第406話:疾風の精霊ハヤテ
ちょっと離れたところに知らない精霊がいるのだ。
遠目だが砂色で羽を持つことはわかる。
向こうもこっちを気にしているようで、隠れながら見てくるんだよな。
いや、魔境はほとんど人間が来ないから、そーゆー意味では精霊がいたっておかしくはない。
安全が確保できるなら。
でも一体どこから来たんだよ?
強力な魔物がたくさんいるから危ないぞ?
「あんた達も知らない子なんでしょ?」
「知らないです」
「知らねえでやす」
「アイドントノーね」
「むーん?」
灰の民の村で見たことのある子ではないしな。
気にはなるが……。
「あの子低レベルだから、刺激して慌てさせると危険が危ない。魔物にやられちゃう恐れがあるよ。向こうからコンタクト取ろうとするまで放っとこう」
「「「了解!」」」
クレイジーパペット二体を倒して人形系レア魔物エリアのさらに中へ。
稼いでいきまっしょい。
「いつもの通り、ウィッカーマンとデカダンスを交互に倒す感じで高級魔宝玉を狙っていこう」
「ユー様、さっきのあの子ついて来てるみたいですが」
「気にしない」
デカダンスを瞬殺、さらにウィッカーマンを倒してデカダンス三体を倒してデカダンス二体を倒してウィッカーマンを倒してデカダンス一体を倒してデカダンス二体を倒してデカダンス二体を倒して……。
「ボス、ベリー気になるね」
「あたしだって気になるわ!」
砂色の精霊がふよふよ飛びながらついて来るのだ。
かといって一定距離以内には決して近付かない。
まったくどーなってんだ?
「ここ人形系の魔物しか出現しないからいいですけれど、飛ぶ魔物の出るところへ行ったらパクっと食べられちゃいます」
「でも追いかけて逃げられるとヤベーですぜ?」
「デンジャラスね」
危ないんだよなー。
どーすべ?
「うーん、でもあの子、明らかに魔境知らないよね?」
知ってたら飛ぶ魔物に食べてくださいと言わんばかりの挙動を取るはずがない。
あまりにも無警戒だから、見てて不安になるんだよな。
「転移に自信があるのかもしれませんが……」
あ、羽のある精霊は転移できる子が多いんだっけか。
「じゃ、油断しなきゃ危険はないかもなんだ?」
クララが頷く。
「ちょっと心配は減ったな。ならこっちを観察してるのは何でだと思う?」
「アローンな精霊はあまり他人とミートしないものね」
「単純に見慣れないあたし達に興味があるんじゃないかってこと?」
「あっしもそんな気がしやすぜ」
ただの好奇心なのか?
あたしの見るところ、あの精霊は不安なんじゃないかって気がするんだが。
いや、不安があるなら追い詰めちゃダメか。
まあ危険が小さいなら……。
「よし、やっぱり放置。こっちはこっちで集中ね」
「「「了解!」」」
で、心ゆくまで各種経験値君を狩り、おっぱいさんが喜ぶくらいの高級魔宝玉を得た。
お仕事的とゆーかクエスト的には大満足の結果。
……なのだが、一体何なんあの子は?
接触してくるわけでもなし、かといってどこかへ飛び去るわけでもなし。
気になって気になって仕方がないのだが。
「だーっ! 辛抱たまらん! クララ、『フライ』であの子のとこまで行って、話してきてくれる?」
「はい、行ってきます」
「エスケープするかもね?」
「逃げちゃうなら諦める」
クララ一人なら圧迫感もないだろ。
クララから逃げられるようなら危険もないだろうし。
あれ? 連れて戻ってきたぞ?
「迷子だそうです」
「迷子かよ!」
すげー神経使ったわ!
ムダに疲れたわ!
「おいこら。あんたは何で話しかけてこなかったの?」
「だどもおっかねえ魔物さ蹴散らしてるんだもの……」
「どこの田舎もんだ!」
「わ、わかんねえだ」
「何でこんなところにいるの。ここ魔境だぞ? わかると思うけど、魔物が強くてメッチャ危ないんだぞ?」
「んだすけ……」
転移とは原則的に、先に目印となるものがある場合か、自分と先の位置関係がわかっている場合にしか行えないものらしい。
ところがこの田舎もん精霊は……。
「……要するに、魔物に脅かされてランダム転移したらここに来た、と」
「んだ」
「今までどこにいたかわかんないから帰れないのか。困ったねえ、自分の住処には目印置かないものなんだ?」
「必要なかっただ。今度から注意するだ」
「今度がないじゃん」
うなだれる砂色の精霊。
しょうがないなー。
「あんた、ついて来なさい。どっちにしろこんなリゾート地にいるわけにいかないんだから」
「リゾート地?」
「美少女精霊使い的ジョークだとゆーのに。で、一緒に行く?」
「え、いいのけ?」
「クララ、全速『フライ』でベースキャンプに帰ると危険かな?」
飛行魔物も少なくないからどうだろう?
スピードは魔物よりクララの全速『フライ』の方がうんと早いと思うけど。
「かなり操作には慣れました。問題ないかと」
「お願いできる?」
「はい、フライ!」
特急でベースキャンプへ飛んで戻る。
「ただいまー」
「あれ、ユーラシアさん? お帰りなさいませ」
意外そうなオニオンさん。
「直接ホームに戻るという話ではなかったですか?」
「ちょっと緊急事態なんだ。迷子の精霊拾っちゃった」
「は?」
羽を持つ砂色の精霊を見て納得したらしい。
「五人だと転移の玉使えないからさ、少しの間この子預かっててよ。すぐ戻るから。あんたもわかった? 不安なことはわかってるけど、フラフラ出歩くんじゃないよ」
「あ、あい」
転移の玉を起動し帰宅する。
◇
「疾風の精霊ハヤテだべ。よろしゅう」
ベースキャンプへ取って返し、迷子君をうちまで連れてきた。
お茶飲んだらちょっと落ち着いたらしい。
魔物もいないしな。
「で、これからどうする? 当てはないんだよね?」
「あい」
「近くに『精霊の友』と精霊の暮らす村があるんだ。連れてってあげるから、そこに身を寄せなさい。気に入れば住めばいいし、嫌なら出てゆけばいい。少なくとも魔境で狂暴な魔物にビクビクしてるより何万倍もマシだわ」
「わかっただ」
「あたしハヤテと灰の村行ってくるよ。あとよろしく」
「「「了解!」」」
精霊ハヤテと話をしながら、灰の民の村への道を急ぐ。
「まああんたは喋れない子ではないし」
「ユーラシアさんとは話せるだ。でもあのタマネギとはムリだっただ」
ははあ、精霊ハヤテの目から見てもオニオンさんはタマネギらしい。
愉快だな。




