第446話:依頼人登場
フイィィーンシュパパパッ。
ギルドに来た、が?
「あっ、ユーラシアさん……」
決まり文句の『チャーミング』も忘れて、困惑顔のギルド総合受付ポロックさん。
何事だってばよ?
「昨日の午後から、ユーラシアさんに会わせろって人が来てるんだ」
「昨日の午後から? そりゃ熱心なことだね。人気が出ちゃうのも困ったもんだ。お触りは禁止だよって言っといてくれる?」
「ユーラシアさんのファンではないんだ」
苦笑するポロックさん。
ハハッ、軽いジョークで場を和ませたった。
「ひょっとして魔宝玉クエストの依頼人?」
「大正解」
イシュトバーンさんは言ってた。
依頼人は必ずあたしに会わせろと言ってくると。
予想が当たってたな。
「イベントが向こうから転がり込んでくるとは。あたしの人生捨てたもんじゃないな」
「ユーラシアさんの人生は実に美しく彩られているように傍からは思えるけれども」
「アハハ、ポロックさんは洒落たことを言うなあ」
しかしポロックさんを慌てさせるくらいの人か。
「魔宝玉クエストとゆー、ひっじょーに愉快なお仕事を振ってあたしの人生を彩ってくれた依頼者にはすごく感謝しているんだ。会ってくるね」
「気をつけてね!」
気をつけるも何も。
あたしはもしもギルドにドラゴンがいたって、冷静に対処するとゆーのに。
何をポロックさんは心配してるのだろーか?
ギルド内部へ。
依頼受付所の前の椅子に知らない老婆が腰掛けているが?
「あっ、ユーラシアさんがいらっしゃいましたよ」
おっぱいさんが老婆に声をかける。
んーおっぱいさん、すごく嬉しそうだけれども?
「アンタが精霊使いユーラシアかい?」
「あたしがかの有名な美少女精霊使いユーラシアだよ」
立ち上がる老婆。
ふむ、若干背中が曲がっているが、足腰はしっかりはしている。
冒険者の心得がありそう?
あたしをジロジロ見ながら老婆が言う。
「ふん、大体想像通りだね」
「あたしの可憐さまで理解してたか。ばっちゃんの想像力大したもんだな。ばっちゃんの身に着けてるチェックのケープと編み帽子は素敵だねえ」
「おためごかしをお言いでないよ!」
褒めたのに何か怒ってるけど?
「アンタ、アタシが昨日から待ってるのに来ないとはどういう了見だい?」
「あたしだってピクニック行ったり秘密基地の建設手伝ったり忙しかったんだもん」
「全然忙しそうに聞こえないねい!」
周りに集まった人から笑いが漏れる。
「ばっちゃんが魔宝玉たくさん持ってこいの依頼出してくれた人だよね?」
「たくさんという要求は出してないけどねい」
「怒ってたって仕方ないでしょ。ところで御飯食べない?」
「何を……」
いきなりの提案に面食らう老婆。
「お腹一杯になると腹立つことなんか大体どうでもよくなるよ。奢るからさあ」
「誤魔化されないよ!」
「まあまあ。ギルドの食堂の『鶏の香草炙り焼き』は、洞窟コウモリのお肉なんだ。すごくおいしいよ」
「……」
「ばっちゃんは奢りと食べることが大好きな人でしょ? あたしは『閃き』の固有能力でわかるんだから」
自信満々に言い切ったったが、べつに大したことじゃない。
世の中奢りと食べることが嫌いな人なんかいないのだ。
「そ、そうかい?」
いざ食堂へ。
◇
「……で、今カラーズからレイノスへ産物を売ろうとしてるの」
「アンタはヨハン・フィルフョーの知り合いかい」
御飯食べながら話は進む。
周りの冒険者がチラチラこっち見てくる。
何を遠慮しているのだ。
話しかけてくればいいのに。
「ヨハンさん知ってるんだ?」
「おうとも。子供の頃から知ってるさね」
思わぬところに情報源があった。
カラーズの事情までは知らないかもしれないけど、一応聞いとこ。
「ヨハンさんの御両親は、カラーズ緑の民の村から逃げたって聞いたんだけど?」
「親がともに緑の民の族長候補だったんだよ。母御は賢く世にも可憐な娘で、父御は『威厳』の固有能力持ちだった。どちらが族長でも緑の民の村は栄えただろうに」
「ふーん。二人が結婚して族長やるって方向はなかったのかな?」
「緑の民はエルフの血が入ってるだろう? エルフは族長の権威が強いと聞くねい。互いの派閥争いが激しくて、妥協はできなかったらしい」
もっともな事情があったんだな。
「今の緑の民の族長は、叔父叔母に遠慮しちゃってるみたいなんだけど?」
「本人の腰が砕けてるだけじゃないかい? よほどのボンクラでなければ、緑の民は族長のほうを向くものさね」
「参考になるなあ」
本当っぽいな。
じゃあ緑の民は族長オイゲンさんの方針に従うと考えていい。
民の意見が割れて分裂することはないか。
マジで緑の民の交易参加はどうにでも仕掛けようがあるな。
今は放置しとくけれども。
「ヨハンさんの息子さんが冒険者でさ。『威厳』の固有能力持ちなんだよ」
「よくあることだねい。固有能力は血も関係するからね」
「そーなの?」
「ヨハンは固有能力持ちではないけれど、『威厳』の素因は持っているよ」
え? 素因どうこうまでがわかるってことは……。
「あれ、ばっちゃんひょっとしてマルーさん?」
老婆が目を丸くする。
「誰だと思って話してたんだい?」
「知らないけど、なかなか愉快なばっちゃんだなーと思って」
「呆れた娘だね」
「そこの『娘』を『美少女』に置き換えてくれない?」
「贅沢をお言いでないよ!」
笑い合う。
「で、いつの間にか頭を撫でられにきているこの子は何者だい? アンタの子かい?」
「あたしの子じゃないけどうちの子だよ。悪魔のヴィル」
「ヴィルだぬ! よろしくぬ!」
「ほう、『いい子』だね。初めて見た」
「いい子ぬよ?」
『いい子』ってマルーさんが初めて見るほどレアな固有能力なのか。
「ヴィルはうちの偵察係と連絡係やってるんだ。ばっちゃんとこにも用があったら飛ばすかも知れないからよろしくね」
「面白いね」
ヴィルが素直に頭を撫でられている。
とゆーことは、マルーさん相当機嫌がいいんだろうな。
ついさっきまで何か怒ってたけれども。
「で、何かあたしに用だった?」
「おお、本題を忘れていたよ」
マルーさんが居住まいを正し、頭を下げる。
「すまないねい。魔宝玉の代金、とても全部は払えない」
「あるだけでいいよ。どうせ全額はムリだと思ってたし」
「え?」
唖然とするマルーさん。
周りもザワザワする。
『強欲魔女』登場。




