第433話:ウィンウィン
フェイさんとイシュトバーンさんが口々に言う。
「……ユーラシアが積極的に動き回るのは、れっきとした理由があるのだな」
「お前ら聞いたか? 情報の収集と事前の準備は大事だそうだぜ」
もー本当にやめようよ。
あたしもたまにはえらそーなことを言ってみたかっただけなんだよ。
イシュトバーンさんが聞いてくる。
「精霊使いよ。最近何か面白いことねえのか?」
「聞き方がアバウトだなー。緑の民の交易関係でなくはないけど、仕掛け時を間違うと拗れるかもしれないから、今凍結中。その内皆に助けてもらうからよろしく」
フェイさんはわかってるだろうけど、輸送隊員達も聞いてるね。
よしよし。
今緑の民は交易に参加してないけど、べつに敵じゃないんだぞ?
理解しておいてね。
「イシュトバーンさんから何か話ないの? とゆーか、皆それを楽しみに集まってるんだと思うけど」
「オレか? 引退して一〇年になるから最近の話は何もねえぞ」
「いや、面白ネタじゃなくてさ。一流の商人らしい、もっともらしく聞こえること」
イシュトバーンさんが首をかしげる。
「商売のことか? 間違いのないものを仕入れて間違いなく運び、間違いなく売れば間違いなく儲けが出る。それ以上でも以下でもないぜ」
おおう、さすがイシュトバーンさんだな。
当たり前のことを言ってるだけなのに、メッチャ深いことみたいに聞こえる。
フェイさんが話しかける。
「ふむ、イシュトバーン殿は『道具屋の目』の固有能力持ちと伺いましたが」
「ああ。『道具屋の目』があったから商人を目指したんだぜ」
「イシュトバーン殿のような能力持ちでないお主らには、間違いのないものを確実に仕入れることはできぬであろうが、間違いなく運ぶこともまた重要な役目と心得よ」
「「「「「「「「はい!」」」」」」」」
イシュトバーンさんが言う。
「得意なやり方でいいんだぜ? 知識があることに注力してもいいし、他人を見抜く力に自信があるならそれを当てにしてもいい。ムリだと思った分野には手を出さず、他人に任せるのもまた良し。でもこの精霊使いのマネはするんじゃねえぞ」
何だよ、悪い例かよもー。
「懐にふっと入ってきたかと思えば貸し押しつけていきやがるし、脅して言うことを聞かせるだけの実力も実績もあるし、煽ってムーブメントを作るのが抜群に上手い。それらがマジで一人でやってるのかっていうデタラメな行動力と、悪魔みてえな洞察力だかカンだかに裏打ちされている。正直こんな愉快なやつは見たことがねえ。唯一見習えることがあるとすれば……」
だからそのえっちな目をこっちに向けんな。
「こいつの好きな『ウィンウィン』って言葉だな。あなたも幸せ私も幸せ。基本的に他人に割を食わせて自分だけ得するって考えがねえから、こいつの話には素直に乗れるんだ。商人には自分だけ儲かればいいってやつが実に多いが、そんなのがいつまでも栄えた例はないんだぜ。覚えておきな」
「「「「「「「「はい!」」」」」」」」
……『ウィンウィン』って言葉、確かにあたしは好きだけど、イシュトバーンさんの前で使ったことあったかしらん?
イシュトバーンさんはあたしのこと調べさせてるのかな?
えっちなやつめ。
◇
「あたしは商人じゃないんだけどなー」
食事会がお開きになり、輸送隊の皆を門まで送る。
「人生訓だぜ人生訓」
「大したもんじゃないよ。あたしはやりたいことやってるだけ」
「ハハッ。いや、あんたは実際大したもんだぜ?」
勘弁してほしいなもー。
フェイさんが話しかけてくる。
「緑の民についてはどうなっている?」
「オイゲン族長はヨハンさんと顔なじみで交易賛成派。だけど緑の民長老連が大反対で、身動き取れないって感じになってるんだ」
「先代の世継ぎ争いに関連した問題か?」
「そうそう」
フェイさんも調べてるっぽいな。
「長老連の反対だけが問題ならどうにでもなるな」
「なるなる。族長なら民の利益考えろってオイゲンさんを煽ったけど、今は動くなって言ってあるんだ。いずれフェイさんとこにコンタクト取りに行くんじゃないかな。その時は歓迎してあげてよ」
「うむ、了解だ」
戦争があるから今はスルーね。
でもオイゲンさん自身が訪れたら相談には乗ってやってね、という意図は伝わったろ。
こっちは安心だな。
「ユー姉」「姐さん」
「あんた達、今日は出番なかったねえ」
アレクとケスだ。
今日は大人しかった。
「子供の出番なんて、これからいくらでもある。帰るまでまだ時間あるんだろ? レイノスを見ていけばいいぜ」
「「はい!」」
イシュトバーンさんは子供をやる気にさせるのが上手だなー。
「今日も自由開拓民集落泊まりなの?」
「うん、ハチヤで」
レイノス東には、レイノスに近い側からグーム、ハチヤ、ツツスクの三つの自由開拓民集落がある。
今後カラーズ~レイノス間の交易が活発化すると、集落の数も増えるかもしれないな。
「自由開拓民集落とも交流を深める方針で、往路にハチヤ、復路にツツスクで宿泊っていうパターンになりそうなんだ。今日はイシュトバーンさんに招待いただいたので、レイノスから近いハチヤ泊まりだけど」
なるほどなー。
ソル君家のあるグームとも、やがて交渉を持つことになるんだろう。
「ではイシュトバーン殿、大層世話になった。感謝する」
フェイさんが深々と頭を下げる。
「おう、楽しかったぜ。また来い」
「は」
輸送隊の面々が手を振りながら散っていく。
「イシュトバーンさん、ありがとう。いい経験になったと思う」
「ワイバーンの卵のまよねえずは抜群だったな」
「また持ってくるよ。とゆーかいらん時に拾っちゃう予感がする」
アハハと笑い合う。
こういう会話好きだな。
「あんたこれからどうすんだ?」
「ここからカラーズへ行く途中に、聖火教のおっきな礼拝堂があるの。そこ行ってこようかと」
「おう、本部礼拝堂だな? ミスティ大祭司に用か?」
暗に戦争関係か? と聞いている。
「まあね。ミスティさんはパラキアスさんと親しいらしいからさ。何か思惑あるかもしれないじゃん? あそこヴィル飛ばすと怒られるんで、直接行かなきゃなんだよね」
「ハハハ、聖火教の悪魔嫌いは有名だからな」
「じゃーねー、さよなら」
「おう、また来い」
転移の玉を起動し帰宅する。




