第448話:肉たっぷり鍋に釣られて
おっぱいさんがカトマス出身なら聞いとこ。
「あたしカトマス行くのは初めてなんだ。何か注意することあるかな?」
「雑多で活気のある村です。各地から様々な人が来ますので、治安はいいとは言えませんね。盗まれるのが悪い、騙されるのが悪いとする気風があります。でもユーラシアさんなら全然問題ないと思いますよ」
「食べ物とか名産品とかは?」
「ああ、注意ってそういうことでしたか」
おっぱいさんが笑う。
あっ、ヴィルがおっぱいさんに寄ってったぞ?
黒い瘴気が抜けたらしいな。
「西域から出荷されたものが集まる地です」
「ふんふん、西域の産物の集積地か。じゃあレイノスより物価安そーでいいねえ」
「大体何でもレイノスより安く買えますよ。強いて言えば砂糖とか?」
「あっ、砂糖欲しいな。カトマスで買えばいいのか。サクラさん、ありがとう!」
「いえいえ、楽しんできてください」
「バイバイぬ!」
甘味は貴重だ。
それに今のあたしは、醤油と砂糖のコンビネーションがパワフルだとゆーことを知ってるしな。
カトマスへ行く楽しみが増えたぞ。
依頼受付所を離れたところで、ダンが話しかけてくる。
「おい、サクラさんって時々怖くねえか?」
「まあねえ」
「怖いぬよ?」
「逆らっちゃいけないタイプの人であることは間違いないわ」
「ユーラシアでもかよ」
あたしでもってどーゆーことだ。
あたしはごく常識的な平和主義者だぞ?
無闇やたらとケンカ売ってる狂犬じゃないわ。
「あんた、今日の午後はどうするんだ?」
「どうしよっかな……」
特に決めてはいなかった。
魔境へ気晴らしに行くか、あるいはあたしの名前に変更した盗賊村に顔を出すか。
それこそ先回りでカトマス見物でもいい。
「絶対やんなきゃいけない用事はないんだよね」
「ちょっと付き合ってくれねえか?」
「デート?」
「まあそんなもんだ」
「夕御飯で手を打つよ」
「肉たっぷり鍋でいいか?」
「もちろんだよ親友」
やったぜ夜はお肉たっぷり鍋だ!
ウシのお肉は鍋に合うんだよなー。
ダンとともに『オーランファーム』へ。
◇
「ユーラシアさん、その節は大変お世話になりました」
あたしがレベル上げした『オーランファーム』従業員さん達だ。
ふむ、ダンが鍛えてるからか、随分と様になってる気がする。
帝国戦になっても『オーランファーム』は大丈夫だ。
安心感が増した。
「いやいや、今日もお肉たっぷり鍋のいい匂いに釣られてお邪魔しちゃったよ」
皆が笑う。
「新しい転送魔法陣が出たんだが」
「え? あんたもう魔境の一〇〇体倒す条件クリアしたんだ?」
ダンの家の庭の転送魔法陣が並ぶエリアだ。
魔境トレーニングエリアのクリア条件は、一〇〇体の魔物を倒すか真の竜族を倒すかである。
結構大変だと思うがな?
いや、ダンは普通の魔境初心者よりかなりレベルが高いから、何とかなっちゃうのか。
「まあな。といってもあんたとの愛の共同作業がかなりある」
「いやん、共闘って言いなよ」
共闘で倒した分は二分の一で算定されると聞いた。
あれ? そーいや確かダンが『アトラスの冒険者』じゃない内から、世界樹エリアも含めて魔境で共闘してるな。
あの辺の算定どうなってるんだろ?
まーどうでもいいけれども。
「一人じゃちと面倒なクエストなんだ」
「どんなんなの?」
「ま、直接見たほうが早いぜ」
「ん、わかった」
◇
フイィィーンシュパパパッ。
「ダンさん、お待ちしておりました」
ここは?
どこかの自由開拓民集落みたいだな。
いかにも村人っぽい、三〇代くらいの男性がにこやかに挨拶してくれる。
「助っ人を連れてきたぜ。精霊使いユーラシアだ」
「こんにちはー」
「ユーラシアさんというと、あの有名な?」
「そう、美少女として有名な」
「おい、美少女よりも、いい性格が前に出過ぎだぞ?」
「どっちをウリにするのがいいかなあ?」
あたしも有名になったもんだ。
三〇男が大丈夫かコイツみたいな顔してるけど。
「悪いがもう一度説明してやってくれ」
つまり両側に出入り口があるトンネルみたいなダンジョンがあり、中に魔物が生息しているってことらしい。
向こう側にも集落があるので、片方から討伐を進めると、向こうに魔物を押し出してしまって都合がよろしくない。
「なるほど、両側の出入り口から攻めてくから、あたしに夕御飯を奢るってことか」
「夕御飯はこの際関係ねえんだ」
「夜稀にしか魔物が集落に出てくることはなく、実害はほぼないんですが……」
「気味悪いだろ?」
「うん。両側の入り口塞いだらどう?」
「そんなんでクエストクリアの条件になるのならな」
なるわけないわなあ。
「じゃ、片っぽ塞いどいてもう片っぽから攻めるのは?」
「中に住み着いてる一番の大物はレッサーデーモンらしい。岩や土で塞いどくのと美少女精霊使いで塞いどくの、どっちが安全だと思う?」
「ダンも考えてるんだなあ。りょーかいしたよ」
レッサーデーモンは魔境ワイバーン帯に住む魔物だ。
例えばカイルさんと二つのパーティーに分けて挑んだとするなら、かなり危険。
「デーモンって暗いところが好きなのかな? 魔境であんまり遭わないのもそのせい?」
「かもな」
三〇男が言う。
「魔物が外からやってきたのか、中に発生源があるのかわからないんです」
「発生源かは知らんが、中に何かあるから魔物が住みつくと考えるのが自然だろ?」
「うんうん。こんな人里近くの洞窟にレッサーデーモンがいるなんて相当おかしい」
比較的大きい洞窟に思える。
「で、一方の入り口がここってことね」
「歩いて一〇分ほどのところにもう一方の入り口があります。知られている限り、普通に歩けないような狭いところはないです」
「俺らが向こう側から入る。ユーラシアは一〇分経ったらこっちから入ってくれ。中に分岐はないって話だが、言い伝えレベルなんで実際のところはどうかわからねえ。分岐があったら止まって、少なくともこっちの集落に魔物を出さないようにしてくれ」
「オーケー。ダンのほうが心配だから、ヴィルついて行ってあげてくれる?」
「わかったぬ!」
間違ってグレーターデーモンクラスの魔物がいたとしても、ヴィルがいれば逃げるくらいできるだろ。
「助かるぜ。ヴィル、よろしくな」
「よろしくだぬ!」
「では一〇分後、よろしくお願いします」




