。
協力しようじゃないか。
「じゃあまず、デミアンのこと教えてよ」
「早速この天才に惚れたのかい。悪くない」
「違うわ。こーゆーとこダンにも似てる」
「マジでやめろ。俺はこいつほどトンチンカンじゃねえ」
本気で嫌そうだね。
口調はともかく、デミアンはまともな人に思えるけどな。
「『アトラスの冒険者』なら、デミアンも何かの固有能力持ちなんでしょ?」
「吾輩の固有能力は『ジーニアス』だ」
「え?」
冗談でなく天才なんだ?
レアっぽい能力みたいだな。
どんなやつ?
「全てのステータスパラメーターに多少のボーナスがつく、と聞いたことがあるな。合ってるか?」
「いいだろう。定数ボーナスと割合ボーナスの両方が付与されるんだ。悪くない」
「ふーん。冒険者としてはかなり有利だねえ」
どの程度のボーナスかはわからないけど、確実に地力が底上げされる固有能力だ。
初期パラメーターに一定数プラスがあれば、序盤すごく楽なはず。
また割合ボーナスはレベルアップやステータスアップ薬草の恩恵が大きい。
最初から最後までずっと安定して力を発揮するだろう。
とゆーか元々前衛向きの能力で補正がつくんだったら、初心者で入ったとしてもすぐ頭角を現すってのがよくわかる。
「パーティーメンバーは?」
「いるわけねえだろ。こんなんだぞ?」
「困難だねえ」
「悪くない」
何が悪くないんだよ。
でもツッコんだら負けみたいな気がするしな。
口調以外は普通の人だと思う。
けど固有能力がヤバいから、同じくらいのレベルの人とパーティー組んでも格差ができちゃう。
馴染みにくいのかもしれない。
「吾輩、『アトラスの冒険者』になった初期から苦労した覚えがなく、経験からアドバイスできない」
「だろーなー。天才だもんねえ」
「ある意味コミュ障だしな」
ふーむ。
でもこれ、ダンが見ればよかったんじゃない?
あたしはデミアンと面識なかったんだし。
「何でこの案件あたしに振ろうとするの?」
「あんた、ルーキー研修の提案者じゃねえか」
「あたしが提案したんじゃないってばよ」
「提案したのと同然ではないと、美少女精霊使いの二つ名にかけて言いきれるか?」
「言いきれないけれども」
「まああんたが関わりゃ絶対に面白くなるしな」
もーまたダンの暇潰しかよ。
あたしもせっかく転がり込んできたエンターテインメント案件だから、積極的に関わるけれども。
「ま、いいや。お腹が減ったよ。話はあとにして、まずお昼御飯食べよ?」
「おう」
「悪くない」
「盛大に奢られるぞー!」
「え?」
「精霊使いはこういうやつだ。関わった段階で諦めろ」
ユーラシアが『アトラスの冒険者』になる以前、バリバリの上級冒険者はデミアンだけでした。




