第452話:呪われた子
――――――――――九二日目。
カル帝国との開戦は六日後に迫っている。
ユーラシアはまだその事実を知らない。
◇
「きょーおっは凄草株分けの日っ!」
「ユーちゃん、ゴキゲンだな」
「ゴキゲンだよ。おいしいものが増えるのは嬉しいからね」
株分け日は大体畑番の精霊カカシとお喋りだな。
凄草は全ステータスが上昇する上にあまーいので、とてもありがたい。
食卓の充実度半端ない。
「先に食べるかあとにすべきか、それが問題だ」
「名言風だな。大したこと言ってねえけど」
アハハ。
オーソドックスに前菜としてもいいんだけど、甘さはデザート向きなんだよな。
どうでもいいことではある。
美味いことには変わりないから。
「そーだカカシ。石に魔力込めるの、自動でできるかもしれない」
「ほお?」
「今のままだとさ。長期のクエストに関わって帰れなくなったりしたら、凄草枯れちゃうじゃん? 何とかしたかったんだよね」
魔力を時々補充する方式の難点だ。
戦争が始まると、マジでいつ帰れるかわかんないしな。
それもあたしが生きて帰ると仮定しての話だが。
『アトラスの冒険者』になる前夜、自称女神はあたしが戦争で命を落とすと言っていた。
あれはただの夢じゃない。
今でもハッキリ覚えているし、拾えと言われた『地図の石板』から全てが始まったってこともある。
メッチャ気になるなあ。
あれからたわわ女神は一度もあたしの夢の中に出てこない。
こーなることがわかっていたなら、もっと突っ込んだ話聞いてたんだけど。
いや、あたしはやるべきことはやってる。
レベルも極限まで上がってる。
大体あたしは日頃の行いがいいから、お天道様も手助けしてくれるだろ。
カカシの言葉で現実に引き戻される。
「……ムリはしてくれるなよ?」
「ん? ムリじゃないんだよ。大地から魔力を吸い集める技術を持ってる人の協力を得られると思うんだ。今日、その人の家行ってくる」
「どんな人だい?」
「ドーラで一番嫌われてる人かな」
「え?」
カカシが唖然としてる、多分。
「でもあたしはかなり面白い人だと思うんだよね」
「どんだけ注意しても足りねえんじゃねえか?」
「かもね」
マルーさんに会うのもだが、カトマスに行くこと自体も楽しみなのだ。
どんなところかなー。
「ユー様、御飯ですよ」
「はーい、今行くー」
◇
フイィィーンシュパパパッ。
「ここがカトマスかあ!」
ドリフターズギルド・セット改めカトマス行きとなった一四番目の転送魔法陣から飛んできた。
行き交う人々の足音と微かな砂埃、客引きの声とそれをあしらう声、ウマのいななき。
賑わってるねえ。
同じ人が多いのでもレイノスとは異なる、山っ気やワイルドさが感じられる。
好きな雰囲気だ。
「おっと可愛い娘ちゃん、立ってるのは転送ビーコンのある場所だぜ。危ないから離れてた方がいい」
「ありがとう、イケてるおっちゃん!」
「いいってことよ」
転移や転送でカトマスに来る人が何人かいるっぽいな。
だから転送ビーコンのことも知られているんだろう。
なるほどではある。
ちょっと歩いてみたけど……カトマス広くない?
獣人の二人組が普通に歩いてる。
やはりここは亜人でも変な目で見られたりしないようだ。
うちの子達連れてきても大丈夫そうだけど、人嫌いという精霊側の問題があるからなー。
ところでマルーさん家どこだろな?
地元の人っぽいおばちゃんを捕まえて聞いてみる。
「こんにちはー。マルーさん家ってどこかな?」
「『魔女の館』かい? すぐそこだよ」
『魔女の館』って呼ばれてるのか。
まんまやんけ。
あ、本当だ。
看板出てるじゃん。
庭は広いけど普通の家だな。
「『強欲魔女』に用があるのかい? 油断してるとケツの毛まで抜かれるから気をつけな」
「うん、ありがとう!」
まさか抜きに来たんだよとは言えないしな?
ドアをノックする。
「こんにちはー」
「お入り」
声に応えて中へ。
「うーん」
「どうしたんだい?」
「『魔女の館』って言われてたからさ、ちょっと期待してた」
「何をだよ!」
家の主マルーさんだ。
奥にもう一人若い女の人がいるな。
「もうちょっと魔女っぽい演出とゆーか雰囲気作りとゆーかおどろおどろしさとゆーか」
「冗談お言いでないよ!」
「いや、冗談でなくてさ。ばっちゃん鑑定でかなりのおゼゼもらってるんでしょ? お客を満足させることも考えないと」
「ふん」
聞いてないようで聞いてますね?
「カトマスって大きいんだねえ。ビックリしたよ」
「精霊使いは、カトマス来るのは初めてかい?」
「うん、カラーズ灰の民はこっちに縁がないわ。冒険者になっていろんなところ行くようになったけど、カトマスは初めて。いっぺん遊びに来てみたかったんだ」
「そうかい。ハゲ爺は元気かい?」
「デス爺? 元気だよ。溢れるバイタリティーを持て余して、西への街道の果ての塔のあるところに村作ってる」
「最近話題の塔の村は、やはりハゲ爺が直接運営してるのかい」
「その塔が『永久鉱山』でいくらでも素材が取れるんだ。冒険者集めて回収した素材やアイテムを売買する商売やってるの」
「ああ、少しは聞いてるよ」
あたしと同じくらいの年齢の女性が、ハーブティーを淹れてくれる。
この人何だろう?
生気がないというか儚いというか、表現しがたい違和感がある。
「ん? 気になるのかい?」
あたしの視線に気がついたか、マルーさんが水を向ける。
「すごく」
「さすがにカンがいいねえ。あの子は呪われた子なんだ。あんたみたいな恵まれた子にはわからないかも知れないが」
「呪われた子?」
「人は不平等だ」
マルーさんがため息をつく。
ここでいきなりダンパパの言っていたキーワードが出るのか。
人は不平等?
「アタシの孫娘なんだ」
「うん。顔のパーツは似てる気がする」
醸し出す雰囲気はマルーさんと全く違うが、言われてみれば納得はできる。
「アタシの息子も同じだったんだ。どうやらあの……呪われた体質も子孫に受け継がれるらしい」
「呪いってのは何なの?」
「あの子ニルエは、固有能力の素因を一つも持たないんだよ」
最強の冒険者シバさんの説明だと、人は必ず一つ以上の固有能力の素因を持つとのことだった。
「固有能力は翼であり、素因は可能性だ。ニルエには可能性がない」
「そーかな?」
キッとした目であたしを睨むマルーさん。




