第450話:ぎゃーおもーい!
つまり魔力を集める『精霊石』なんてものがあるせいで、こんな集落に近い洞窟にレッサーデーモンみたいな結構な魔物が湧いたのか。
いろんなことがあるんだなあ。
「でもここ両側に出入り口があったから、全く空気の通りがないわけじゃないのになあ。ある程度魔力も抜けると思うんだけど」
「片方しか出入り口がなかったら、もっとヤベー魔物が湧いてたんじゃねえか?」
「こんなところに湧いて、巨体縮こませてキュウキュウ鳴いてるイビルドラゴンを想像すると笑えてくるねえ」
「精霊使いの想像力は偉大だな」
アハハと笑い合う。
要するにこの石がここになければいいんだな?
「この『精霊石』、あたしもらっちゃっていい?」
「もちろんいいぞ。こっちは魔宝玉もらったしな」
「わーい、やったあ! ぎゃーおもーい!」
「ハハッ、ユーラシアも可愛いところあるじゃねえか。どれ、貸してみろ。って何だこれ、メチャクチャ重っ?」
そりゃあレベルカンストのあたしが重いつってんだから。
結局あたしがふうふう言いながら運びましたとさ。
「……ってことだ。洞窟としての用がないなら、入り口だけ塞いでおけばいいと思うぜ。念のためしばらくしたら見に来るが」
ダンが村人三〇男に説明した。
「ありがとうございました。些少ですが」
謝礼を受け取る。
あたしはよかったのにな。
「ところでここはどこなの?」
転送魔法陣の名称も『洞窟のデーモン』だったからわからん。
魔法陣さんに聞けばよかったな。
「ハチヤという自由開拓民集落です」
「あ、ハチヤだったか」
「知ってるのか?」
「レイノス東だよ。ソル君家のあるグームより、ちょっとカラーズ側にある集落」
レイノス東のことは、ダンもよく知らないだろうしな。
「カラーズからの交易輸送隊が泊まってくでしょ? もし冒険者が必要なトラブルがあったら、輸送隊経由であたしに連絡くれても構わないからね」
「はい、助かります!」
ダンはクエストを完了できて、村人にしてみれば危機は去った。
あたしも新規のレア素材である『精霊石』を手に入れることができて万々歳だ。
めでたしめでたし。
「でもこんなところにレッサーデーモンがいるなんてビックリだねえ」
「危ねえよな。もっとも魔力濃度の薄い外には、出てこられなかっただろうが」
「無事にすんでよかったよ」
レッサーデーモン相手のクエストなんて、かなりレベル高い冒険者じゃないと割り振られないだろう。
しかもこのクエストは洞窟の両側から魔物を退治していかないといけないから、共闘が前提になってるような気がする。
案外こういうケース多いんだろうか?
「飯食うか?」
「ダンの家だよね。『精霊石』がちょっと重過ぎるから置いてくる」
「どうする? 俺がエスコートしてやろうか?」
「『メチャクチャ重っ?』とか叫んでた貧弱君を歩かせるのも申し訳ないから、あたし達だけで行くよ」
「怪力精霊使いのえぐる傷が痛い!」
「アハハ。じゃ、ギルドで待ち合わせね」
笑いの中、転移の玉を起動し帰宅する。
『クエストを完了しました。ボーナス経験値が付与されます』
おお?
状況から判断すると、これもギルド・セットのクエストだったか。
◇
「ヘリオス・トニックという商人さんなんだけど」
「ああ、存じておりますよ。紙と印刷物を専門としております方ですな」
ダンとダンパパことカリフさんとの夕食中の話だ。
せっかくなので時間を有効に使って、ヘリオスさんの情報も得ておこうと試みる賢いあたし。
「鍋はウシ肉が合うねえ」
「おい、話繋がってねえぞ?」
「そんなこと言ったっておいしいんだもん」
「ハハハ、どうぞどうぞ」
上品でくどくないお肉は野菜との相性がいいのだ。
「ウシの糞はやっぱり肥料になるの?」
「そうですな。収穫後の作物の植物体を乾燥させて細かくしたものを混ぜて発酵させると、よい堆肥になります」
「おい、食事中だぞ」
「ごめんよ。掃討戦のあった西アルハーン平原あるでしょ? あそこで家畜飼うのは急ぐべきかなって、考えてるところなんだ」
「蹄耕法という手法がありますよ。藪をアバウトに伐採して、家畜を入れてしまうのですな。家畜の食うがままに任せると。雑草がなくなったら耕作地に転換してもいいし、牧草の種を蒔いて牧場にしてしまってもいい」
「おおう、なるほど!」
うまい方法を教えてもらった。
掃討戦跡地にある程度人が居ついたら、広めに柵で囲って家畜入れちゃうのもいいかもな。
「第二『オーランファーム』を作る予定があったら、向こうも候補地にしてちょうだいよ」
「ふむ、考えておきます」
今は注意喚起しておくだけでいい。
需給のバランス取れてるしな。
戦後に移民が多くなったりしたら、農産物の増産が急務になるけれども。
「で、ヘリオスさんってどんな人かなあ? カリフさんから見て」
「話戻るのかよ!」
自称聖人はうるさいなあ。
善人パパを見習えよ。
「手前自身との関わりは多くないですが、やり手と聞きます。積極的で、特に悪い評判はありません」
「今度はそいつを悪巧みに引き込むのか」
「人聞きが悪いなー。レイノスの商人さんって、カラーズの人間にはあんまり縁がないからさ。いい人だったらコンタクト取りたいじゃん」
「あんた、冒険者より商売やイベントに熱心じゃねえか」
「人との繋がりがより重要だと思うんだよね」
西の流通もわかんないんだよなー。
塔の村がデス爺の思惑通り発展するなら、レイノス~カトマス~塔の村のラインは無視できないし、カラーズも西域との商売を考えざるを得なくなる。
「流通なら、手前の娘婿が関わっておりますよ。『オーランファーム』からレイノスだけでなく、カトマス~レイノス間の物資輸送も手がけております」
ん、娘婿?
「ダンってお姉さんがいるんだ?」
「二人いるぞ。もう一人はレイノスで農場の直営店を旦那と切り盛りしてる」
「えーと『サナリーズキッチン』だっけ?」
「そう。サナリーは二番目の姉」
へー、お姉さんが二人か。
ダンは性格が末っ子っぽいと思ってはいたけれども。
「もう一つ聞いてもいいかな?」
「何なりと」
「『強欲魔女』って呼ばれてる、カトマスの鑑定士マルーさんのことをどう思うかなーと」
あら、露骨にダンパパの顔色が変わったね?
自称聖人の息子はニヤニヤしているけど。




