第405話:レジャー感覚で魔境
ベースキャンプを出て真っ直ぐ北へ。
魔境中央部から北辺に至るルートだ。
最近このルート取ること多いな。
「でさ、イシュトバーンさんたらひどいんだ。当てる可能性の高いやり方はなくもないとか協力しようとか言ってたクセに、あたしに丸投げだったんだよ」
「ユー様が売り子ですか。御苦労様ですねえ」
「本当だよ。苦労はいつもあたしのところへ巡ってくるんだけど」
「ビコーズ、心掛けがグッドだからね」
「おお? ダンテ言うじゃないか」
アハハと笑いながら新経験値君クレイジーパペットを片付ける。
レベルカンストしているにも拘わらず、こいつの先手は取れないんだよな。
逃げすに戦闘になると、絶対に『フレイム』を食らってしまう。
藍珠と透輝珠を必ずドロップするいい子だけれども。
「リフレッシュ!」
「ボスは予定通りになる気がしないって言ってたね」
「ん? 今日の服屋オープンの話まだ聞きたいのか」
「あっしもフラグになるだろうなあと思ってやしたぜ」
「あんた達もひどいなあ。あたしの平穏無事を祈ってておくれよ」
笑いながらザコどもを駆逐していく。
そこのけそこのけあたし達が通る。
「セレシアさんのお店は大丈夫ですか?」
「今日の様子見る限りは。でも不確定要因も多いから」
「戦争でやすね?」
無言で頷く。
一番大きい要因はそれだ。
レイノスの被害が大きくなければいいが。
「デカダンスね」
「この辺で真経験値君が二体出るのは珍しいね」
北辺西のパラダイスゾーンでは二、三体同時出現もよくあるが、ドラゴン帯でデカダンスはほとんど単体で出現するのだ。
掃討戦の時は苦労したもんだが、現在のあたし達にとってはリスクなく倒せて魔宝玉を落としていくありがたい魔物だ。
「薙ぎ払い!」
「あ、両方とも黄金皇珠ドロップしてます!」
「ラッキーだなあ。よく働いたあたしに対して、神様からの御褒美に違いないよ」
「「「……」」」
「『悪』は余計だ」
「「「!」」」
まったくもー、うちの子達が三人揃って『悪運じゃないか』って考えてやがる。
わかるんだぞ? そーゆーの。
『閃き』持ちになったことも関係してるんだろうな。
「セレシアさん達と一緒に、アレクとケスも来てたんだよ」
「ボン達が?」
「あたしに会いたかったに違いないよ。可愛いやつらめ」
「お使いは無事にこなせそうでしたか?」
ちゃんと本を買ってきてくれるかクララは心配なのかな?
大丈夫だぞ。
「イシュトバーンさんが本屋で地図を買えって言っててさ。配達員が使う、店とか家主の名前が書いてあるレイノスの地図。あれは便利だわ。何回かレイノスに来れば、すっかり店を覚えると思うよ。あたしも一部買った」
レイノスにはなかなかうちの子達を連れていけないなあ。
街中は人が多いから、やっぱり精霊には厳しい環境だ。
せいぜいイシュトバーンさん家くらいだな。
「サイクロプスね」
ドラゴン帯の高級巨人の中では一番出現率が高いやつだ。
「『巨人樫の幹』は数がまだ足りてないんだったよね?」
「はい」
「雑魚は往ね!」
ドラゴン帯より内部に現れる高級巨人は、レア素材『巨人樫の幹』をドロップする。
海の女王のところに持っていくために欲しかったので嬉しい。
「お魚獲りはどうだった?」
「『サンダーボルト』一発でも、フィッシュがメニーメニー浮いてくるね。レベルがアップしたからだと思うね。パワーが強過ぎるかもしれないね」
「だよね。食資源保護の観点から、獲り過ぎはよろしくないな」
「波が小さければ『フライ』で問題なく回収できます」
「ふむふむ」
雷魔法の威力と波が問題か。
「チュートリアルルームでプチ系魔法のスキルスクロール売り始めたんだったな。今度『プチサンダー』のスクロール買ってこようか」
「いいでやすね」
「誰が覚える?」
「「「は?」」」
「ダンテは雷魔法に慣れてるだろうけど、クララが覚えれば一人で魚獲ってこられるでしょ?」
「姐御やあっしが習得する選択肢は?」
「意表を突いてみるとゆー手がなきにしもさもありなん」
「何ですか、それ?」
「ミーが覚えるね!」
「おおう? ダンテが積極的なのは珍しいな」
ダンテ謎の拘り。
魚の電撃漁法が好きなのかもしれないな。
「グリフォンね」
「これまた珍しいね」
ドラゴン帯まで初めて来た日、デカダンス戦直後に襲われたので印象は強いのだが、実は滅多に出現しない魔物である。
あの日にドラゴンスレイヤーになったんだったか。
遠い昔のことのようだ。
違うわ!
記憶力が減退してるわけじゃないわ!
「雑魚は往ね!」
「何もドロップしやせんね……」
「グリフォンの羽毛は高級布団の材料になるとか。ギルドでは引き取ってもらえないかもしれませんが、レイノスでしたら売れるのかも?」
「ふーん? じゃあ持っていこうか」
でもすぐ諦めた。
作業途中で他の魔物に襲われるのは根性で何とかするにしても、羽毛がかさばるかさばる。
専用のデカい袋かなんか持ってこないとダメだわ。
「グリフォンの羽毛は今後の課題だなー」
「そうですねえ」
イシュトバーンさんに聞いてみよ。
苦労する割に安かったら嫌だし。
さらに北へゴー。
「あ、ニンニクです」
「掘っていこう」
魔境はどういうわけかあちこちで気候が違う。
このニンニクは涼しいところ向きで、うちで育てるのは難しいってクララが言ってたな。
まあ持って帰って干しておけば保存が利く。
「ショウガはうちでも育てられるんだっけ?」
「水加減が難しいですけど、育てられますよ」
「欲しいな。ショウガの味は他で替えが利かないわ。どこかに生えてないかな?」
「魔境では今まで見ていませんね。温暖な気候を好む植物ですから、あるとすれば北辺東でしょうか?」
同じ北辺でも、あたし達のよく来る西側は比較的冷涼だ。
「焼き肉のタレをどうにかしたい。砂糖とニンニクは手に入るとして、ショウガが割と難問なんだよね」
なくもないのだが、ドーラではあまり作られていないっぽいのだ。
以前サフランが持ってたな。
あれどこで手に入れたんだろ?
醤油の生産がどうなってるかも聞いておきたいし、一度黒の民の村行ってこようかな。
アトムがチラチラ後ろを振り返りながら言う。
「姐御、気付いているかとは思いやすが……」
「うん、気付かないフリしてるからスルーして」
「「「了解」」」
何事かって?




