第443話:情報共有
ドーラで遊んでる皇女リリーについて、サイナスさんもある程度は知っとくべきだろ。
「塔の村で従者と普通に冒険者やってるんだよ。レイノス中町出身の変わり者お嬢様っていう設定で」
「セバスチャンさんというお付きの執事が、とてもできた方なんです。またリリーさん自身も親しみやすいお嬢様ってことで、すんなり受け入れられてるんですよ」
「逆にリリーが帝国の皇女って言っても、誰も信じないと思う。大雑把で大体パワープレイで解決だし、プリンセスの『プ』の字も構成要素にない」
「君と似てるな」
「あたしは美少女精霊使いであってプリンセスじゃないじゃん」
失礼だな。
ただの事実なのに、うちの子達まで苦笑してる。
「リリーさん、本当のお茶さえあれば寝坊なぞしないのだーって、毎日言ってた」
「お茶かあ」
前にレイノス行った時に、アンセリがマウ爺のお土産に購入してたな。
多分帝国からの輸入品だと思うけど。
クララが口を出す。
「茶の栽培は決して難しくないです。むしろドーラに向いていますが……」
「うん、お茶ではお腹が膨れない」
ドーラでお酒以外の飲み物として一般的なのは、ミントなどのハーブや柿の葉を煮出したものだ。
一部産地では牛乳や果汁も飲まれているが。
お茶は栽培に手がかかるらしいのに食べられないからなー。
ちょっと今のドーラでは手がけにくい。
もっと優先すべき作物はいくらでもある。
「ドーラが裕福になったら仕掛けたいねえ」
「君は仕掛けが大好きだな」
「てか本物のお茶っておいしいのかな? 飲んだことがないからわからん」
サイナスさんが笑う。
何故だ?
どうせサイナスさんだって飲んだことないだろうに。
「帝国がそろそろ攻めてくるんだよ。もう艦隊を集結させてて、向こうを出航間近だって。慌てないように用意しててね」
「どうしてそういう大事なことを、急に思いついたみたいに言うんだ!」
「だって急に思いついたんだもん」
「ユー姉は何でもないことみたいに言うけど」
「まあ艦隊自体は虚仮威しだからねえ。ただ決定力として空飛ぶ軍艦を寄越して、レイノスを爆撃するみたい」
「リリーさんの言ってた飛空艇? 魔法が効かないという?」
「そうそう。実際に製造してたんだね。かなりの高度が出るみたいで、こっちの砲撃は届かないっぽい。迷惑だよねえ」
サイナスさんが驚く。
「大変じゃないか!」
「まあ大変だね。ただ空飛ぶ軍艦もずっと飛び続けられるわけじゃないから。帝国からドーラまでは飛んでこられるけど、燃料満タンでも往復はできないって。着水したところでどうにかしようとするなら、結局外洋で海戦になるんじゃないかな?」
「海戦って、帝国艦隊相手にか?」
ドーラは軍船を所持していない。
海上でまともに戦うのは自殺行為だ。
じゃあその飛空艇をどうすべきか?
あたしにも考えがないわけじゃないが……。
「海戦になるなら、偉い人達が何か考えるんじゃないかなー」
そうなっちゃうとあたしの出番じゃないし。
「砲撃だろうと爆撃だろうと、ドカドカするだけじゃレイノスは落ちないよ。被害の大小だけの違い。こっちはこっちでやるべきことをやる。わかった?」
「……ユーラシアのように割り切るべきか」
灰の民の村の門が見えてくる。
ピクニックも終わりだ。
「じゃ、あたし達は帰るよ。今日は楽しかった」
「うん、じゃあな」
「ユー姉、また!」
転移の玉を起動し帰宅する。
◇
フイィィーンシュパパパッ。
「オニオンさん、こんにちはー」
「いらっしゃいませ」
「「「ユーラシアさん!」」」
魔境に来たら、何とソル君パーティーがいた。
結構遅い時間なのにな?
ちょっとビックリ。
しかし都合がいい。
「久しぶりだねえ。元気してた?」
「もちろんですよ。今日は文字通り魔境トレーニングです」
「ソル君は偉いなー。あたし魔境来るときはバカンス気分だよ。いや、レジャー気分かな?」
皆が笑う。
「今日ユーラシアさんは一人なのか?」
アンが不審そうだ。
「オニオンさんとデートだから」
「あははっ! 本当は何ですか?」
オニオンさんがアタフタすると同時に、セリカに笑い飛ばされた。
ちっ、つまらん。
「帝国との戦争について新しい情報が入ったんだ。ギルドの職員に伝えといてくれってパラキアスさんに言われたから、オニオンさんと話しに来たんだよ。ソル君達も聞いていってよ」
ギルドは人が多い。
悠長に話せる環境にないから、オニオンさんから他のギルド職員に伝えてもらうつもりだったのだ。
皆の表情が引き締まる。
「八艦からなる帝国艦隊が向こうの首都の外港に集結済み、出撃間近ね」
皆が頷く。
この辺は予想の範囲内だろう。
「いよいよですね」
「艦隊とは別に、空を飛ぶことのできる大型軍艦が完成した。ドーラに近付くと、かなり高い高度からレイノスに爆撃を浴びせるだろうって。もちろん普通の軍艦並みの砲撃銃撃も可能。面倒なことに、魔道結界張ってて魔法攻撃を無効にする。多分こいつが帝国の秘密兵器だよ」
「空飛ぶ軍艦ですか?」
オニオンさんが呆気に取られてる。
「こっちの砲撃届かないってことですか?」
「魔法も無効?」
「無敵じゃないですか!」
ソル君パーティが口々に言う。
「帝国本土からドーラへ直接飛んでこられるんだけど、往復できるほどの燃料は積めないらしいんだ。どこかで補給が必要」
「なるほど、隙がないわけではない……」
ソル君考えてるね?
「で、もう一つ。パラキアスさんが『西域の王』バルバロスさんの説得に成功した。とりあえず西域が敵に回ることはなくなったって」
セリカが驚く。
「えっ、西域が帝国につく可能性もあったのですか?」
「あったみたい。ドーラも一枚岩じゃないんだねえ」
沈黙する四人。
「『アトラスの冒険者』は予定通り西域の守備が仕事ね。とゆーか西域が通常通りレイノスに食料を売るのは、それが条件なんだって」
「何とずうずうしい!」
オニオンさんが憤るが、この条件はわからんでもない。
交渉次第では、西域が戦争に巻き込まれる必要はなかったかもしれないからだ。
『アトラスの冒険者』が西域に派遣されるのは規定路線なのだし、構わんのじゃないかな?
「二、三日中にオルムス・ヤン副市長から通達来るけど、ギルドの職員さん達には前もってこれ伝えておいてね」
「了解です」




