第410話:あの時あたしは若かった
「ただいまー」
「お帰りなさいませ。……お疲れですね?」
お昼も近いのでベースキャンプに帰ってきた。
が、ラルフ君パーティーの表情にやや疲労感が見られる。
体力的に大して疲れてるってことはないんだろうけど。
「やっぱ緊張するのかなー」
「大変緊張しました」
「わくわく魔境ツアーは、楽しめる人と楽しめない人がいるみたいなんだよね」
あたしも気疲れするわ。
でもラルフ君に比べれば他の三人は症状が軽そう。
魔法剣士ムオリス君が言う。
「ガードに力が入り過ぎちゃってるんですかね? 肩が凝っちゃいましたよ」
「肩くらいならいいでしょ。ラルフ君なんか顔が凝っちゃってるわ」
アハハ。
ラルフ君が呟く。
「自分のレベルがわからない……」
「あるある、よくある。全然心配ない。魔境に来る冒険者誰もが経験する通過儀礼だぞ?」
「普通はレベルがわからなくなるなんてことないですけどね」
オニオンさんが笑う。
「お腹減っちゃった。ギルド行ってくるね」
転送魔法陣からギルドへ。
◇
「いえ、全然問題ないです」
「そお? 何か皆疲れてるみたいだけど」
「おい、今日はヴィルいねえのか?」
ギルドの食堂でうちの子達及びラルフ君パーティーと食事を取りつつの話だ。
何故か現れる情報屋ダン。
「ダンはよくヴィルを可愛がってくれるよね」
「構ってオーラが出てるじゃねえか」
「わかる」
ヴィルがいるとぎゅーしたくなるのだ。
構ってオーラとは言い得て妙だな。
ヴィルはいい子。
「いつも遊んでくれてありがとうね。でもくたびれたーみたいな感情が充満してるところだと、ヴィルの調子が悪くなっちゃうんだよ」
「ヴィルは感情の動物だな」
あれっ? どーしたダン。
今日は言い回しが冴えてるじゃん。
癪なのであえて『ヴィルは動物違うわ』とツッコまない。
「ユーラシア式魔境ツアーは過酷か?」
剣士ゴール君とアーチャーのウスマン君が答える。
「いえいえ、事前に聞いていたよりは、全く厳しいなんてことはなくて」
「でも昨日は気が高ぶって寝られなかったんですよ」
「寝られないほど楽しみにしててくれたのか」
「「「「いやいやいやいや!」」」」
違うの?
全力否定じゃないか。
「あんたら師弟の決定的な断絶を見たぜ」
「えーひどいなー」
どーしてダンは嬉しそうなんだ。
「えーと、後学までに聞いときたいんだけど。どの辺が楽しくなかったのかな? 改善できるところがあったら午後気をつけまーす」
「気をつけるだけで何も変えやしねえんだろ?」
「今日のダンはキレがあるね。その通りだけれども」
アハハと笑い合う。
魔法剣士ムオリス君が言う。
「リーダーから聞いてた限りでは生きるか死ぬか魔境か、くらいの勢いだったんです」
「本当に生きるか死ぬか魔境かくらいの勢いだったんだよ!」
ラルフ君の魂の叫びに、疑いの目を向けるメンバー達。
いかん、このままではラルフ君がオチ担当にされてしまう。
ダンが助け舟を出す。
「そうは言うが、ラルフが初めてユーラシアの魔境レベリング食らった時、黒コゲになってたのは本当だぜ?」
「「「えっ?」」」
「ごめんよ。あの時あたしは若かった」
「若かったって……」
唖然とするラルフ君パーティー。
「クレイジーパペットのフレイム食らった時、ラルフのレベル一〇くらいだったろ?」
「ギリッギリ耐えられるなーと思って、つい経験値を優先してしまったんだよ」
「こいつも大して悪気はなかったはずだぜ?」
「若さゆえの過ちだった。あたしの成長の糧になったと思って許しておくれ」
ラルフ君パーティーの面々も段々ヤバさに気付いたようだ。
いや、警戒するほどヤバくはなかったと思うけど?
蘇生魔法使えるクララがいたからね?
「あの時のラルフの犠牲があって、今のユーラシアのパワーレベリングが完成したんだぜ。感謝しろよ」
「魔境に散ったラルフ君の魂に乾杯!」
「自分やられてないですから!」
ダンがニヤニヤしてる。
「魂の抜け殻になってたぜ?」
「現世に戻って来られてよかったねえ」
「黄泉の国覗いてないですから!」
……案外ラルフ君のツッコミは好きだなあ。
もう少しエンターテインメントを。
「ちょうどあの後すぐにユーラシアがドラゴンスレイヤーになったろ?」
「うん。遠い昔のことのようだなあ」
「『ドラゴンスレイヤーの弟子』の二つ名で、ラルフを蘇生できたようなもんだぜ」
「ラルフ君が冒険者辞めなくてよかったよ。心配だったんだぞ? バエちゃんの給料下げられちゃうところだった」
「一欠片でも弟子の心配をしてくださいよ!」
皆で笑い合う。
「さて、気分転換できたかな? もう少しレベル上げてこようか」
「「「「はい!」」」」
「ダン、ごちそーさま!」
「「「「ごちそうさまです!」」」」
「あっ、こら! 奢りじゃねえぞ!」
伝票を親友にプレゼントし、フレンドで転移の玉を使用、ラルフ君パーティーを伴って一旦ホームへ。
◇
フイィィーンシュパパパッ。
再び魔境へ来た。
「オニオンさん、こんにちはー」
「いらっしゃいませ、ユーラシアさん。午後も魔境ツアーですか?」
「うん。もうちょっとレベルが欲しいんだ。ムオリス君が風魔法使いで、飛行魔法を安定して使えるようになって欲しいんだよね」
「ああ、飛行魔法はレベル依存ですからね」
今、ラルフ君のレベルが四五。
ラルフ君パーティーの気持ちも解れてきたようだ。飛行魔法の安定運用を考えると、五〇オーバーくらいまでレベルを稼いでおきたい。
「アーチャーのウスマン君が魔物のドロップ確率が上がる固有能力持ちでさ。結構バカになんないの。あたしの魔宝玉クエストの助けになるなる」
「おそらく『長者』の固有能力でしょう」
ウスマン君が頷く。
『長者』っていうのか。
ドロップ確率が上がるって聞いてたけど、明らかにレアドロップ率も上がってるんだよな。
今日はラルフ君パーティーのレベル上げが目的なので、ダンテは『豊穣祈念』ではなく、『実りある経験』を用いている。
しかしウスマン君の『長者』の能力と、うちのパーティーが装備してるパワーカード『るんるん』の効果で、かなり高級魔宝玉も落としていく。
魔宝玉クエストを抱えてる身としてはとてもありがたいなあ。
「行ってくる!」
「行ってらっしゃいませ!」
ユーラシア隊とちょっとスリルを楽しめるようになった者ども出撃。




