第459話:イシュトバーンさん家にて
赤プレートに反応がある。
『御主人、聞こえるかぬ?』
「うん、バッチリだよ」
『イシュトバーンに代わるぬ』
イシュトバーンさんが話しかけてくる。
『おう、精霊使い。どうした?』
「ヘリオス・トニックっていう商人さん知ってる? ヘリオスさんが本くれるって言うんだけど、精霊連れでレイノス歩くと警備兵さんに迷惑かけちゃうからさ。イシュトバーンさん家で待ち合わせしていい?」
『ヘリオスか。今そこにいるのか?』
「うん、いる」
『代わってくれ』
ヘリオスさんに赤プレートを渡す。
「ヘリオスです」
『元気か? 最近来ねえじゃねえか』
「御無沙汰して申し訳ありません。翁はこの前のフィッシュフライフェスで存在感を見せつけたようで」
『ハハッ、オレは名前貸しただけだぜ。お前も精霊使いに捕まったか。お互い難儀なことだな』
何てことゆーんだ。
西門警備兵の皆さんが生温かい目で見てくるじゃないか。
「で、お邪魔してよろしかったでしょうか?」
『おう、夕飯時に来い』
「じゃあコブタ肉を持ってくよ」
『待ってるぜ』
「ヴィル、ありがとう。通常任務に戻っててね」
『はいだぬ!』
警備員さん達が言う。
「ほー。あの悪魔ちゃんがいると、遠くにいる人と通話ができるのか」
「うん。あちこちと連絡が取りやすくなったねえ。ヴィルがいてすごく助かってる」
「すげえなあ」
「まったくだ」
本当にすげえのは、ある程度以上のパワーのある知人なら探してくれるってことなんだよな。
おかげでパラキアスさんみたいにあちこちほっつき歩いてる人とも、簡単に通信が繋がる。
あたしが行動するに当たって、段々ヴィルの働きが重要になってきているのだ。
ヴィルはいい子。
ヘリオスさんが話してくる。
「では、私はこれにて失礼します。また後ほど」
「じゃあまたねー」
ヘリオスさん秘書さんと別れ、転移の玉を起動し帰宅する。
◇
フイィィーンシュパパパッ。
「こんにちはー」
イシュトバーンさん家に到着。
「精霊使い殿、お待ちしておりました」
「おう、待ってたぜ」
警備員さんだけじゃなくてイシュトバーンさんも待ち構えてる。
何でだ?
ゆっくりしてればいいのに。
「あれ、ふらつかなくなってるね?」
「ちょっと慣れてきたな。まだ肉がつくところまではいかねえんだろうが」
「コブタ肉たくさん持ってきたから食べよう」
お付きの女性達にお肉を渡す。
「あんたも胸に肉がつくといいのにな」
「悲しいことにダメみたい。今日マルーさんに会ってさ、固有能力いらないかって言われたから、『巨乳』か『ギャグセンス』はあるか? って聞いたらないって」
警備員さん笑うなら笑っておくれよ。
「やはりあの魔宝玉の依頼はクソババアだったか。払えねえだろ?」
「そりゃまあ全額はムリだけど。一五〇〇万ゴールドもらったからいいんだ。あと、大地から魔力を集める技術教えてもらうの」
「魔力を集める?」
「転移石碑なんかに使われてる技術なんだけど」
イシュトバーンさんが首をかしげる。
「……あちこちに転移できりゃ便利だろうが、『アトラスの冒険者』であるあんたにはそうメリットがねえじゃねえか」
「いや、転移網ができれば便利になると思うよ。でも主目的は違ってさ」
「転移石碑以外の魔道の装置か? 例えば?」
興味があるのはわかったから、えっちな丸い目でじっと見るな。
「色々利用できるんだけど、一番大きいのは塩かな」
「塩?」
「デス爺の転移術と組み合わせて、海水を持ってくるでしょ? 火の魔法も使えれば、煮詰めて塩にするところまで自動でできるかなって」
「ははあ、うまいこと考えたな」
「考えるのはタダだよ。でもここから試行錯誤が大変なんだよなー」
イシュトバーンさんは感心するけど、難しいのは実用化だよ。
あたしはめんどくさいこと嫌いだから、アイデアは出すけど丸投げだ。
「掃討戦後に使えるようになった土地あるじゃん? あそこで黄の民に塩作ってもらおうと思ってたの。身体デカくてパワーあるから。でも自動でできるところは自動でやれば、楽で儲かるなーと思ってさ」
屋敷に上げてもらう。
「あんたの奇抜な発想は、本読んで思いつくのか?」
「本読むのはあたしの領分じゃないな。ここにいるクララと、弟分アレクの仕事」
「だよなあ。あんたが読んでたらすぐ寝ちゃいそうだ」
「一分半くらいは頑張れると思うけど」
「一分半かよ」
笑い合う。
睡眠はとっても大事だからね。
「クララやアレクが重要なことは教えてくれるから、そういうのの内、面白いのが頭に残ってる感じ?」
「おい、『重要』が『面白い』に変換されてんぞ?」
「世の中の全てが『面白い』に変換されないかなあ」
ふとイシュトバーンさんが真面目な顔になり、声を落として言う。
「……ヘリオスは知ってるのか?」
戦争のことだろう。
「話した限りでは知らないっぽい。帝国から輸入物資が入らなくなってどうこうとは言ってたけど」
「そうか、わかった」
門へ警備員さん達が駆けていく。
ヘリオスさんが来たかな。
◇
「これは大変美味いですな!」
「だろう? 精霊使いに教わったんだ」
コブタ肉の炙り焼きにフルコンブ塩をかけた例のやつだ。
ヘリオスさんと従者二人が夢中で食べている。
「違う食べ方でもおいしくなるはずなんだけど、そっちまだ研究中なの」
「違う食べ方?」
「うん、鉄板で焼いて醤油ベースのタレで食べるってやつ。今日ようやく材料揃ったとこなんだ」
「醤油ってあれか、風味のある黒い塩水だよな。脂落とさねえのか?」
「脂のパンチのあるところを、タレで受け止めるイメージだよ。どっちかというと若者向きの食べ方かもしれないな」
ヘリオスさんが感心したように言う。
「この前の魚フライフェスもそうでしたが、精霊使い殿は食に強いので?」
「おいしいものが好きなだけだよ」
イシュトバーンさんが聞く。
「あんたらはどこで知り合ったんだ?」
「冒険者になると言って家を飛び出した息子を、私が探していてですね。『アトラスの冒険者』のギルドを訪れたんです」
「たまたまその子が西の塔の村に行ったこと、あたしは知ってたんだよね。名前はジンって言うの。ジンと知り合った時まだ誰もレイノスの商人さんを知らなかったから、この縁を大事にしとこうと思ったんだ」
イシュトバーンさんが呆れたような顔をする。
縁は大事。
縁を掴む運も大事。




