第408話:風雲急を告げる
――――――――――八四日目。
フイィィーンシュパパパッ。
ギルドにやって来た。
「おはよう、ユーラシアさん。今日もチャーミングだね」
「おっはよー、ポロックさん」
総合受付、角帽のポロックさんだ。
少々厳しい顔付きだな。
「ちょっといいかい?」
え? 何だろ?
ポロックさんが声を潜める。
「……帝国と戦争について、詳しいことはユーラシアさんに聞けとのことなんだけど」
帝国戦のことか。
もちろん戦争のことは頭から抜けてないけど、ラルフ君を鍛えることに意識が行ってたわ。
ははあ、今日は朝早くて冒険者がまだあまり来てないから、あたしに聞いてきたんだな?
「多分半月後くらいに開戦だと思う」
「は、半月後? かなり早い……」
驚くポロックさん。
ドーラにいると切羽詰まった気配はほとんどしないもんな。
しかしおそらく秘密兵器の試作機が完成すれば攻めてくるのだ。
ドーラじゃなくて帝国の都合だから。
「あたしとソル君パーティー、ラルフ君パーティー、エルマ以外の冒険者は全員西域に投入するつもりで。あっちの物流が生命線だから。レイノス東とカラーズはラルフ君パーティー、エルマだけでいいよ。東は襲われる危険が小さいし、一応手も打ってあるからね」
「わかりました。ユーラシアさん自身とソールさんは?」
「カンだけど、ドーラの事情には関われない。別の戦場がある」
緊張するポロックさん。
「いや、勝てるんで心配しなくていいよ。楽に勝てるといいなー、とっとと終わらせると人死にが少なくすんでいいなーってだけの話だから」
「そ、そうですか」
ちょっと落ち着いたか?
しかしあたし自身の生死が不明なのだ。
今になって『アトラスの冒険者』になる前夜、あの薄着のおっぱい女神の言ったことが重く心にのしかかる。
『あなたはカル帝国との戦争で、勇敢に戦いました。しかし残念ながら、命を落としてしまったのです』
よく考えたら重く心にのしかかるどころじゃないわ。
あろうことか、あたしのか弱い精神に莫大な負担をかけとるわ。
絶対に生き残って慰謝料請求したる。
「戦争の件、知ってる冒険者もいるけど、外に情報漏れると混乱して被害が大きくなりそうだから、基本内密で」
「わかりました」
「ここで話するのは何だから、あたしからギルドに伝えるべきことがあったら、魔境ガイドのオニオンさんに言っとくね」
「オニ……ああ、ペコロス君だね。お願いします」
ギルド内部へ。
「師匠!」
ラルフ君パーティーだ。
どうやら背中がかゆくなる話ばかりになりそうなので、今日はヴィルを呼んでいない。
「おはよう。皆、冒険者らしい面構えになったねえ」
「はい、自分覚悟を決めまして、師匠に魔境で鍛えていただきたく……」
「うん。魔境行く前にちょっと食堂で話そうか」
皆で食堂へ。
あ、ラッキー、ピンクマンがいる。
「ああ、ユーラシアとラルフか」
「いよいよラルフ君が覚悟を決めたようなんだ。楽しい魔境ツアーだよ」
「ハハッ、楽しみ過ぎないようにな」
まず昨日の件、あれからどうなったかの確認からだな。
「昨日、レイノスで青の民の服屋がオープンしたんだよ。ラルフ君、あたし帰ってから、何か変わったことあった?」
「いえ、特には。これ今日の『ドーラ日報』です」
ピンクマンが何げなさそうに言う。
「ちょうどいい。何故か今日、『ドーラ日報』が売り切れでな。読めなかったのだ。小生にも見せてくれ」
「『レイノスタイムズ』は売り切れじゃなかったの?」
「ああ、残り部数は少なかったがな」
で、『ドーラ日報』の一面が……。
「おお、よく描けてるねえ」
女性特有の曲線のえっちさが余すところなく表現された絵。
思わず見入ってしまうわ。
なるほど、売れるはずだ。
「これ、イシュトバーンさんの絵なんです」
「「えっ!」」
へー、大したもんだな。
こんな特技があったのか。
「どういうことだ?」
あ、ピンクマン事情知らないもんな。
「店長であるセレシアさんの才能が一目でわかる服、ってことでこのファッションを披露してさ。そしたら新聞記者ズが、記事にしたいけど絵師がいないって言ってたから、スケッチ大会やったんだよ」
「上手に描けたものは新聞社が買い取って新聞に載せる、という条件だったんです。で、『ドーラ日報』と『レイノスタイムズ』双方がイシュトバーンさんの絵を欲しがったんですけど、結局『ドーラ日報』が権利を得まして」
「ただのスケベジジイじゃなかったなー」
話題性としては充分だ。
でもスケッチ大会が終わるまで現場にいたってことは……。
「ラルフ君達は思ったより遅い時間まで店にいたんだね?」
「売れ行きが予想以上とのことで、材料の仕入れをどうするかの話が長引きまして」
なるほどな。
ピンクマンに聞く。
「ところで黒の民の酢が調子いいのはわかるけど、醤油どうなってるかな?」
「正直手が回っていないな。酢だけでてんてこ舞いだ」
「そっか。まー仕方ないな」
「徐々にラボで働く人を増やそうとはしているが……」
「うん、ゆっくりでいいから」
ピンクマンが意外そうな表情を浮かべる。
「ユーラシアはてっきり生産を急がせるものと思っていたが……」
「ムリなもんはムリだよ。急げるところは急がなきゃいけないけど」
品質の維持、人材の育成、これを生産性を向上させながら行っているのだ。
十分期待以上だってばよ。
戦況によっては需要が減るかもしれないんだし。
ムリして品質が下がって評判落とすのが一番怖い。
「師匠、そろそろ……」
「うん、ちょっと頭寄せて」
内緒話モード発動。
「黒の民の酢と青の民の服屋が成功することで状況が変わってきた」
「うむ、その心は?」
「カラーズ~レイノス間の交易を帝国に感付かれて、警戒されてしまう可能性が増えるってことだよ」
ピンクマンはある程度予想がついていたようだが、ラルフ君パーティーは驚きを隠せていない。
「カラーズブランドの価値が上がってくると、販売戦略上ヨハンさんはカラーズを強調してくるだろうね。商人としては当然だけれども」
「ち、父はまさにそのようなことを昨日……」
「カラーズにとってはありがたいことだよ。ただし来たるべき戦争を考えると、レイノス東やカラーズが襲撃される危険性は増すんだ。わかるね?」
コクコク頷くラルフ君パーティー。




