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にわか冒険者の破天荒な一年間 ~世界の王にあたしはなる!  作者: 満原こもじ


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第442話:塩と転移術

 大人数で食べるお肉は特においしい。

 すっかり腹一杯で満足していた時、フェイさんが言った。


「川にまいろうか」


 クー川は知られている中ではドーラ最大の大河だ。

 なだらかに水が流れる。


「この土手のあるところまでは水が来るかもしれないんだよね?」

「そうだな」


 土手から掃討戦跡地側を眺める。

 氾濫して水が溢れることはなさそーだな。

 ドーラは比較的気候が安定していて、雨季乾季がないからかもしれない。


 しかしここから水引くの結構大変だぞ?

 さっきの沢の水引いた方が早いんじゃ。

 ん? クララ、アトム、何だろ?


「うちの子達が言うには、潮の干満や風向きによっては水に塩が混じりやすいから、上流から水を引くのがいいって」

「上流か……魔物の生息域だな。先ほどの沢の水を使うべきか?」

「あの沢の水は冷たいから、そのまま引くと作物の生育が悪くなるって。陽の光によーく当てて温かくしてから入れればいいって」

「ふむ、では水路を長くするか、水を温めるための貯水池を造って経由させるかだな。貯水池が現実的か。将来はクー川から水を引きたいが、来年は沢の水を使うことにしよう」


 皆が頷く。

 今のままじゃ人力もあまりかけられないし、稲の試験栽培ということなら沢の水を使うのがいいだろう。


「となると、沢からクー川へ流れ込む途中に貯水池を作るのが現実的だから……」


 再びサイナスさんとフェイさん、アレクの三人が地図とにらめっこ。

 あたし?

 いや、あたしが見てると眠くなっちゃうから。

 フェイさんの指示で二人の黄の民が杭を打って、位置の目安にしている。


「まあ来年は試しだ。種籾が増えればいいくらいの気でやってみるぞ」

「灰の民にも声かけてよ。農耕の得意な精霊が見れば大失敗はしないはずだから」

「うむ、サイナス族長、よろしく頼みますぞ」

「はい」


 黄の民のパワーと灰の民の農業知識があれば、さほどおかしなことにはなんないだろ。

 で、次は塩か。


「基本的に天日を使って海水を濃縮し、その濃縮海水を煮詰めて塩を析出させます」

「ふむ、ならば川から遠いところの方が塩分は濃いか?」

「いや、恒常的に東風が吹くから……」


 何か難しいこと話してるね?


「ユー姉は何かアイデアないの?」

「製塩で? あるよ」


 フェイさんが興味を持ったようだ。


「ほう、精霊使いの考えを拝聴したいが」

「要するに塩作りは海水を運んでくるのが一番大変だから、そこから考えるべきだと思うんだよね」

「もっともだれけども、海水を導くなら潮の満ち引きか人力しかないだろう?」

「転移術を使えないかってことなんだけど」

「「「!」」」


 驚く三人。

 いくらあたしが可憐だからって、まじまじと見つめなくてもいいって。


「……つまり海水を転移させてくると?」

「うん。転移石碑なんかに使われてるんだけど、大地の魔力を吸い集めて用いるマルーさんの技術があるんだ。あれとデス爺の転移術、硬い石にケイオスワードを彫りつけるドワーフの石工技術があれば、手のかかるところが自動でできちゃう。だったら製塩場の場所はどこでもいいような」

「うむ、海水の転移が可能なら、むしろ排水を考えて場所を選定するべきだ」


 唸るサイナスさん。


「……転移術はデスさんの教えを乞うことができるとしても、マルーってあの悪名高き『強欲魔女』だろう?」

「でもマルーさんは何でもお金で解決できる人らしいよ。あたし大金が入ってくる予定なんだ」

「あ、あれか。例の魔宝玉を納めるクエスト?」

「そうそう。金額に換算したら、ドーラが丸ごと買えるって話だよ?」


 呆気にとられる三人。

 あたしのかれえらいすの実現のためだ。

 少々おゼゼを出してやっても構わんぞ?

 ようやく口を開いたのはフェイさんだった。


「……ならば海水転移の実現を待って考えるのがよさそうだ。いずれにせよ米作と製塩を同時に立ち上げるのは難しい。来年は米作のノウハウを蓄積する年としよう」

「マルーさんの技術を教えてもらう時、アレクを一時輸送隊から外してあたしに貸してよ。あたしじゃ魔道技術のことはちんぷんかんぷんだからさあ」

「もう技術を教えてもらうことが前提なのだな。ハハハ、構わんぞ」


 アレクがぶつくさ言う。


「ボクの意見もなく話が進んでいくんだけど?」

「気にするなよ。おゼゼが関わらない人身売買みたいなもんだ」

「さらにひどくない?」


 まだ呆けてるのかよ。

 どーしたアレク。

 ツッコミが弱いんだけど。


「面白そうなんて思ってないからね」

「このキノコ頭ツンデレ王子め」


 皆で笑う。


          ◇


「たまにはピクニックも楽しいねえ」


 帰りはクララの『フライ』が使えるからということで、その後もう少し地図と見比べながらクー川に近い地域を探索してきた。

 カラーズ緩衝地帯までの高速『フライ』で、またサイナスさんがヒイヒイ言ってたけど気にしない。

 フェイさん達と別れを告げ、今は灰の民の村への帰り道だ。

 飛行魔法が終わったとなったら、サイナスさんが急に元気になった。


「掃討戦跡地を大集落にするなら、沢の水じゃ全く足りない。やはりクー川からの引き込み用水路が必要だ」

「今のままじゃせっかくのクー川の水が何の役にも立ってないもんねえ」

「来年にはムリでも、再来年には手をつけたい」

「水の引き込み口はもっと上流なんでしょ? 少なくとも川に近いところは、より奥地まで確保しとかなきゃだねえ。魔物退治は任された」


 あたし自身が戦後生きていればなんだが。

 アレクが言う。


「戦後は帝国からの移民が増えるのかなあ?」

「わからないけど、おそらくは。大体帝国がこんな無用の戦を仕掛けてくるのは、国民の政府に対する不満を逸らすという意味が、多かれ少なかれあるんだと思う」


 ドーラが反発したわけでもないのに帝国が植民地を武力で抑えようとする、その背景には不明なことが多い。

 サイナスさんの考えでは、不満のある帝国民が移民してくるんじゃないかってことか。

 いかにもありそうなことではあるが……。


「パラキアスさんも最初融和路線で考えてたみたいなんだよ。帝国ですごく人気のある皇女をドーラ総督に据えて、とかさ。事態は急速に悪化してそれどころじゃなくなったって言ってた」

「リリーさんのこと?」

「太眉皇女のこと」

「アレクも知ってるのかい?」


 サイナスさんに説明する。

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