第439話:モテる女カテゴリー
「きょおはおっいしいカレーのひっ!」
「おにくゴロゴロかれえだよっ!」
チュートリアルルームでバエちゃんと食事会だ。
いやあ、今日のかれえおいしいわ。
間違えた、かれえはいつもおいしいわ。
「バエの姉貴、おかわりありやすか?」
「ごめーん、炊飯器目一杯でもそれだけしかお米炊けないの。パンにつけて食べる?」
「それでお願えしやす!」
アトムだけじゃなくて、小食なクララやダンテも結構食べてるよ?
かれえは食が進むなあ。
「お肉が多いと食いでがあるわねえ」
「うん、かれえはお肉たっぷりであるべきだな。法律でそう定めなければいけない」
「あはは、何それ?」
かれえとお肉のマッチングは最高とゆーことだよ。
「いや、いつものかれえより今日のやつ、ピリっと感が強いね。アクセントになっててなかなかイケる」
「ショウガを入れてみたのよ」
「ショウガだったかー」
実に合うなあ。
でもドーラの食堂で提供することを考えると、最初は万人向けにスパイシー感抑え目のやつから提供しなくちゃいけないな。
「……ん? これだけ味変わるってことは、ひょっとしてショウガかなり入れてる?」
「うん。最初少しずつ入れてったんだけど、全然味に変化がなくて、最終的にはゴワッと入れちゃった」
「バエちゃん成長したねえ。最初からゴワッと入れたんじゃないところが素晴らしいよ」
「そお? ありがとう」
褒められて嬉しいらしい。
キレのいいクネクネだなあ。
「ドーラは基本的に温暖なんだけどさ。それでも真冬は寒いから、身体の温まる辛い味のものはもっと重視されていいと思うんだよね」
「辛いものがあんまりないの?」
「うーん、カラシとトウガラシはあるけど、どこにでもある調味料ではないな。ショウガもほとんど見ない」
とゆーかドーラじゃ塩以外の調味料なんか、かろうじてコショウと砂糖くらいだったわ。
今は酢と醤油が手に入るけど、どんだけ貧弱な食文化だ。
味に変化をもたらす調味料香辛料ハーブの類は、今後絶対に必要だ。
人間は美味いもん食べてりゃ大体幸せだから。
「かれえはいろんな野菜入れるとおいしいだろうなあ。ショウガ、ニンニク、トウガラシあたりの量で辛さを調節することになるか」
「考えてるのねえ。牛乳を入れるとマイルドになるって話だけど」
「なるほど。牛乳かー」
こっちの世界じゃ牛乳は高級品だから、ちょっと使いづらいな。
コストが上がっちゃう。
「最近、マンティコアっていう魔物のお肉がおいしいって聞いてさ。食べてみたんだよ」
「うん、どうだった?」
ハハッ、肉食女子が興味津々だ。
「サッパリとしてておいしいはおいしい。でも料理人の技量に左右される繊細なお肉だと思ったな。あたし達がいつも持ってくるコブタ肉は、焼こうが煮ようが素人がどうしたって美味いでしょ? マンティコア肉はアバウトさが許されない感じ」
「そういうお肉もあるのねえ」
「お肉の質ってのはかなり違うもんだね。今後の研究次第なんだけど、マンティコアは狩るのが難しいってこともあるからどーかな?」
とゆーか狩る以上に捌いてお肉にするのが難しい。
ドラゴンがゴロゴロいるところで解体なんかなかなかやってられない。
イコール誰も研究しなさそう。
「御主人!」
どうした?
ヴィルが急にすり寄ってきたぞ?
今日は依頼受付所で怖かったのかもしれないな。
「よしよし」
「ヴィルちゃんはいい子ねえ」
バエちゃんが目を細める。
「ギルドの依頼受付所に、あたしが『おっぱいさん』って呼んでる美人のお姉さんがいるんだよ」
「うん、それだけでどういう人だかわかるけど」
アハハと笑い合う。
「けど、今日は怖かったねえ」
「すごく怖かったぬ……」
「えっ? どういうこと?」
まあそれだけじゃわかるまい。
おっぱいの大きいことが恐怖だと誤解されてもよろしくない。
バエちゃんに説明する。
「あたしが請けてた魔宝玉クエストあったじゃん? どーもおっぱいさんとその依頼主の間には何かあるらしいんだよ。で、依頼主を破産させるくらい魔宝玉を納品したから」
「破産って」
バエちゃん笑ってるけど大げさではないんだなー。
一説にドーラを丸ごと買えるくらいらしいぞ?
「おっぱいさんは大喜びしてるんだけど、笑顔が心の闇を増幅させてるみたいで怖い怖い。ヴィルなんか逃げ出そうとしてたもん」
「あれはヤバいぬ!」
「そんなに?」
「ヴィルには耐えられないほどの感情だったってことだよ。でもあれ、悪感情好きの悪魔でも食中毒起こすんじゃないの?」
「きっとそうだぬ!」
散々な言い様だけど、楽しみは楽しみなのだ。
おっぱいさんによると、明日にでもリアクションあるかもってことだったし。
「でもユーちゃん、揉め事好きでしょ?」
「楽しいイベントが好きなんだよ。揉め事好きって言われると語弊があるな。でも暇よりはよっぽどマシだねえ」
揉め事で思い出したか、
バエちゃんの表情がやや固くなる。
「戦争、間近なんだっけ?」
「開戦まであと一〇日くらいじゃないかと思ってる」
「大丈夫なの?」
「負けることはないなー。でも誰かが厄介なところ引き受けなきゃいけないから」
どうやらあたしが厄介なところを担当するんだということは察したらしい。
「ケガしないでね」
「アハハ、まあ適当にやってくるよ。あたしのポリシーだからね」
「ポリシー緩くない?」
「ゆるゆるくらいでよくない?」
やるだけはやるけど、ムリなことはムリだもん。
「ボチボチ帰るよ。ごちそうさま。すごくおいしかったよ」
「いえいえ。カレーはまた研究しとくね」
「バエちゃんは間違いなくモテる女カテゴリーの住人になったねえ。シスター・テレサはあれからどうしてるか、連絡ない?」
ちょっと首を捻るバエちゃん。
「忙しいみたい。『挫折した』って言ってたよ」
「残念、部屋を片付けられなかったか」
「そうなのかな?」
「だと思うよ。部屋が空かなきゃテストモンスターの機械も入らないし、料理だってやる気になんないもん」
もっともあたしが気にする義理はないのだが。
「じゃあね」
「またね」
「バイバイぬ!」
開戦前にチュートリアルルームを訪れるのは、今日が最後になるだろうか?
生き残りさえすれば再びかれえを食べる機会もあるとゆーことだ。
ヴィルを通常任務に戻し、転移の玉を起動し帰宅する。




