第462話:残りの黒妖石を買いに来た
――――――――――九三日目。
開戦の気配がうっすらと漂う五日前でもあった。
◇
フイィィーンシュパパパッ。
「こんにちはー」
「あっ、精霊使いさん!」
村人がワラワラと集まってくる。
「どうしたの? ここ、あたしの名前になってるじゃん」
今日は朝から、西域の自由開拓民集落ユーラシアにやって来た。
昔はバボという名前だったのだけれど、いつの間にかどこに出しても恥ずかしくない、麗しい名前に変わっていたのだ。
状況を知りたくなろうというもの。
それだけの理由で来たんじゃないけど。
村長が得意げに言う。
「精霊使い殿のアドバイスをいただきましたのでな。まあその名を拝借してもよろしいだろうと。満場一致でしたぞ」
「メッチャくすぐったいわ」
皆が笑う。
頼むからあたしの名前で悪いことしないでおくれよ。
ただでさえどーゆーわけかあたしは胡散臭いと思われてるんだから。
「残りの黒妖石五つを買いに来たんだよ。はい二五万ゴールドね」
村人達の目が丸くなる。
小さな村には結構な大金だからな。
うーんやっぱり少しずつ渡すべきだったか?
あたしにも都合があるのだ。
せっかくのおゼゼをムダにしないよう、有効に使ってちょうだい。
「村はうまくやれてる?」
「旅人が寄ってくれるようになったんだ」
「よーしチャンスだよ。評判が良くなれば、客も増えるからね」
沸く村人達。
村長が聞いてくる。
「この二五万ゴールドはどう使うべきですかの?」
「もう今年の冬越すのが大変ってことはないと思うんだ。だから目先に拘るより、できれば将来豊かになるように使って欲しいね」
「将来ですか。例えば?」
「うーん、地下のダンジョンで取れた薬草を売ってるよね?」
天然の洞窟をかつて亜人が利用していたと思われるダンジョンが、この村麗しのユーラシアにはある。
そこから得られる薬草や洞窟コウモリの肉は、村の立派な資源だ。
「販売しております」
「売れ行きはどーかな?」
「チドメグサは売れますが、魔法の葉はほとんど売れませんな」
「うん、だろうね。これを売れるようにする方法がある」
「「「!」」」
驚く村人達。
簡単なことなんだが。
「マジックポイント回復アイテムは、特に魔法職にとって重要で、ほぼ必携のアイテムではあるんだよ。でも魔法の葉ってすっごくまずいの。味を知ってる人は絶対に買わない」
「な、なるほど」
「だからこれをマジックウォーターに作り変えるんだよ。マジックウォーターなら保存も利くしね。そーゆー技術は重要だから、おゼゼ払ってでも教えてもらうべき。ついでにチドメグサをポーションにする技術もね」
さらに万能薬や蘇生薬を作れればバッチグーだ。
この近辺の小さな自由開拓民集落に、マジックウォーターやポーションを作れる人がそういると思えん。
麗しのユーラシアの村の明確なウリになるし、西域を旅する人にとっても嬉しいことだ。
これがウィンウィン。
頷く村長以下の村人達。
「西の塔の村に製薬のできる人がいるから、あたしの名前を出して教えてもらってくるべきだね。春になると農作業忙しくなっちゃうでしょ? 今の内がいい」
「早速、手配しますぞ!」
やること決まると勢いづくもんだ。
「近隣の自由開拓民集落とは仲良くしとくのがいいかな。どうせまだあんまり交流ないんでしょ?」
「はい」
「交流先の村でよくできる作物があったら、この村でもうまく育つ可能性は高いよ。苗なり種なり買ってくるといい。交流が進めば、以前の盗賊村とは違うぞアピールにもなるよ。ポーションやマジックウォーターを作れるようになったら、安く融通してあげてもいいし」
「おお、なるほど!」
「うまいアイデアだ!」
盛り上がるねえ。
「簡単なところから家畜を飼ってみたいねえ。ニワトリ、ウズラ、ヤギくらい? あとは商売になる作物だね。服になる繊維とか、染料とか蝋とか油とか。食物も大事だけどおゼゼも大事だよ。特に他所と取り引きするようになってくるとね。極端な話、食用作物よりも効率よく儲けられる換金作物を作れるなら、食物は全部他所から買ってもいいんだから」
「そ、そういうのもありなのか」
「難しいな?」
ま、難しいっちゃ難しい。
新しい作物作ろうと思うと、畑の面積広げないといけないしな。
でも麗しのユーラシアは街道にアクセスするためにムリヤリ村域広げてるんだから、土地はあるんじゃないの?
「全部やろうとしなくたっていいんだって。自分らでできそうなところから少しずつで十分。旅人が来たら、いろんな話聞いとこうね。あたしも使えそうな植物とかあったら持ってくるよ」
「よろしくお願いしますぞ」
よしよし、やる気のあるのはいいことだ。
「いいかっ! 今のところ順調だから、油断せず前を見据えて進もうぜ!」
「「「「「「「「おう!」」」」」」」」
「じゃ、あたし達石もらってくね。重いから帰りはここ寄らずに、直接転移で飛ぶよ」
「わかりました。行ってらっしゃいませ」
クララの『フライ』で遺跡の中へ。
◇
「この村は温かい水が豊富ですので、クレソンはきっとよく育ちますよ」
「ふむふむ、あの魔境クレソン向きなのか」
あたしの名前がついた集落ともなると見捨てるわけにいかない。
なるたけ発展に協力しようじゃないか。
春になったらクレソン持ってこよう。
「結局、食いもんが十分あるところが裕福だぜ」
「真理だねえ」
「土地のサイズがインポータントね」
狭いと何もできないもんな。西域は一般に山がちだけど暖かいから、柑橘なんかの果樹とは相性が良さそうではある。
大体他所と交流がないってのがよろしくない。
交流できれば知恵も湧くだろ。
「さて、着いたぞ」
以前トロルメイジのいた六芒星の広間に来た。
黒妖石の台を台座から外す。
「これ前はすげー重いと思ったけど、今はそれほどでもないねえ」
「レベルアップの恩恵ね」
カカシの育てたステータスアップ薬草を食べてたおかげもあるんだろうな。
自分の確実な成長が実感できると嬉しいものだ。
でも一昨日の『ファントマイト』はメチャメチャ重かったぞ?
よし、これで黒妖石の台を五つとも外してまとめた。
『スライムスキン』は手持ちのがあるから、これで凄草に自動で魔力を供給する材料の準備は完了だな。
「よし、帰ろうか」
転移の玉を起動し帰宅する。




