第44話:『雑魚は往ね』
どひー、今日は疲れた。
うちの子達とともに、ひたすら一夜干し作りをしていたのだ。
夕飯は焼き魚と野菜のスープ。
魚おいしかったなあ。
ドーラでは海の一族の怒りを買うとかで、あまり魚を食べる習慣はないんだけど。
就寝前、クララとの会話。
「ユー様、『初心者の館』の皆さんへの差し入れ、今日の魚の一夜干しでよさそうです。明後日の午前中の予定が空きましたけど、どうしましょうか?」
「前倒しでギルドへ行こう。さっきバエちゃんのところで、例の『スキルハッカー』の固有能力持ちの子に会ったんだ。アンとセリカに会えたら教えてあげたい」
うちの子達とソル君はまだ面識ないんだよなあ。
どこかで会えればいいが。
「ユー様はそのスキルハッカーの方に随分肩入れしますね。何故ですか?」
「……カンかな? 初めての後輩ってこともあるけど」
「カン……ですか」
クララが何か、考えるような表情になる。
「ソル君はね、これから先、あたし達にとってかなり便利……関わってくるような気がするんだ。何となくだけど」
「ユー様のカン、当たりますもんねえ」
クララがクスクス笑いながら言う。
「明日は結構、苔洞窟楽しみなんだー」
何故ならギルドから帰った時のレベルアップで、すっごい強力なスキルを覚えたから。
クララやアトムも魔法を習得したみたいだしな。
だから今日は寝るっ!
「おやすみ」
「おやすみなさい」
◇
――――――――――一五日目。
「使えねえ……」
苔洞窟で思わず口に出てしまった言葉がそれ。
何がって、あたしがレベル九で覚えた新スキル『雑魚は往ね』がだ。
クララがビックリしてたくらいのレアスキルではある。
固有能力『発気術』の所持者が稀に覚えることがあるが、明確な習得条件は知られていないらしい。
ザコ魔物に対して特異的な強さを発揮する全体攻撃バトルスキルで、射程も長く、一撃でほぼ全滅させることができる。
溜め技のため攻撃の順番が最後になるが、何とスキルの発動にコストを必要としない。
一見すごそうでしょ?
経験値稼ぎに絶好だと思うでしょ?
そーでもないんだなあ、これが。
出の遅い技ということは、魔物の先制を許すということ。
あたしが状態異常を食らったりすると、途端にパーティー全体の危機を招いてしまうのだ。
頑強なアトムに敵の攻撃を集めるなり、残りのメンバーで危険な敵を先に倒せるなりの条件がないと、非常に危なっかしい。
何より悲しいのが、お肉こと洞窟コウモリが逃げてしまって倒せないこと。
こっちのレベルが上がってるせいか、お肉が問答無用で逃げるのだ。
お肉に行動ターンが回るまでに倒さなきゃいけない。
レベルアップの恩恵で『ハヤブサ斬り』ならば一撃で倒せるようになったが、そもそもやつらが向かってこないと『ハヤブサ斬り』では届かない。
遠距離攻撃用のパワーカードがあれば……。
逃げるお肉相手には非常に分が悪い。
素早いダンテが氷魔法『アイスバレット』で撃ち落とす、これが今のところ最も成功率が高い手段かな。
ちなみにクララがレベル九で覚えたのは『リカバー』。
味方全員のヒットポイントを回復させるという白魔法だ。
ヒーラーの醍醐味みたいな魔法で、これまた有用。
アトムが覚えたのが『アースウォール』。
味方全員の防御力と魔法防御を上げる支援系土魔法だ。
長期戦で出番があるだろう。
ついさっきレベル八になったダンテが、待望の『フレイム』を覚えた。
言わずと知れた全体攻撃火魔法だ。
魔法使いが全体攻撃使えると戦術の幅が広がるな。
消費マジックポイントも多いから対策も必要だが。
結構長いこと粘って何とかお肉の必要数を確保した。
思わぬ手間がかかったが、その分素材やアイテムも回収できたので良しとする。
しかししばらくコウモリ狩りのためにここへ来るのはやめよう。
効率が悪過ぎる。
まだ苔洞窟にいた水鏡の精霊ウツツに挨拶して帰宅する。
◇
「反省会を行いまーす。本日の戦闘について、忌憚のない御意見を聞かせてください」
お肉を捌いてお肉にしたあと(何を言っているのかわからねーと思うが以下略)、苔洞窟での戦いぶりについて意見交換を行う。
ハッキリ言って苔洞窟の魔物は、今のあたし達の敵ではないのだ。
故に様々なことが試せたのだが。
「あたしの『雑魚は往ね』を軸にするのは当分ムリだわ。色々条件が足んない」
残念だが仕方ない。
装備が揃えばイケる気はするが、どういう装備が必要だろ?
「姐御が『サイドワインダー』を装備して、バトルスキル『薙ぎ払い』とダンテの『フレイム』で全体攻撃。弱った敵をあっしとクララで叩くのはどうでやすか?」
「アイシンクソー。バット、ミーのマジックポイントがすぐ切れるね」
経験値稼ぎなら戦えるだけ戦って撤収でいい。
クエストだと厳しいか?
一当てしてみて対策を練り、二回目以降に訪れた時が本番だったらそれでもいいかもしれない。
「『サイドワインダー』を二枚もらって、ユー様とアトムが装備すればどうでしょう? 連続で『薙ぎ払い』が撃てますね。『薙ぎ払い』でどれほどダメージを稼げるかが未知数ですが」
そうなのだ。
『薙ぎ払い』はノーコストで全体攻撃できる有用なスキルだが、通常攻撃より個々のダメージは落ちるという。
どの程度落ちるか知りたいな。
「ボスの『ハヤブサ斬り』を生かすウェイもあるね。そのケースならミーとアトムが全体アタックね。ミーのマジックポイント消費はメニーだけれども、アトムが『マジックボム』を使うよりコスパがいいね」
「そもそも群れ全部を相手にしないで、敵の数が多いときはユー様の『鹿威し』で数減らすのはどうでしょう?」
「姐御はどう思いやす?」
「真面目な議論はつまらん」
「「「!」」」
「という本音はさておき……」
「本音なのかよ」
いいね。
アトムのツッコミ属性が育ってきた。
「『薙ぎ払い』が必要なのは決定みたいだね。まずは一枚だけ『サイドワインダー』もらってこよう。『薙ぎ払い』のダメージいかんで戦術変わっちゃうわ」
全員頷く。
「あたしとアトムでアルアさんとこ行ってくる。その後苔洞窟でダメージテストしてくるよ。クララとダンテは鍋に入れる野草摘んできてくれる?」
「わかりました」「ようがす」「オーケー」
「よし解散。アトム、行くよ」
「へい」
『雑魚は往ね』はユーラシアを象徴するスキルになります。




