第425話:ハヤテの故郷は
「さて、精霊諸君に聞こうじゃないか。緑の民の村の森はどうだった?」
話題を変える。
今日は魔物退治にかこつけて、緑の民について色々な事情を知ることができた。
かなりの収穫だと思うが。
族長のオイゲンさんも交易に参加してくれる気なのは、素直に嬉しい。
「心地良い森ではありました」
アトムとダンテが言う。
「ハヤテはひょっとして、あの森から逃げ出したんじゃねえですかい?」
「アイシンクソー、トゥー」
当たってるかも。
あそこ『精霊の森』って呼ばれてるらしいしな。
食獣植物の出現に驚いてランダムテレポートしたというなら話は通じる。
確認したいが、あたしが動くと何事かと思われちゃいそう。
超絶美少女であることの弊害だ。
「ハヤテが食獣植物から逃げたのがハッキリしたなら、サイナスさんに連れていってもらおう。ハヤテ自身に確認させるのが一番いい」
うちの子達が頷く。
急ぎの案件じゃないからいつでもいいか。
「そろそろまた未納品の高級魔宝玉が多くなってきましたけど、どうします?」
今日も午後から魔境に行って、手持ちが一〇〇個近くになっている。
うちのパーティーは実に勤勉で働き者だと自画自賛しておく。
「うーん、明後日締め切りだし、最後にどーんと持ってくとおっぱいさん喜びそうだから、まとめて持っていこう」
「「「了解!」」」
ちなみにワイバーンの卵を拾ったので、一個キープしてある。
明後日イシュトバーンさん家に、フェイさんと輸送隊員が招待されている。
ワイバーンの卵を持っていって、輸送隊の皆に食べさせてやろうと思うのだ。
美味さに驚け。
「今日はこれまで。ごちそうさまっ!」
◇
「サイナスさん、こんばんはー」
寝る前恒例のヴィル通信だ。
『こんばんは』
「今日、緑の民のオイゲン族長と話す機会があったんだ。とゆーか向こうが一度あたしと会ってみたいってことで、魔物退治って理由で呼ばれた」
『ん? 魔物退治が何だって? ちょっと因果関係がわからない』
緑の民の村に食獣植物が現れて、エルマがギルドで何のその。
『ほう。オイゲン族長も我慢しきれなくなったかな?』
「うん、チャンスだと思ったかもね」
緑の民も交易をしたいはずだから、放っとけば向こうから仲間に入れて欲しくてすり寄ってくる、というのがサイナスさんの読みだった。
少なくともオイゲンさんは交易に参加したい意思を持っている。
「ちょっとややこしいんだ。ヨハンさんの御両親が従兄妹同士で、ともに緑の民の族長候補だったんだけど、駆け落ちして逃げてきちゃったんだって」
『……ということは、オイゲン族長とヨハン氏の関係は?』
「えーと、はとこ?」
そーゆー関係を何て言うのかよくわからんけれども。
家計図書いても眠くなっちゃいそう。
「で、有力な族長候補だったヨハンさんの御両親がいなくなったから、オイゲンさんのお父さんが棚ぼたで族長になったんだそーな。けど実力で勝ち取った族長じゃないから権威がなくて、ヨハンさんの御両親を悪者に仕立てたってことみたい」
『ありそうな話だな。客観的な意見っぽく聞こえる。ということは、オイゲン族長自身はヨハンさんや交易に対して反対ではない?』
「うん。オイゲンさんは若い頃村から出て、『アトラスの冒険者』やってたんだって。ヨハンさんとも会ってたみたい。だから交易賛成派。でもオイゲンさんの頭が上がらない叔父叔母が三人いて、そっちが血筋的に優れてるヨハンさんを警戒してて大の反対派」
『ははあ、構図はわかった』
「すこーし焚きつけてきたから、しばらくすると何らかのリアクションがあると思う。戦争前に揉めるのはなしねって言っといたから、戦後だね」
『君の『すこーし』は当てにならないんだよなあ』
「あ、よくわかってるね。さすがサイナスさん」
『ちょっと待て。何言ってきた?』
華麗にスルー。
なーに、大したことじゃない。
「サイナスさんにミッションがありまーす」
『何だ?』
「さっき魔物退治の理由で呼ばれたって言ったでしょ? 緑の民の村に食獣植物が出て住民が襲われたんだけど、現地が『精霊の森』ってとこなんだ」
『『精霊の森』?』
「ひょっとして、ハヤテの元の居場所かもしれないと思って」
『ああ、アレクが『ハヤテは食獣植物に襲われたらしい』って言ってたな』
ビンゴだな。
食獣植物なんかどこにでもいるけど、時系列と『精霊の森』という名前から蓋然性が高い。
「サイナスさんはハヤテ連れて緑の民の村に行ってよ。多分そこにハヤテの家があるんだと思う。灰の村に遊びに来たければそうすればいいし。で、緑の民の村に行くと自然にオイゲンさんと会うことになるだろうから、ユーラシアに聞いた、力になれることがあったら協力するって言っといてよ」
『ふむ、必要か?』
「そりゃ必要だよ。交易に舵を切ったはいいが、他の族長連が冷たいんじゃ困っちゃうでしょ? サイナス族長の存在感の見せどころだよ」
『オレの存在感なんか、君の数分の一しかないんだが』
「数分の一あれば上等だわ」
変な笑い。
冗談だとゆーのに。
「オイゲンさんが結構戦える人だってわかったからさ、戦時にはフェイさんの指揮下に入ってって伝えといた」
『元『アトラスの冒険者』か』
「パッと見上級冒険者レベルだったね。なかなかのもん」
『フェイ族長代理の指揮下に入るということで納得してたか?』
「うん。フェイさんのことを認めてたし、命令系統の不統一が何の利益にならないことも理解してたよ」
『じゃあ緑の民がいずれ交易に参加したいということも含めて、フェイ族長代理に伝えておけばいいな?』
「そーだね。お願いしまーす」
今日の報告は終わりだなー。
『明日は初めてカラーズ輸送隊のみの出発だ。隊員全員で行くんだな?』
「フェイさんも込みでね。明後日イシュトバーンさんに招待されてる」
『氏に粗相があると困るな』
「大丈夫だってば。イシュトバーンさんはつまんないことに全然頓着しないから。あたしともタメ口だよ?」
『本来は君が頓着しなきゃいけないんだぞ?』
あたしはあたしらしくないことをしないのだ。
「眠くなってきたよ。サイナスさん、おやすみなさい」
『ハハハ、おやすみ』
「ヴィル、ありがとう。通常任務に戻ってね」
『了解だぬ!』
明日はまずアルアさんとこだな。




