第432話:大事なこと
イシュトバーンさんが先ほどとは語調を変え、やや優しく眼帯男に話しかける。
「まあ眼帯にも輸送隊の長が務まるだけの貫目は十分ある。せいぜい励みな」
「へェい」
イシュトバーンさんにかかると眼帯男も玩具だなあ。
次々と料理が運ばれてきた。
揚げたてのいい匂いが鼻をくすぐる。
「精霊使いの大仕掛けですっかりレイノスの名物料理になった、魚フライのまよねえず掛けだ。たんと食ってくれ」
お魚食べたことある隊員は少ないだろうな。
あ、アレクは塔の村で食べてるか。
「ほう、これは美味い!」
フェイさんが食べ始めると、他の面々も徐々に手をつけ始める。
「あっ、おいしい!」
「ほんとだ!」
おーおー、ケスなんかガツガツ食べてるじゃん。
気に入ってくれてよかったよ。
「あの、これをユーラシアさんが仕掛けたというのは?」
インウェンの質問だ。
「このまよねえずっていうタレ、黒の民の村の酢を使ってるんだよ。で、レイノスの料理人にレシピを教えて魚フライにつけて食べるとおいしいよって教えたら、何とかして魚仕入れろってことになってさ。でも食べつけない食べ物って、なかなか食べてもらえないでしょ? だからフェスやって、いっぺんに広めることにしたの」
「酢の販促のためですか?」
「まあそんなとこ」
「レイノスでは大変な盛り上がりだったんだぜ?」
フェイさんが聞いてくる。
「魚はどこから持ってきたのだ?」
「海の王国からだよ。今はもう、海の王国とレイノスとの魚取り引きは確立してるんだ」
イシュトバーンさんとフェイさんが何か言いたそうな顔してるけど、そうだよ。
魚は戦争の時の食料として考えてるよ。
戦争の勝敗なんてものは、事前の準備で九割決まっちゃうとあたしは思ってるのだ。
特にお腹が減ると市民の不満が高まってしまう。
内部分裂の危機だからな。
「で、髪型お団子の姉ちゃんが副隊長だな」
「は、はい」
「インウェン気をつけて。完全にスケベジジイモード入ってる」
ニヤニヤしながらイシュトバーンさんが言う。
だからその目で見るなとゆーのに。
セクハラだぞ。
「触り甲斐があるって教えてくれたのは精霊使いだぜ?」
「弄り甲斐があるって言ったんだよ。物理で触ろうとすんな!」
可哀そうに、インウェンが脅えてるだろうが。
「ハハハ。女性隊員に対するお戯れは程々にしていただきましょうか」
「お? おう」
やるねフェイさん。
インウェンの目が完全にハートだぞ?
「イシュトバーン殿、アルハーン平原掃討戦の時の精霊使いユーラシアの活躍ぶりを聞きたくありませんかな?」
「えっ?」
何を言いだすのだ。
インウェンのバーターであたしが生け贄かよ?
フェイさんったら、イシュトバーンさんのエンターテインメントちょうだい病を完全に見抜いてるみたいだな。
「ぜひ、聞きてえな!」
「そお? じゃああたしが掃討戦前の情報をいかに得たかについて」
「……話の内容としては地味じゃねえか?」
「まあ地味かもしれないね。でも大事なことだから」
奇しくもついさっき、戦いには事前の準備が大切だって思ったところだったから。
一同皆微妙な顔してるけど、フェイさんやアレクは興味ありそう。
「あの掃討戦は、参加者に前もって知らされる情報がほとんどないっていう特徴があったんだ。フェイさんもいきなり参加してくれって話だったと思うけど」
「うむ、確かに」
「人間勢力の伸長を喜ばない、知性ある魔物なんかに計画を知られるとヤバいから、っていう理由だったんだそーな。でも逆に侵攻サイドも、ほとんどの人員が何も知らずに投入された。今、酢醸造の総責任者である黒の民サフランなんて、ドレス姿で来てたからね」
何人かが頷く。
あれ? イシュトバーンさんが意味ありげな顔をしてるね?
イシュトバーンさんはパラキアスさんとも繋がりあるしな。
あの掃討戦の裏事情もかなり知ってるっぽい。
「あたしも掃討戦があることを知ったのは偶然だったんだよ。あたし達が使ってる装備品パワーカードの工房で、冒険者ギルドの職員が話してたという『大掃除』なる秘密計画があるってことを聞いたのが最初」
いつの間にか皆が真剣に聞いてるね?
話しやすいので大変結構。
「レイノス西口の警備兵隊長さんに『大掃除』について知ってるかって聞いたら、この件については情報共有が禁止されている。七日間口外するなって言われたんだ。さっき言った、知性ある魔物の介入を防ぐためだと思う。その時『精霊様騒動』っていう、ちょっとした事件おこしちゃったのは内緒」
イシュトバーンさんが補足してくれる。
「精霊様とその巫女という謎の存在が上級市民を凹ませたってな。一時期レイノスではすげえ話題になってたんだぜ」
「クエストで行った『本の世界』ってところに、この世のいろんな秘密を知ってる人形がいるんだ。その子にクー川西のアルハーン平原から魔物を駆除する計画があるっていう、決定的なことを教えてもらった」
ほう、という声が聞こえる。
本の世界のマスターであるアリスのことを知られるのは、あまりよくないのかもしれない。
ここは軽く流しておこう。
「あとほこら守りの村ってとこがあってね。うちの精霊ダンテが『肥溜めガール』って呼んでる不思議な子がいるんだ。『肥溜めガール』の理由は察して。その子の百発百中の占いで、ラッキーアイテムはスキルスクロールと出た」
肥溜めでビクッとした一三歳の子がいるよ。
隣の一三歳の子は笑い堪えてるけど。
「戦場の隣になる灰の民の村には何かヒントあるかなーと思って行ったら、たまたま『黒き先導者』パラキアスさんがいたんだよ。掃討戦の打ち合わせに来たのかって聞いたら、『経穴砕き』のスクロールをくれたの。ラッキーアイテムが『経穴砕き』のスクロールと判明し、掃討戦のボスが『経穴砕き』に弱いって知ったのはその時」
シーンとなっちゃったね。
面白い話じゃなかったか?
「直前はちょっとでも勝率を上げようと思って、ボス戦用のパワーカード手に入れたり『経穴砕き』のスクロール買い足したり。支援もらうのに必要な消耗品をやたらと買ったりしてたよ。何事も同じだと思うんだけどさ。情報の収集と事前の準備はすげえ大事だよ。でもこういう話、背中が痒くなるから嫌なんだけど」




