第471話:くさくさした時は魔境
フイィィーンシュパパパッ。
「オニオンさん、こんにちはー」
「いらっしゃいませ、ユーラシアさん」
早めにお昼をすませて魔境に来た。
まー戦争が近いから、どうしてもあたしの繊細な心が重圧に押し潰されそうになるのだ。
気のせいですよって顔をクララがしてるが、そんなことないわ!
あたしはナイーブにできてるんだわ!
「気分がくさくさした時は魔境だねえ」
「ハハハ、そうですか」
「帝国の艦隊が向こうを出航した。四日後にはドーラへ来るって」
急な話題の転換に、オニオンさんが微かに驚きの表情を浮かべる。
が、すぐに引き締まった顔で言う。
「……了解です。ギルドの職員と情報を共有しておきます」
「それからやっぱりあたしとソル君の出番は、この前話した通りね」
「帝国の山の中、ですか」
「うん。今日パラキアスさんと連絡取れたんだよ。ハッキリは言わなかったけど白状したようなもん。山はあたしに任せるって」
「……『黒き先導者』らしい策謀ではありますが」
オニオンさんの顔が険しくなる。
納得しかねるのかもしれない。
「空飛ぶ飛行軍艦ですよね……」
「普通に考えて、レベルカンストで飛行魔法の使えるクララのいるうちのパーティーが、一番対飛空艇の攻撃手段が多いからね。あたし達が相手するところまでは決定だな」
「本当に件の山岳地帯に飛行軍艦が派遣されるんでしょうか?」
「え? オニオンさんったら変なフラグ立てないでおくれよ。空振ったら困っちゃうでしょ」
アハハと笑い合う。
パラキアスさんも飛空艇の試験実践投入はテンケン山岳地帯と考えてたみたいだから、間違いないだろ。
あたしのカンもそう言っているし。
「じゃ、行ってくるね」
「あっ、今日の魔境探索のテーマは?」
「テーマってのはいいねえ。どーもあたしは出たとこ勝負の女だと思われてるから。本当は綿密な計算の下に行動しているとゆーのに」
「真のできる女は、意図を読みづらいということじゃないですか?」
「オニオンさんはいいこと言うなあ。いや、最近透輝珠クラス以下の魔宝玉は、お礼に渡すのにちょうどいいなって思い始めたんだ。手元にちょっとストックしとこうかと」
売値が一万ゴールド越えちゃうようなのは大げさだし、出回り過ぎると価格下がりそう。
でも売値一五〇〇ゴールドの透輝珠までならどうってことないだろ。
輸出品としても引っ張りだこみたいだし。
あたしにとってみると、デカダンスとクレイジーパペットのどちらを倒しても手に入る透輝珠は獲得しやすいということもある。
「なるほど。では行ってらっしゃいませ」
「うん」
ユーラシア隊出撃。
◇
「姐御、今日もパラダイスでやすか?」
「そう、エルドラド」
北辺西の人形系レア魔物大量発生地だ。
「ブロークンドールとクレイジーパペットを中心に倒して、使い勝手のいい魔宝玉のゲットを目的としまーす。で、アトム、あんたには重要な役割があるよ」
「わかってやすぜ! 黒妖石でやすね?」
「黒妖石の小さいやつも拾い集めてね。さあ行こうか」
進路は北へ。
「ワイバーンね」
「あたしは学習したぞー。これはまた行きに卵を拾っちゃって苦労するパターンだ!」
「見逃しやすか?」
「いや、倒すけど」
君達の頭に浮かんでる疑問符をどけろ。
邪魔だよ。
「卵を拾ったら重いですよ?」
「若い頃の苦労は買ってでもしろと言うし」
「そういう意味でしたっけ……必ず拾うとも限りませんしね」
「あっ! クララが立てた、フラグを立てた!」
レッツファイッ!
軽くワイバーンを倒して……。
「……エッグ、ドロップしないね?」
「……それはそれで激しく納得いかないね」
立てたフラグを回収しないのはモヤモヤするな。
エンタメな気がしない。
まあいいけれども。
素材『ワイバーンの爪』をゲットしてさらに北へ。
「アトム、さっきからちょくちょく屈んでる気がするけど、そんなに黒妖石が落ちてるの?」
「小さいやつは珍しくねえんで」
へー、大きい黒妖石が珍しいだけなんだ。
「でも魔境だからじゃないでやすか? 他所でこれほど落ちてるところは、これまでありやせんでしたぜ」
「ふーん。とにかく色々やってみて、魔道コンロを目標にしたいんだよね。せっかく魔力を集めることはできるようになったんだし」
『アトラスの冒険者』になった時、バエちゃんに『プチファイア』の使える『火の杖』をもらった。
現在は普段使いの装備から外れているが、主に日常で火をつける時の役に立っている。
でも魔道コンロがあれば薪や燃料がいらなくなるんじゃないかな。
「魔道コンロがあればもうちょっと楽ができるよ」
「そうですねえ」
クララが嬉しそう。
生活を充実させたいもんな。
「でもごめんね。魔道コンロの重要性は比較的低いんだ」
「ええ、わかっています」
まだ地中から魔力集めることを教えてもらったばかりだ。
何ができるかを見極めないとな。
黒妖石の小石集めて固めたものに、どれほど魔力が溜められるかの検証も必要。
そのために小石の数を集めなければ。
「レッドドラゴンね」
雑魚は往ねですけれども。
「あっしが『逆鱗』剥がしてきやすぜ」
「うん、お願い。……最近あたし達大分強くなってない?」
「ミー達はストロングね」
「いや、ここのところ特に。クララもドラゴンより素早くなってるし」
気付きにくいけど、戦闘が楽になってる気がする。
「ステータスアップ薬草の恩恵じゃないでしょうか?」
「このまま強くなれたら、ウィッカーマン二体が同時に出ても倒せるようになるかもね」
問題はウィッカーマン二体を倒せたところで、メリットがないということなのだが。
「また高級魔宝玉を山ほど持ってこいって依頼、誰か出してくれないかなー」
皆が頷く。
うちの子達も魔宝玉クエストは楽しかったんだろうな。
ザコを倒してどんどん北へ。
「ユートピアにやってまいりました」
「姐御、エルドラドって言ってやせんでしたか?」
「気分次第で責めないで。それよりクレイジーパペットには『新経験値君』という立派な真の名があるのに、ブロークンドールに名前がないのは可哀そうだねえ」
「ボスはウィッカーマンの時も似たようなことセイしてたね」
「人形系に対する感謝を忘れないからかな?」
とりあえず魔宝玉を確保するのが先か。
「よーし、狩っていこうか」
「「「了解!」」」




