第453話:ハグの力
「アンタみたいにたくさんの素因を持って、五つも固有能力が発現している子に何がわかるって言うんだい! アタシは……」
声を詰まらせるマルーさん。
「魔女なんて呼ばれていながら、ニルエに何もしてやれない……」
マルーさんはその人の持つ固有能力の素因まで見えるという。
おっぱいさんの話を聞く限り、固有能力を発現させる条件もわかるっぽい。
でも素因がないんじゃどうにもなんないと思ってる、ってことなんだろうなあ。
マルーさんががめつくおゼゼを稼ごうとするのも、あの子のためなのかもしれない。
となると魔宝玉クエストでマルーさんのおゼゼを巻き上げたのは、悪いことだったみたいな気がしてくるわ。
あたしは真面目に働いただけだとゆーのに、何とゆー理不尽。
「ちょっとあの子貸してくれる?」
「は? 貸す?」
何言ってるんだかわからんだろうけど。
立ち上がってニルエに近付く。
ニルエもまた光のない瞳であたしを見つめる。
「何をするつもりだい?」
「何ってほどのことではないんだけどさ」
ぎゅっとハグする。
ちょっとある。
血の流れるような感覚。
「うん、いいんじゃないかな?」
「ち、力が湧いてくるような気がします?」
「よーし、元気出せ!」
マルーさんの目が驚愕に見開かれる。
「ニルエに固有能力が発現した? ば、バカな、素因すらなかったのに……」
「そーなん? よかったねえ」
「あ、アンタは一体何を……」
説明する。
「彼女は身体全体の魔力の流れが悪かったんだよ。あたしレベルが上がって、魔力の流れが見えるようになったんだ」
「魔力の流れ?」
「うん、ケガして障害のある部位なんかで起きる現象なんだ。身体全体の魔力の流れが停滞してる感じだった」
「だ、だけどニルエはケガなんか……」
「だから違和感があったんだよねえ。で、ぎゅっとしたら本来の魔力の流れになるかなーって」
ただの思いつきに過ぎない。
根拠があったわけじゃない。
けどあたしのぎゅーは、ヴィルがふおおおお言うくらいにはパワーがあるからな。
唖然とした目であたしとニルエを交互に見るマルーさん。
おそらく小さい頃から固有能力の素因を一つも持たないことを絶望され、ニルエ自身の気力が失われてしまったのではないだろうか?
結果として魔力の流れを阻害したんじゃないかな。
「魔力の流れが正常になると、固有能力が発現したり、素因が出たりするのかい?」
「ばっちゃんみたいな専門家が知らないことを、あたしが知るわけないじゃん。でも固有能力って大したことじゃない気がするんだよねえ」
「い、五つも固有能力を持つアンタがそれを言うのかい?」
「固有能力を持たないのは普通だし、持ってなくとも優秀な人はいるよ?」
例えばレイノス副市長のオルムスさんや、イシュトバーンさんをも唸らせるファッションセンスを持つセレシアさんがそうだ。
おっぱいさんやオニオンさんも固有能力持ちではない。
「でも魔力の流れは大事。元気な人は例外なく流れが活発なんだよ。元気があれば何でもできる!」
いや、正直固有能力が発現したってのはビックリだけどな。
「ハハ、ハハハハッ……」
「エフ、エフ……」
何だよ二人して。
泣くのか笑うのかどっちかにしなよ。
喜ばしいことなら笑え。
「呪いなんかじゃなかったんだ……」
「違うとゆーのに」
「ありがとうございます、精霊使いさん!」
「どーいたしまして。あたしの名前、ユーラシアね」
「はい、ユーラシアさん」
マルーさんは誰よりも『鑑定』の能力が優れているだけに、固有能力万能主義に陥ってたのかもしれないな。
あたしも戦闘に関しては固有能力持ちの人が有利だと思うけど。
「ところでニルエの固有能力って何なの?」
レアっぽい気配なんだけど?
「『いい子』だね」
「え?」
ヴィルと同じやつか。
まさかの超レアキター!
「アンタには礼をしなきゃいけないんだが、残念ながら金がない。アタシにはもう、この家と売れない魔宝玉しかないんだ。家を売れと言うなら売るし、魔宝玉も返せと言うなら返すが……」
「いらないよ。それよりばっちゃんらの生活はどうなの? 『鑑定』の能力があれば困るほどじゃないのかな?」
「アタシらは何とでもなるが……」
申し訳なさそうなマルーさん。
「ばっちゃんの力を貸しておくれよ。転移石碑とかに使われてる、地中から魔力を引っ張ってくるやつ。あたしにはあの技術が必要なんだ」
「あれを? 何に使うんだい?」
いろんなことを考えているんだが。
「一番大きな計画は、転移術と組み合わせて塩を作るってやつだな」
「塩? ……ははあ、つまり人力で海水を汲むのは大変だから、魔力を溜めておいてスイッチ一つで海水を転移させてくると?」
「そうそう、ばっちゃん理解早い!」
感心するマルーさん。
「えらいことを考えたね」
「まだあるんだ。凄草栽培するのに必要な魔力を集めたり、氷晶石と連動させて冷蔵庫作ったり」
「面白い。よし、協力しようじゃないか!」
「やったあ!」
よーし、イケるぞ!
マルーさんに協力してもらえれば、放っといても凄草を枯らさなくすることはできる。
「ただ魔力を地中から引き出しても、溜めておく媒体が必要なんだよ」
「黒妖石でいい? 結構デカいやつに当てがあるから買ってくるよ。予約してあるんだ」
「知ってるのかい。呆れたもんだね……これが精霊使いユーラシアか」
美少女精霊使いだとゆーのに。
重要な形容語を省かないでもらいたい。
「……アンタ、新しい固有能力はいらないかい?」
あれ? マルーさんあたしに何かの固有能力をプレゼントしてくれるのかな?
「『巨乳』か『ギャグセンス』は候補にあるかな?」
「そんな固有能力はないねえ」
「じゃあいらない」
「そ、そうかい」
何かガッカリしてるみたいだけれども。
「今は必要ないんだけど、将来固有能力があることで打開できそうな状況があったら頼んでいい?」
「もちろんだよ!」
マルーさんが笑顔になった。
喜んでやってもらえるのが一番だね。
「また明日来るよ。あたしん家まで来てくれる?」
「わかったよ」
「じゃ、迎えに来るね。さーて、あたしこの村見物してこようかな。カトマスは砂糖が安く手に入るって聞いたんだ」
「ものには不自由しない村だよ。ニルエ、案内してやんな」
「はい!」
マルーさん家を後にする。
ヴィルをニルエに会わせてやりたい。
ダブル『いい子』だ!




