第422話:緑の民オイゲン族長
「おお、精霊使いだ! 本物だ!」
「エルマのクセにやるな! マジで大物連れてきたじゃないか!」
フレンドでエルマのホームに飛ぶと、結構な数の人が集まっていた。
ハッハッハッ、歓迎されるのは気分がいいなあ。
現れた魔物は食獣植物一体だという話だ。
魔物のいる場所さえわかれば、もちろんあたし一人いれば十分というか十二分というか。
いや健康のために腹八分にしとくのがいいとはわかっているのだけれども。
何の話だったかな?
要するに戦力的にはうちの子達を連れてくる必要はなかったけど、精霊使いの貫録を醸し出して緑の民のテンションを上げる役には立つとゆーことだ。
同時にあたしとゆースーパー美少女と伝手がある、エルマの地位とか存在感も上がるだろ。
「精霊使いのユーラシア殿で間違いございませんな?」
「うん、そーだよ」
鮮やかな緑の蓬髪と口ヒゲが特徴的な、細身長身の壮年男性だ。
「緑の民族長のオイゲン・フィルフョーと申します」
「ユーラシア・ライムです。よろしく」
握手を交わすが?
ふむ?
「村の西に凶暴な魔物が現れましてな、村の者が襲われてケガをしました。被害を大きくする前に、高名な冒険者であるユーラシア殿に依頼するのが間違いなかろうと、相成ったのでございます」
「りょーかいでーす。早速退治に行ってくるね。ケガしたのはエルマの父ちゃんと聞いたけど、容態はどうかな?」
「パウルはポーションと『ヒール』でピンピンしておりますぞ」
「『ヒール』はオイゲン族長が?」
「さようです」
やはり。
回復魔法を使える。
レベルも高く身のこなしに隙がない。
オイゲンさんは明らかに冒険者の経験がある。
「早速行こうか。うちのパーティーとエルマ、道案内にエルマの父ちゃん、検分をオイゲン族長、その七名でいいかな?」
オイゲンさんの目が光る。
「結構ですな」
七名で森へゴーだ。
◇
「この森には精霊が住むという言い伝えがありましてな。『精霊の森』と呼ばれておるのです」
「ふーん、いかにも精霊の好みそうな森だねえ」
灰の民にとって精霊は珍しくないが、他の人達にとっては違う。
もっともエルフは精霊と親しいと言われている。
エルフの血を引くとされる緑の民にとっても、精霊は一種独特の感傷を呼び起こさせるものらしい。
てことは精霊使いのあたしは超尊敬されちゃうか?
少し森に分け入った道中、不意にオイゲンさんと目が合う。
「「あはははははっ!」」
突然笑い出したあたしとオイゲンさんに驚く、エルマとエルマパパ。
「ど、どうしたのです?」
「いや、オイゲンさんはあたしに何の用なのかなーと思って」
「さすがですな、精霊使い殿は!」
再び笑い合う。
「オイゲンさんなら、その辺の魔物くらいどうってことないんだよ。エルマの実力を見抜けないはずもないし」
「わしも若い頃『アトラスの冒険者』をやっていた時期がありましてな。ほんの手慰みですが」
「『アトラスの冒険者』だったんだ? 手慰みって、オイゲンさん上級冒険者相当じゃん。大先輩だなー」
自力で魔物を倒せるのにあたしを呼んでこいという話になったのなら、あたしに用があるに決まってる。
オイゲンさんは若い頃に村を飛び出したことがあり、自由開拓民集落に身を寄せながら『アトラスの冒険者』をしていたのだという。
「であるから、村にはわしが冒険者をしていたことを知る者はほぼおらん。外の世界を知ると、カラーズの閉鎖性が歯痒うての」
「よーくわかるわ」
「で、カラーズ改革の旗手である精霊使い殿と、誼みを結びたいというわけです」
で、魔物にかこつけてあたしを呼びだしたか。
随分面倒なことを考えたもんだが……。
「ははあ、こんな搦め手に頼らざるを得ないということは、反対派も強いってことなの?」
「さようです。検分役をわしに振ってここへ同行させてもらえるとは、精霊使い殿の洞察力は素晴らしいですな!」
「お姉さま、すごーい!」
和やかな雰囲気になったところで、赤プレートに呼びかける。
「ヴィルカモン!」
「今のは?」
「悪魔召喚の呪文だよ」
オイゲンさんとエルマパパが首をかしげる内に現れる幼女悪魔。
「ヴィル参上ぬ!」
「ヴィルちゃんいらっしゃい!」
「よーし、ヴィルよく来た!」
ヴィルとエルマをぎゅー。
可愛いやつらめ。
「そちらは誰かぬ?」
「緑の民の族長オイゲンさんとエルマのお父さんだよ」
「初めましてぬ!」
「ああ、こちらこそ」「こんにちは」
ぎこちなく挨拶をするオイゲンさんとエルマパパ。
悪魔だからといって緊張しなくてもいいとゆーのに。
「ヴィルは好感情を好む悪魔なんだ」
「ほう、普通高位魔族は悪感情を好んで摂取すると聞きますが」
「みたいだね。ヴィルは他人の嫌がることをやろうとしないから、共存できるの。とてもいい子だから心配いらないよ」
「とてもいい子ぬよ?」
「うちの連絡係を務めてくれてるんだ」
「つまり精霊使い殿は高位魔族を仲間にしておいでですか。これは驚いた……」
ヴィルの頭を撫でるオイゲンさん。
ヴィルも気持ち良さそう。
「緊急に知らせたいことがある時、ヴィルを飛ばすから覚えておいてね」
頷くオイゲンさんとエルマパパ。
さて、ヴィルのことはともかく、食獣植物は倒しとかないとな。
「ヴィル、この森に魔物が一体いるらしいんだ。探せる?」
「見つけてくるぬ!」
「うん、じゃああたし達は動かずここで待ってるね」
ヴィルが飛んでいく。
ヴィルはパワーを判別して対象を見つけるらしい。
食獣植物のパワーなんて知れてると思うんだが、自信ありげだったな。
他にパワーを持ってる存在がいないからか?
「エルマが急激に強くなっているのはいかなる理由ですかな? 冒険者になるのならないのと騒ぎ出した一〇日前には考えられぬことなのですが?」
「エルマも『アトラスの冒険者』なのは気付いてると思うけど?」
「うむ、しかし到底務まらぬだろうと見ておりました」
残念ながら当然の判断だわ。
「あたしもそう思った。このままじゃどーにもならんから、エルマのレベル上げを手伝ったんだ。エルマは『大器晩成』という、やたらとスキルを覚える代わりに、レベルアップが遅いという固有能力者なんだよ」
「ほう『大器晩成』。かなりのレア能力ですな?」
オイゲンさんは『大器晩成』を知っていたか。
オイゲンさんという戦える人と戦争前に知り合えてよかった。




