第401話:のっしのっし
上機嫌なイシュトバーンさんが続ける。
「で、もう一人の小さいのは?」
「アレクは本の虫だよ。灰の民の村には図書室があるんだけどさ。いつもそこにいる子。昔からあたしと波長が合うんだ」
意外そうだね?
「本の虫なのにあんたと波長が合うのか?」
「何で逆接なのかな? あたしだって図書室にはよく昼寝に行ってたから」
「ハハッ、そういう関係かよ」
「本は硬過ぎてあんまり枕に向いてないとゆーのはあたしの持論だけれども。アレクは灰の民の村の元族長デス爺の孫なんだよ」
「ほう、デスさんの孫か」
玩具が増えたぜ、みたいな顔だね。
気持ちはわかる。
「結構なレベルじゃねえか」
「わかる? アレクは体力なんかないから、レベル上げして輸送隊として働けるようにしとこうかと思ったんだ」
「え? 上級冒険者くらいのレベルじゃなかったか?」
「他の輸送隊員もレベル上げする予定なんだ。世界最強の輸送隊にしようかと思って」
「世界最強の……」
何か気付いたかな?
ニヤッとえっちな目を向けるイシュトバーンさん。
「今日はムリか。今度あの二人オレの家に寄越せよ」
「うーん、輸送隊の都合があるから難しいかな」
「あんた、融通利かねえのかよ」
「利かないことないけど、あんまり口出しちゃよろしくないでしょ。あたしが統括してる組織じゃないんだから。わかるでしょ?」
「残念だなあ」
結成されたばかりの組織だから結束を大事にしたいんだよ。
一部隊員が贔屓されてると、他の人が面白く思わないかもしれないじゃん。
でもイシュトバーンさん、マジでつまんなそうだな。
あの二人がとゆーより、愉快なイベントが欲しいんだな?
「じゃあ輸送隊メンバー一四人、全員招待すればいいじゃん」
「いいのかよ?」
「もちろんだよ。元大商人で今もレイノスに隠然たる勢力を誇るイシュトバーンさんだったら、輸送隊もよろしくしたいに決まってる。招待されたとなれば、大喜びで来るよ」
「おお、楽しみだな。他の隊員に面白えやつはいるかい?」
「面白いかはともかく、全員固有能力持ちだよ」
「全員が固有能力持ち?」
だからえっちな目で探り入れるのやめろ。
「どういう意図があって?」
「荷運びなんだから盗賊に襲われることもあり得るでしょ? 魔物も出ないとは限らないところだし。だから隊員は一定水準までレベルアップさせておきたいんだ。どうせレベルアップするなら、固有能力持ちの方がお得だから」
「ほう?」
ニヤニヤするイシュトバーンさん。
帝国戦の際、カラーズの自衛戦力として考えていることに気付いたんだろうなあ。
「それが世界最強の輸送隊か」
「まあね」
「やるじゃねえか。ま、今度詳しく話せよ」
「うん」
着いた。
中町へ続く階段の下の一等地だ。
確かに服屋やるのにこれ以上の立地はレイノスにないだろうな。
「掃除はしておいたから、商品並べりゃすぐ店は開ける」
「まあ、ありがとうございます!」
セレシアさんの心は既に店に飛んでいるようだ。
イシュトバーンさんお付きの女性がカギを開け、それをセレシアさんに渡す。
「さあ、手早く準備しましょう」
スタッフ達を動かす。
「新聞社に声かけといたから、取材に来ると思うぜ?」
「お世話かけます」
「イシュトバーンさんの言ってた、当てる可能性の高いやり方ってのは新聞のこと?」
ニヤッとする。
違うらしい。
嫌な予感がする。
「あんたが売り子やればいい」
「え?」
えええええええええっ!
ちょっと待った、セレシアさんが期待の目で見てるけど!
「ファッションのことはわかんないってばよ」
「でもこの店の問題点はわかるだろ?」
「んーまあ女の子のお客さんしか来ないだろうな、とは思った」
「それだぜ」
セレシアさんが売りたいファッションは理解できる。
スタッフである売り子の女性達の服装だ。
でもおゼゼ持ってる女の子って少ないだろうからな。
成人男性を寄せないと商売としては厳しいのではないか?
定番品で男性に質の良さをアピールしつつ、プレゼント品として女性服を買わせるようにしないと。
「ゆ、ユーラシアさんが売り子をすれば男性が集まる?」
「男殺しだぜ、こいつは」
ひどいことを言う。
名誉棄損だ。
「ユーラシアさん、手伝ってくださいます?」
縋るような目で見るなよ。
仕方ないなあ。
「じゃあ、手伝うよ」
「やったぜ! じゃあ精霊使い用の衣装を用意してくれ」
「はい。シックで中性的なのがいいですね」
「お、わかってるじゃねえか」
何かポンポン決まってくけれども。
どーしてイシュトバーンさんが大喜びなんだろ?
あたしをエンターテインメントの歯車に組み込まないでよ。
「女の子っぽいやつの方が可愛くない?」
「ワンポイントで使うならともかく、トータルコーディネートでガーリーに寄せるのは、ユーラシアさんに似合いませんわ」
「あんたの歩き方は特徴的だしな」
歩き方?
特徴的なの?
大股って言われたことはあるな。
「あたしの歩き方どんな感じ?」
「「のっしのっし」」
超絶美少女に相応しくないオノマトペキター!
マジか?
「自信に満ち溢れた歩き方ですわよ?」
「躍動的だから歩幅が大きい、白い精霊の早さに合わせてゆっくり歩く。で、あの独特な歩法になるんじゃねえかな」
「そーだったのか」
全然気にしたことなかったわ。
自分じゃわからんもんだ。
「参考のため、私も見物させてもらいますね」
おい、ラルフ君パパ『見物』って言っちゃってるから。
ラルフ君パーティーも物見遊山モード入ってるから。
「ただ今戻りました!」
「お、小僧達来たか」
アレクからお釣りと地図を受け取る。
あ、ケスも本を持ってくれてるんだな。
「ここはすぐわかったか?」
「はい、問題なかったです」
イシュトバーンさんが目を細める。
「……どうしたの? ユー姉がぼうっとしてるのは珍しいね」
「姐さん、隙だらけに見えるぞ?」
「うーん、展開が急で……」
こーゆーのはいつもあたしが手綱握る方なんだが、流されるのは初めてかな。
主導権を取れないのはどうにも落ち着かないけど。
ま、セレシアさんの店に協力したい気持ちは人一倍あるから。
「小僧達よ、今度レイノスに来た時、輸送隊全員をオレん家に招待してやるから、隊長にそう伝えておけ」
「輸送隊員はもう一人年長者がいるよ」
セレシアさんについてきた青の民輸送隊員を呼ぶ。




