第473話:アルアさんと最後の会話
――――――――――九五日目。
帝国艦隊がレイノスに到着するまであと三日。
◇
フイィィーンシュパパパッ。
「アルアさーん、こんにちはー!」
「はいよ。アンタはいつも元気だね」
今日は朝からアルアさん家にお邪魔している。
あたしは元気だけが取り柄だからって、そんなことないわ!
色々あるわ!
美貌とか気品とか可憐さとか。
「換金お願いしまーす」
「……これはまたかなりの量だけれども、一昨日来たとこじゃなかったかい?」
「これねえ、海の女王と交換したんだよ。あたしもいろんな素材が欲しいじゃん?」
「交換?」
わかんないか。
わかんないわな。
「女王が『逆鱗』や『巨人樫の幹』みたいな、地上でしか手に入らないレア素材を欲しがったの。で、同じくらいの価格の素材と交換、ってことで。あたし達が持ってないレア素材や、でなければ素材の数が欲しいから」
「なるほどね。今までアンタが持ってきた素材の系統とちと違うと思ったんだよ」
納得するアルアさん。
「ほう、『埋没コイン』だね。これも海底で?」
「うん」
「地上じゃなかなか手に入りづらいんだよ」
やっぱそうなのか。
レア素材でも『逆鱗』や『巨人樫の幹』なら、うちのパーティーは取ってくるのが比較的容易なのだ。
欲しい人がいたら交換ってのが今後も有効な手段になり得るな。
いろんな人と知り合いたいものだ。
ちなみにレア素材はストックも置いておく方針なので、今回は新たな交換対象のカードを期待できる、『埋没コイン』のみ持ってきている。
「ところでアンタは、戦争のことをかなり知ってるんだってね」
「まあ。帝国艦隊がドーラに来るの三日後だよ」
ギルドの職員に聞いてるんだろうな。
「でもここは関係ないだろうから、安全じゃないかな」
「アンタ、一番大変なところ受け持つらしいじゃないか」
「成り行きでね。ゼンさんには内緒でお願い」
頷くアルアさん。
飛空艇は十中八九、ゼンさんの故郷であるテンケン山岳地帯の聖火教徒の集落に現れる。
そんなことゼンさんが知ったら動揺するだろうからな。
ゼンさんができることは何もないし。
アルアさんもどこまで詳しいことを聞いたか知らんけど、全部終わるまで黙っててもらいたいわ。
「ところで今日、ゼンさんは?」
「使いに出してるよ」
シュパパパッ。
おっと、誰か来たな。
エルマだ。
「あ、お姉さま、こんにちは!」
「こんにちはー」
エルマはこのくらいの時間に出勤か。
「お姉さまは換金ですか? とても多いですね」
「働き者だってことがバレちゃうなー」
交換ポイントは一〇三七となる。
「うあ、今回多かったな」
「カードと交換していくかい?」
「いらないでーす」
直前になって飛空艇の細かいスペックが判明して、必要なパワーカードが出る可能性がなくもない。
用心してポイントは取っておかないと。
「飛ぶカードはすっごい期待してるんだ」
「完成までにはかなり時間がかかるよ」
マジで楽しみだな。
「ギルドからの大量の注文、あれアンタだろう?」
「そーだね」
「素材をかなり使ったから助かるよ」
あたしの注文で使った素材をあたしが納める。
これが永久機関か、違うか。
もうちょっと他の人もパワーカード工房に素材を納めてくれりゃいいのに。
ポイントで交換してるの、うちのパーティーとエルマだけだよね。
「あのパワーカードは輸送隊に配るんですよね?」
「うん。輸送隊は戦争時の戦力としても考えてるんだ。あれだけのカードがあれば、カラーズは自力で防衛できる」
エルマが目を丸くする。
「まだカラーズでは、族長クラスの人しか戦争あること知らないんだ。これは黙っててね」
「は、はい」
「戦争があることを隠すのは何故だい?」
「混乱するのが一番困るんだよ。帝国がレイノスを経由しない経路で、密かに工作兵を送り込んでくると予想されてるの」
「工作兵が暗躍する余地を与えるのが怖い、ということかい?」
こっくり。
バタバタすると被害が大きくなるからね。
「レイノスの砲撃戦を我慢してる間に、工作兵を虱潰しにしていけば勝ちだな」
「しかしアンタは……」
言い過ぎたと気付いたか、アルアさんが黙る。
飛空艇のことまである程度聞いてるみたい。
「戦争中、エルマはカラーズとギルドを行ったり来たりしててね。ギルドに集まる情報をカラーズに伝えられるのはあんただけだよ。オイゲン族長か、カラーズの総指揮を執る黄の民のフェイさんとよく連絡を取るように」
「はい、わかりました」
よし、エルマへの注意点は以上だな。
「転移石碑が欲しいんだった。掃討戦で獲得した土地を開拓しようと思うんだけど、カラーズの中心部からクー川までってかなり距離があるから」
「それはデスさんの術式をアタシが黒妖石に刻めば可能だろうが、起動のたびに魔力を注ぎ込むんじゃ現実的でないよ」
「マルーさんに地中の魔力を吸い取って集める技術を教えてもらったからだいじょーぶだよ」
あたしは理解できなかったけど。
あれ、困惑気味というか興味ありげというか、アルアさん複雑な顔付きになったな?
「あの技術を? エリート金の亡者がアンタに? いくらかかった?」
「タダだよ。お礼に透輝珠一個渡したけど」
『エリート金の亡者』ってすごい表現だなあ。
アルアさんの深いしわの奥の目が大きく見開かれる。
「あの天上天下唯金独尊が? 考えられない……」
さらにすごいパワーワードキタでござる!
「以前、黄金皇珠以上の魔宝玉を可能な限り持ってこいってクエストがあってね」
「お姉さまがドーラを丸ごと買えるほどの魔宝玉を納めたと、ギルドで大変な噂になっているものですね」
「アタシも聞いたね。魔宝玉クエストの依頼者が糞金虫だったってオチかい?」
「うん。以来マルーさんが大体言うこと聞いてくれるようになったっていう」
アルアさんが呆れたような顔をする。
「あのマルーが手を貸すなんて考えにくいんだが。よっぽど気に入られたもんだね。アンタの一番の長所だよ」
「お姉さますごーい!」
長所なのかな?
よくわからんけれども。
「じゃ、あたし達はギルド行ってくるね」
「戦争前アンタがここに来るのは、今日が最後かい?」
「うーん、多分」
戦争で生き残ることができればまたここに来られる。
「ムリするんじゃないよ」
「お姉さま、さようなら」
アルアさん家を後にする。




